【中年名車図鑑|5代目・日産シルビア】なぜ「S13」は大人気モデルになりえたのか?

車・交通

大貫直次郎

日産のスペシャルティカーの雄として長いあいだ君臨してきたシルビア。しかし1980年代中盤になると、魅力的なライバル車の台頭によって、その存在感が希薄なものになっていた。一念発起した日産自動車の開発陣は、次期型のスタイリングと走りを、徹底的に磨き抜く方針を打ち出す――。今回は“ART FORCE”のキャッチを冠した5代目シルビア(1988~1993年)で一席。

 

88年に登場した5代目シルビア。クルマ好きの間では「S13」の愛称で親しまれ、歴代シルビアのなかで、もっとも人気を集めた

 

【Vol.10 5代目・日産シルビア】

 

初代のCSP311型はエレガントな高級スポーツクーペ、2代目のS10型以降はスペシャルティカーとしてのキャラクターを前面に押し出したシルビア。日産の車種ラインアップのなかでは小型スペシャルティとしての確固たる地位を築いていたものの、4世代目となるスポーツ志向のS12型(1983年8月デビュー)では2代目ホンダ・プレリュードや4代目トヨタ“流面形”セリカといったデートカー的な要素の強いライバル車たちの影に隠れ、市場での注目度は今ひとつに終始していた。

 

 

 ■スペシャルティカー分野での復権を目指した


これからのスペシャルティカーは、初代のCSP311型のような“デザインの美しさ”とS110/S12型で主張した“走りの楽しさ”の両面を、高いレベルで併せ持ったモデルでなければならない――。そう判断した日産の開発陣は、次期型シルビアの商品テーマを「走りが楽しい2ドアスタイリッシュクーペ」と位置づけた。

 

 

この流麗なサイドビューがS13最大の魅力。「エレガントストリームライン」と称されるこのデザインは、クーペのスタイリッシュさとFRマシンのスポーティさをうまく表現していた


スタイリングに関しては、曲面と曲線で構成したワイド&ローのフォルムを基本に、エレガントで流麗なエクステリアの構築を目指す。最大の特長は、車体を横から見た際にフードからウエストライン、トランクリッドへと連続して緩やかなS字の孤を描く“エレガントストリームライン”で、この造形によりサイドビューの伸びやかさと華やかさを演出した。また、フェンダー部は抑揚のあるグラマラスな形状に仕立てて走りのクルマらしいボリューム感を実現する。ほかにも、3次曲面ガラスを使って斬新さを主張したカプセルリアウィンドウや透明樹脂を採用して左右のヘッドランプとの連続性を持たせたクリスタルグリルなど、全ビューにわたって工夫を凝らした。


内包するインテリアについては、インパネからコンソール、ドアトリムにいたるまでを一体曲面構成とし、前席乗員を柔らかく包み込むエレガントなキャビン空間を創出する。加えて、曲面と曲線でアレンジした一体成型のモダンフォルムシートを装着した。さらに、車速をフロントウィンドウ右下方にデジタル表示する“フロントウィンドウディスプレイ”やフロントスピーカーに専用アンプを組み込んで車室内の音質特性を最適化する“電子制御アクティブスピーカー”といった先進アイテムも積極的に取り入れた。

 

曲面と曲線を巧みにつかった、ラウンディッシュな室内も特徴だった。大きくスラントしたインパネと高めのセンターコンソールで囲まれ感のあるコクピットを演出


シャシーに関しては、FRレイアウトによるコントロール性の高さやリニアな操舵フィールを最大限に活かすため、リアサスペンションに新開発のマルチリンク式を採用する。複数のリンクの組み合わせによってタイヤの動きを最適に制御する専用セッティングのこの新機構は、新世代スペシャルティにふさわしいしなやかな乗り心地と卓越した操縦性をもたらした。さらに開発陣は、日産自慢の4輪操舵システムである“HICAS-Ⅱ”を新シャシーに組み込む。ステアリング操作に応じて横Gと加速を感知し、電子制御でマルチリンク式リアサスのタイロッドを左右に動かして後輪を最適な量とタイミングで前輪と同方向に操舵(最大1度)するHICAS-Ⅱは、新シャシーの高いポテンシャルと相まって、いっそうスポーティなハンドリング性能を発揮した。


動力源については、コンパクトでハイレスポンスなCA型系の直列4気筒エンジンを搭載する。排気量は1809ccで、ヘッド機構にはDOHC16Vを採用。インタークーラー付きターボ仕様はCA18DET(175ps/23.0kg・m)、自然吸気版はCA18DE(135ps/16.2kg・m)の型式を名乗った。組み合わせるトランスミッションには、5速MTのほかにホールドモード付きのフルレンジ電子制御式4速ATを設定。ほかにも、CA18DET型エンジン仕様にリアビスカスLSDを、全車に4WAS(4輪アンチスキッド)の電子制御式ブレーキシステムをセットした。

 

 

