「スマホ専用トイレットペーパー」は、日本人のスマホに対する刹那的愛情の現れか?

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成田空港に「スマホ専用トイレットペーパー」が設置されたという話を聞いた時には、ちょっと意味が分からなかったのだけど、よく読んでみれば、NTTドコモが、プロモーションを兼ねて成田空港の到着ロビーのトイレ86ヶ所に、スマホ画面を拭くためのトイレットペーパー型の紙を設置したということだった。空港でのwifi設定情報などが印刷された、トイレに流して捨てることができるロールペーパーという訳だ。もはや、トイレでスマホを見るのも、世界的に当たり前になってきているんだなあと思いつつ、そこで画面を拭かせるというのは、悪いアイディアではないとも思った。「まあ、落ち着いて画面でも拭けよ」と、旅行者に語りかけるわけで、これは自分がやられたら結構嬉しいんじゃないかと思うのだ。海外旅行ではスマホは命綱だけに、使うのに追われて画面を拭くことなんか後回しにしがちだから。


だからこれは、日本人の清潔好きというのとはちょっと違う。むしろ、日本人のスマホ可愛がり好きの方向の表れの一つじゃないかと思う。何しろ、携帯型のデジタルデバイスをケースに入れるというスタイルを発見したのは日本人なのだ。iPhoneの前身、アップルのiPodというデジタルオーディオデバイスがヒットする前、登場直後に、既に革製のケースを作ったのは日本のメーカー。現在、rethinkという革製品のブランドを立ち上げている方がデザインしたものが、最初の製品だと言われている。また、今では世界中で標準装備のように使われているシリコンカバーも、スマホの背面に取り付けるカバーも、全て、日本で発明されたのだ。そもそもデジタルオーディオプレイヤー専用の無電源スピーカーだって、スマホ用スタンドだって、日本のバード電子が世界で最初に発売したもの。
 

この「本当に必要かどうかは微妙だけれど、それを使うとデジタルデバイスがちょっと楽しくなる」物を開発させると、とても得意な人が日本には沢山いて、そういうものが大好きな人も沢山いるのが日本という国らしいのだ。スマホのサイズぴったりに縫製された革製のケースとか、スマホと一緒に持ち歩くためのイヤフォン用ポーチとか、スマホの裏に貼り付けて、取り落とさずに楽に画面を見るための革製の把手とか(この「TOTTE」という製品を作ったのもバード電子だ)、ストラップ穴の無いiPhoneのためのネックストラップとか、代々木公園の芝生を再現した人工芝を貼ったケースとか、楽器アプリ演奏用のギター型のスピーカー内蔵ケースとか、そういうものを作る人がいて、買う人がいて、それが、デジタルデバイス黎明期からずーっと続いて、今の、とにかく膨大な種類のケースがあり、そこら中に充電用コンセントを備えたカフェがある日本が出来上がっている。
 

だから、別に「スマホ専用トイレットペーパー」にだって、いちいち驚いたりはしないのが、日本のデジタルデバイス好きというものだ。iPhoneが最初に登場した時、ガラケーに比べて全然便利じゃなかったのに、とにかくそれが使いたくて、不便な部分は、ケースや、周りから見ると頭がおかしいと思われるような不思議な周辺機器を作って、無理やりにでも「便利」ということにして使っていた沢山の人たちが、この不思議な文化を作り上げた。それが、普通に学生や子供、老人にも波及して、その頃作られた、巨大で持ちにくいけど可愛くないわけでもないケースとか、スクリーンを拭くためのクロスが内蔵されているケースみたいな製品を普通に使っているのだから、スマホを愛でたい文化は、日本人の多くの人が潜在的に持っているものだったのだ。
 

スマホも含め、デジタルアイテムというものは、あっという間に陳腐化する。長く使えるものではないと、どこかで感じながら使う切ないツールだということを、日本人はとても正しく認識しているのだ。その刹那の、しかし使っている間は手放せない相棒に対して、常に別れを意識しているから、なるべく綺麗に持ちたいし、綺麗に使いたい。井伏鱒二も言っている。「花に嵐の例えもあるぞ、さよならだけが人生さ」。この切なさを、「スマホ専用トイレットペーパー」を使った外人観光客がトイレの中でふと感じられるなら、それは日本らしいおもてなし。それはともかく、そのトイレットペーパー欲しいぞ。

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