【中年名車図鑑|2代目いすゞ・ジェミニ】パリの街をアクロバティックにダンスした“街の遊撃手”

車・交通

大貫直次郎

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が開催中ということで、今回は野球にちなんだ“街の遊撃手”というキャッチコピーで人気を博した2代目いすゞ・ジェミニ(1985~1990年)で一席。

 

2代目ジェミニはクリーンでシンプルなデザインとキビキビした走りが印象的だった


【Vol.8 2代目いすゞ・ジェミニ】


1971年より始まったGMとの大規模な提携は、資本強化や海外進出の面でいすゞに大きなメリットをもたらしたが、一方で重大なデメリットも発生した。「トラックと上級スペシャルティカーのピアッツァ(シャシー関連は初代ジェミニと同様にGMのTカーがベース)以外にオリジナルのクルマがない」という日本市場での悪評である。かつてはベレットや117クーペという名車を生み出した“御三家”の名門メーカーの開発陣にとって、これは大きな屈辱だった。

 

 

■ヨーロピアン感覚のキビキビした走りが身上


1985年5月、いすゞの開発陣の思いがこもったオリジナル作が登場する。駆動レイアウトをFF方式に一新し、かつボディサイズをコンパクト化した2代目ジェミニ(JT型系。当初はFFジェミニを名乗る)だ。商品コンセプトは“クオリティ コンパクト”。具体的には、クリーンでシンプルなデザイン、ヨーロッパ感覚の快適なインテリアスペース、しなやかで俊敏な走り、すみずみまで気を配った品質、といった内容の実現を目指していた。


ハード面はすべて独自の設計で、エクステリアの基本デザインは盟友のジョルジェット・ジウジアーロが手がける。ボディタイプは4ドアセダンと3ドアハッチバックを設定。2タイプともにフラシュサーフェス化を実施したうえで、スクエアタイプのヘッドランプを配した端正なフロントマスクや広いグラスエリア、伸びやかでシンプルなサイドライン、高品質かつ安定感のあるリアセクションなどで仕立て、独特のヨーロピアンテイストを醸し出す。とくに、トランク部の突き出しを短めにしたセダンのスタイリングは、当時の国産コンパクトセダンのなかで異彩を放った。一方で内包するインテリアは、シンプルかつ高品質なデザインで構成。また、メーター左右に配したクラスタースイッチ(ライトおよびワイパー類)やモダンファニチャー感覚のニューテックシートなど、独自の演出も光っていた。

 

搭載エンジンは肉薄のシリンダーブロックや鋳造中空クランクシャフトなどで軽量化を追求し、同時に量産1.5リットルクラスでは初の2本ピストンリングを採用した新開発の4XC1型1471cc直列4気筒OHCガソリンユニット(86ps)の1機種でスタートし、同年11月にはディーゼルユニットの4EC1型1487cc直列4気筒OHC(55ps)と4EC1-T型1487cc直列4気筒OHCターボ(70ps)の2機種をラインアップに加える。組み合わせるトランスミッションは5速MTとロックアップ付3速ATのほか、1986年4月にはコンピュータ制御5速ATのNAVi-5を設定。懸架機構にはフロントにマクファーソンストラット式を、リアにコンパウンドクランク式をセットした。


「小さいけれどヨーロピアン感覚の、おしゃれでキビキビした走り」のクルマというキャラクターを象徴して、“街の遊撃手”というキャッチコピーを冠したFFジェミニは、デビューから7カ月ほどが経過した1986年の正月より新しい広告戦略が展開される。パリの街並みをFFジェミニがアクロバティックに疾走する“ジェミニ ダンシングシリーズ”のCF放映が始まったのだ。カースタントを担当したのは、映画の007シリーズでカーアクションを手がけていたフランスのRemy Julienne(レミー・ジュリアン)アクションチーム。彼らはFFジェミニを駆って2台そろった片輪走行や2台ペアのスピンターン、ジャックナイフ、クロスしたジャンプなど、多彩かつ驚異的な走りを披露して視聴者の大注目を集める。また、「現状復帰を条件に壁などをぶち抜いても結構」という公団の許可を得て行ったパリの地下鉄での走行シーンは、視聴者のみならずいすゞ関係者も仰天したそうだ。

