大人が子供に見せるべき威厳とは

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citrus おおたとしまさ

ちょっと前に「オッス」と声をかけられた中学校の校長がそれに怒って「しばいたろか」と口にしたというしょうもない案件が話題になったが、それを聞いて、私は対照的な話を思い出した。麻布中学校・高等学校の創立者・江原素六の逸話だ。

 

あるとき、生徒の一人が校舎の2階からゴミを投げ捨てた。そこにちょうど江原が通りかかり、目撃した。生徒はこっぴどく叱られるのではないかと覚悟した。江原はゴミに近寄ると、すっと腰をかがめてそれを拾い、何も言わずに持ち帰り、ゴミ箱に捨てたという。

 

たとえば今、これと同じことを普通の大人がしていたら、それこそ「最近の大人は子供を叱れない」と非難の声が上がるだろう。「こういうときこそ子供を叱るのが『良識ある大人』の役割」という「常識」が世の中にはある。

 

しかし江原は違った。

 

誰だって、校舎の2階からゴミを捨てるという行為が良くないことであることはわかっているのである。そこで生徒たちを叱ったところで、先生に見つかってしまったことを悔しく思うばかりで、子供たちの成長にはいくらのプラスにもならないということを、江原は知っていたのだろう。

 

 

だから、叱らなかった。その代わりに、「理由はどうであれ、そこにゴミがあるから拾って捨てる」という人間としての器の大きさを生徒の前に見せつけた。すると、生徒たちは自分の小ささに気付く。「くだらないことをして喜んでいてはいけない。江原のように大きな人間になりたい」と思うのである。

 

そして実際、そのこと以降、生徒たちが校舎の2階からゴミを捨てることはなかったという。

 

子供が大人に威厳を感じるのはそういうときではないかと私は思う。「子供になめられてはいけない」と、つい怒鳴ってしまったりするのは、大人自身に自信がないからではないか。子供を恐れているからではないか。それでは、子供も不幸である。

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