『GU』のCM「盗んだバイクで走り出す〜♪」は子どもに悪影響を与えるか?

出典:CM『GU スカンツ&マキシスカート 「キックスケーター」篇』より

ファッションブランド『GU』が今年3月に公開した

 

「人気女優の波瑠・香椎由宇・山本美月が尾崎豊の大ヒット曲『15の夜』の一節を歌いながらキックスケーターに乗って走るテレビCM」

 

が物議を醸しているらしい。

 

問題となっているのは、上記した3人の可愛らしい女子たちが歌っている「盗んだバイクで走り出す〜♪」といった箇所であり、この刺激的な響きをただよわせる歌詞によって「子どもたちのあいだで『盗みは犯罪!』という認識が薄れてしまうのではないか」と心配する親御さんたちから、BPO(放送倫理・番組向上機構)へと苦情が寄せられたというのだ。

 

当騒動については、6月12日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)でも取り上げられ、番組に出演していた“一家言ある御仁ら”やネット上での反応をザッと見るかぎり、「そこまでナーバスにならんでも…」的な失笑混じりの意見が大勢を占めているようで、“進歩的な考えを持つ識者”でも気取るならこの風潮にあっさり乗っかっちゃったほうが断然ラクなのは承知ではあるけれど、私は今回の件に関してだけは、あえて“少数派擁護”の姿勢を貫いてみたい。「盗んだバイクで走り出したら…やっぱアカンやろ!」と。

 

これが仮に『15の夜』という曲自体に向けた苦情ならば、「アーティストの自由性を阻む愚挙」、少々大袈裟に言えば「芸術への冒涜」だと断固戦うべきであろう。

 

しかし、今回の苦情はあくまでCMに向けられたものであって、「盗んだバイクで走り出す」の箇所だけを切り取り、サンプリングしてしまった時点で、尾崎が『15の夜』で表現したかった「思春期の少年少女が抱く大人社会への鬱屈した反逆心」みたいな美学・哲学的背景はほぼ消え失せ、ただ単に「窃盗によって得たバイクに乗って走行する」だけの……つまり、尾崎をまったく知らない、たとえば現在のU-10世代にとっては、ニュアンスがまったくの別モノとなってしまうのだ。ましてや、CM中でこの曲を歌っているのは若い3人娘であって、尾崎自身でもないのである。

 

となれば、まだ物心つかないお子さんがいるご両親からすると、お目当ての番組の間にランダムなかたちで流されるこのCMが厄介このうえないシロモノでしかないのは容易に推察できる。もし、お茶の間で横に座っている5歳ほどの息子や娘から「パパぁ、盗んだバイクで道を走ってもヘーキなの?」なんて聞かれた日には、「この曲はね、パパがまだ若いころに尾崎豊というヒトがつくった曲でね、“盗む”やら“無免許でバイクに乗る”やらの行為によって、世の中にたくさんあるもっと大きな悪いことをブチこわしていきたいといった“純粋な心”をじつは歌っているんだよ」「じゃあ、“もっと大きな悪いこと”ってなんなの?」「ん〜、おしょくとかさくしゅとか…」と、延々しどろもどろなやりとりを繰り返さねばならないのだ。まるで、野球のルールを全然知らない女子を無理矢理ナイターに誘ったはいいが、ゴロとフライの違いをいちいち説明しなきゃならないようなものではないか。

 

いや、「ゴロとフライの違いをいちいち説明する」ほうが、まだ幾分マシだと私は思う。なぜなら、リメイクされた「盗んだバイク〜」についてを子どもに説明する以前に、尾崎に対して一寸の興味も抱くことができない、尾崎よりは井上陽水の歌詞や布袋寅泰の動きやグレングールドのピアノを愛する、もちろん『15の夜』という曲を最初から最後まで通して聴いたことすら一度もない私自身が、まず尾崎イズムについて、ある程度の“おさらい”をしなければならないからだ。

 

さらに付け加えるなら、大学生のころ、実際に愛車の原付バイク『ラッタッター』を地元の駅前でギられた苦い経験を持つ私にとって、その学習の強制は“苦行”でしかないのである。

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