 

 

■イルムシャーとハンドリングbyロータスで独自のポジションを確立


久々のいすゞオリジナル乗用車として市場に放たれたFFジェミニ。しかし、この渾身作も結果的にはGMの小型車戦略“Rカー”に組み込まれることとなる。北米市場ではシボレー・スペクトラムなどの名で販売され、後にオーストラリアなどへの輸出も行われた。

 

86年に登場した「FFジェミニ・イルムシャー」。専用エアロパーツ、レカロシートを標準装備する


一方でいすゞの開発陣は、FFジェミニの独自性を保つための改良を積極的に実施していく。まず1986年5月には、ドイツのチューニングメーカーであるイルムシャーが足回りなどをセッティングした「FFジェミニ・イルムシャー」を発表。搭載エンジンは新開発ガソリンユニットの4XC1-T型1471cc直列4気筒OHCインタークーラーターボ(High120ps/Low105ps)で、専用エアロパーツや前ベンチレーテッドディスクブレーキ、レカロ製シート、MOMO製本革巻きステアリングなどを標準で装備していた。


1987年2月にはマイナーチェンジを実施して一部内外装の意匠を刷新。同時に、車名をFFジェミニからジェミニに切り替える。5月には電動キャンバストップを備えたユーロルーフを追加し、さらに特別仕様車のイルムシャーRSを発売。6月には、競技用ベースモデルのイルムシャーRをリリースした。


1988年3月になると待望のツインカムモデル、「ジェミニZZハンドリングbyロータス」がデビューする。搭載エンジンは1気筒当たり4バルブのDOHCヘッドにセンタープラグによるコンパクトなペントルーフ型燃焼室、カムが直接バルブを駆動するダイレクトカム駆動方式、バルブクリアランスを常に適正に保つハイドロリックバルブリフターなどの新機構を取り入れた新開発の4XE1型1588cc直列4気筒DOHC16Vユニットで、パワー&トルクは135ps/14.3kg・mと当時の自然吸気テンロククラスの最強レベルを誇る。また、懸架機構はグレード名の通り、英国のロータスがチューニングを担当。さらに、専用エアロパーツや5J-14アルミホイール+BSポテンザRE88タイヤ(185/60R14)、レカロ製シート、MOMO製本革巻きステアリングといったスポーツアイテムを標準で組み込んでいた。ちなみに、4XE1型エンジンはその後、同社のジェミニ・イルムシャーや提携関係にあったロータスのM100型系エランにも採用された。


1989年2月には再度のマイナーチェンジが行われ、内外装の一部デザインを変更する。そして、1990年3月には第3世代のデビューに伴い販売を終了。総生産台数は74万8216台を記録した。


あっ、もうひとつ、2代目ジェミニに関する忘れられないトピックを。実は2代目ジェミニにはファンのあいだで幻といわれる中古車が存在する。ベースモデルを特別架装したユーズドカー、ジェミニ・ワカムシャー(Wakamscher、若武者)だ。企画したのはいすゞ中古自動車販売株式会社で、1980年代終盤から販売を手がけた。当時のスタッフは、「ドレスアップした中古車を作ることが決定して、それならネーミングも凝ろうということになって。イルムシャーのムシャーを日本語の武者と解釈し、色々な武者を造りました」と語る。ちなみに、ビッグホーンの特別仕様中古車はアラムシャー(Aramscher、荒武者)、アスカの特別仕様中古車はカゲムシャー(Kagemscher、影武者)、ピアッツァの特別仕様中古車はムシャブルイ(MscherBlue、武者震い)と名乗っていた。

 

 

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