住むヴィンテージ──Part1. 家の美は心の美をつくる

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ひとつは御年52歳、文京区春日の川口アパートメント、もうひとつは御年45歳、渋谷区のホーマット、そしてさらに3つ目は御年43歳の駒場の久米プラザ。いずれも昭和モダニズムが生んだ傑作マンションだ。

 

【春日2丁目のシンボルになった】アパート周辺は、永井荷風が幼少期を過ごした場所としても知られ、いまでも三井家の邸があるといった土地柄。高台の閑静な一等地に建つ。

 

■川口アパートメントに住む建築設計事務所を経営する篠原明理さんに訊く

 

家の美は心の美をつくる

 

東京オリンピックが開かれた1964年に、第1回直木賞作家の川口松太郎氏がオーナーとなって建てたこのマンションは、敷地内に住人専用のプールもあるすこぶる上等なアパルトマンである。ヴェランダやテラスに洗濯物を干せないように各戸に洗濯機用の排水設備はつくらず、フロアごとに業務用のランドリーと乾燥機を設置したこともふくめ、住人に新しいスタイルの暮らしを提案した点で画期的だった。それゆえ、当初から演劇界や文学界、さらには芸能界などのトレンディ・ピープルが住んだのだったが、そのなかには、作詞家の安井かずみさんと音楽家の加藤和彦さん夫妻もいたし、女優の加賀まりこさんや水谷八重子さんもいた。いまでも、住み続けている大女優もいる。

 

「外観は、コンクリートむき出しのベランダとタイルのコンビネーション。高台にあるため、陽射しをうけるとそのコントラストがくっきりとして、威厳が増します。部屋は古いタイルを活かしてリノベーションをしています。ヴィンテージマンションは、外観だけでなく、内部の古い素材も活かして新しいものと融合できるところが魅力です」と、住人の篠原さんはいう。

 

エントランスには高級マンションらしく広々とした車寄せがあり、ミッド・センチュリーな雰囲気のエントランス・ホールに入ると、その壁面に飾られた大きな書が目に入る。いわく、「家の美は心の美をつくる」。建て主の川口松太郎氏がこの「家」への想いを込め揮毫したものだ。「川口さんの想いが、この建物全体に散見できる装飾品や2つある中庭、そして共用部のあり方などから伝わってきます」と、篠原さん。すでに築52年を迎えた「老」アパルトマンは、しかし、エバーグリーンなのだった。

 

【細部に宿る美しきこだわり】住人にひとときの安らぎを与えてくれる中庭は2つある。家の内側から自然の温もりを感じる空間だ。吹き抜けから降り注ぐ光が開放感をつくる。

 

竣工当時のタイルを残して、リノベーションした建築設計事務所の篠原さん宅。古き良きところを残すのは、リノベの常道だ。

 

川口松太郎氏の揮毫。作家の家への強い想いを込めた言葉は、その力強い筆致ともども味わいぶかい。

 

Photos: Michinori Aoki (KAWAGUCHI APARTMENTS),Taro Hirayama
Words: Junya Hasegawa @ america

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