税金を使った地方自治体PR動画に効果はあるのか? “個人動画に勝てない失敗例”と“ひと握りの成功例”の違い

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野本 纏花

出典「宮崎県小林市 移住促進PRムービー "ンダモシタン小林"」動画より

件について、釧路市議会の一般質問で取り上げられたそうです。実際、GoogleやYouTubeで“Kushiro”と検索してみると『Kushiro City, Japan』という個人の動画が最上位にヒットします。この動画の再生回数は9年間で約22,000回と、さほど大きな数字だとは思えませんが、憂慮すべきは動画の内容です。

 

 

■釧路市の公式動画が個人の「死にゆく街」動画に勝てない

 

はじめに「a Dying City(死にゆく街)」とテロップが流れ、閑散とした商店街やシャッターの閉まった店舗の数々が「Out of Business(廃業)」の文字とともに映し出されていきます。

 

作者の目的は定かではありませんが、カテゴリが「旅行とイベント」に設定されていること「There is very little English spoken here, so communication difficulties often cause inconvenience. (ここには英語を話せる人はほとんどおらず、コミュニケーションの難さが不便な要因となっている)」といった動画の説明文から推察するに、おそらく外国人作者が釧路を訪れた際に感じた率直な印象を記録したのではないでしょうか。そこに悪意があるかどうかは、YouTube上の情報からだけでは判断できませんが、この動画を観て「釧路へ行ってみたい!」と思う人はごく少数ではないでしょうか。

 

とはいえ、地方自治体が制作した動画が検索上位に表示されないことはめずらしいことではなく、イメージの悪い動画の存在を消すことはほぼ不可能です。それよりも、本稿の執筆にあたって「釧路市が本来押し出したいPR動画がどんなものだろうか」と探してみたのですが、いろいろ探し回ってみても結局見つけ出せませんでした。こちらの方が、よっぽど問題なのではないでしょうか。

 

YouTube内の検索でなぜ上位に表示されないのか、動画を作るだけでなく再生回数を伸ばすために予算を割いたのか、FacebookやTwitterなどのSNSでの広がりを考慮していたか……まだまだ打つべき手は数多く残されているように思えてなりません。

 

 

■再生回数が稼げればそれでいいのか

 

 

地域活性を目的としたPR動画といえば、きつい方言がフランス語に聞こえると話題になり、約230万回(2017年7月時点)の再生回数を記録した『宮崎県小林市 移住促進PRムービー “ンダモシタン小林”』が知られています。

 

 

また再生回数100万を超えたら“遊べる温泉都市構想”を実現すると市長が公約し、その後クラウドファンディングで7,000万円以上を集めて本当に実現までこぎつけた『100万再生で本当にやります!別府市・湯~園地計画! “1 Million Views Make it a Reality!” Beppu City Spamusement Park Project!』も話題を集めました。

 

どちらも目の付け所がおもしろく、コンテンツとして強い拡散力を備えていることは言うまでもありません。インパクトがある動画はテレビやネットのニュースで取り上げられると同時にTwitterでもバズり、一気に再生回数を稼ぐことができるため、攻めのPRとして地方自治体でもよく使われる手法のひとつです。

 

しかし“再生回数”と“移住者や観光客の数”のあいだに、相関関係は生じているのでしょうか?

 

ドラマ『東京タラレバ娘』のなかで、吉高由里子演じる脚本家の倫子が、北伊豆のPR動画のドラマ脚本を書く回がありました。当初、小さい企画だとバカにしていた倫子でしたが、住民の熱い思いを知って心を入れ替えます。徹夜で脚本を練り直した結果、完成した動画を観た町の人々が「この町の良さが伝わるドラマになった」と喜んで涙を流す、というストーリーです。

 

ドラマであれば“良いものができてよかったね”でおしまいでも構いませんが、現実でもこれと同じことをやっているようでは「税金の無駄遣いだ」と揶揄されても仕方ありません。PRという体の良い言葉を隠れ蓑にして「作っておしまい」「あとは勝手に拡散するだろう」「動画を観たあとでどんなアクションを起こすかは、観た人に委ねる」という姿勢では、いつまで経っても成果の出る動画コンテンツは生まれません。

 

 

■予算9500円で「ふるさと納税額およそ7倍増」に貢献した動画

 

長野県小諸市では、『【小諸市PR動画】「小諸がアツ・イー!」本篇 思わず吹き出す!市長熱演!!』という動画を、業者委託せず、企画・撮影・編集を企画課職員が行うことで、衣装代だけのわずか9,500円で制作しています。

 

 

説明文にふるさと納税へのリンクがしっかりと貼られていることからしても、この動画の主な制作目的はふるさと納税であることは明らかです。事実、この動画を制作した年には、も報告されています。

 

2016年第1四半期(1~3月期)の時点でYouTubeには18億3000万から21億5000万本の動画がアップされており、そのうち実際の再生回数の93%はYouTube上の1%の動画に集中しているというもあるほど、動画コンテンツは溢れかえっています。このような現状で、PR動画を制作するだけで観てもらえるというのは、もはや幻想としか言えません。

 

動画で人の心を動かし、実際の行動まで移してもらうまでは、一筋縄ではいきません。「地方自治体のPR動画」というジャンルが盛り上がりを見せる一方で、動画制作後の認知拡大に至る導線や効果測定まで、あらかじめしっかりと設計されていそうな企画は、ほんの一握りです。

 

地方自治体のPR予算は、そこに住む人たちの税金を基に組まれているはず。誰にも観られないPR動画が存在している状況を、私たちも深刻に捉えるべきではないでしょうか。あなたの住む町にも、もしかしたら……。

 

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