■“ART FORCE”の名に恥じないスタイリング


デートカーとしての性格を強めた第5世代となる新しいシルビアは、S13の型式を名乗って1988年5月に市場デビューを果たす。ボディタイプはシンプルに2ドアクーペのみの設定。キャッチコピーには“ART FORCE”と冠し、芸術的なスタイリングと力強い走りを併せ持つ新世代スペシャルティカーであることを声高に主張した。また、グレード名についても工夫が凝らされる。車種展開は上位からCA18DET型エンジン搭載のK's、CA18DE型ユニットを積むQ's、ベーシック仕様のJ'sを設定。このネーミングは、トランプのキング/クイーン/ジャックに由来したものだった。
 

市場に放たれたS13型系シルビアは、そのスタイリングの流麗さやFRならではの走りの良さが高い評価を受け、たちまち大ヒットモデルに昇華する。CFでのセンスのいい映像とBGM(プロコル・ファルム『A Whiter Shade of Pale(青い影)』)も、販売の伸びに拍車をかけた。


デビューから2カ月ほどが経過した1988年7月、S13型系シルビアをベースにしたユニークな車種が登場する。日産の関連会社であるオーテックジャパンが開発し、高田工業が製造を手がけた「シルビア・コンバーチブル」だ。K'sグレードのAT仕様をベースに、電動開閉式の幌とスチールカバー付き幌格納スペースを備えたコンバーチブルは、カスタムカーの範疇を超えたスタイリングのまとまりの良さや幌開閉機構の完成度などが高い評価を獲得した。

 

K'sのAT仕様をベースにした「シルビア・コンバーチブル」。電動開閉式の幌とスチールカバー付き幌格納スペースを備える

 

■MCで2リットル化、エクステリアも進化する


日産製スペシャルティカーとしては久々のスマッシュヒットとなったS13型系シルビア。その勢いをさらに増そうと、日産は同車の車種展開の拡大と改良を相次いで行っていく。


1990年2月には、既存モデルの装着オプションで人気の高かったアイテムを標準装備化し、そのうえで価格を抑えた“ダイヤセレクション”シリーズを発売。1991年1月になると、最初のマイナーチェンジを実施する。最大の注目ポイントはエンジンの換装で、従来のCA18DET/CA18DE型からSR20DET型1998cc直列4気筒DOHC16Vターボ(205ps/28.0kg・m)/SR20DE型1998cc直列4気筒DOHC16V(140ps/18.2kg・m)に一新された。さらに、HICAS-Ⅱは進化版のSUPER HICASに変更。内外装では3連プロジェクターヘッドランプや翼形状リアスポイラーの装着、シート形状の見直しなどが行われた。1992年1月には、シルバーポリッシュアルミホイールや専用エンブレムなどを装備した“クラブセレクション”シリーズが登場する。同年12月には、ベーシックグレードのJ'sにエアコンや電動格納式ドアミラーなどの快適アイテムを装備した“オールマイティ”が発売された。
 

写真の前期型は、NAのQ‘s、ターボのK‘sともに1.8リットルユニットだったが、91年以降の後期型から2リットルユニットに換装された

 

ホンダ・プレリュードやトヨタ・セリカ/カリーナEDの牙城を打ち破り、小型スペシャルティカー市場を34カ月連続で制覇するなど、大人気モデルに昇華したS13型系シルビアは、当時としては長い5年5カ月あまりに渡って販売され続け、1993年10月になってようやく6代目となるS14型系にバトンタッチする。しかし、モデルチェンジ後もS13型系の注目度は衰えなかった。S14型系が3ナンバーボディに移行し、しかもスタイリングが大人しかったことから、S13型系が走り好きを中心に再評価されたのだ。日産渾身の小型スペシャルティカーは、ユーズドカーになっても異例の高い人気を保ち続けたのである。

 


■走り屋がこぞって乗った“シルエイティ”とは?


ところで、S13型系シルビアには基本コンポーネントを共用するRS13型系180SX(ワンエイティ・エスエックス。1989年3月発表)という兄弟車が存在したが、1990年代に入ると180SXにシルビアのフロントマスクを移植する変わったドレスアップ手法が流行った。きっかけは事故によってフロント部を破損させた180SXのユーザーが、パーツ代が安く済むうえに軽量化も図れるシルビアのフロントセクション(リトラクタブル式ヘッドライトの180SXに対し、シルビアはシンプルな固定式ヘッドライトを採用していた)を装着したことに由来するといわれている。


同様の修理方法は、走り好きのあいだではAE86型系スプリンター・トレノに同型のカローラ・レビンのフロントセクションを移植する手法ですでに実践済だった。完成した改造版180SXのスタイリングは、ハッチバックのリア部に固定式ヘッドライトのマスクが見事にマッチし、流麗な2ドアクーペのシルビアとは一味違ったシャープな印象を醸し出していた。この改造モデルは、やがて“シルエイティ”と呼ばれるようになり、コミックやプラモデルの題材に使われるほどの注目モデルに発展する。また、シルビアをベースに180SXのフロントマスクを移植する改造車も出現し、このモデルは“ワンビア”“エイシル”などという呼称で親しまれることとなった。

 

 

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