「僕たちは“ド”メジャーです」──サカナクション山口一郎

エンタメ

知名度と存在感は間違いなくメジャー。だがその音楽の奥底には、マニアックなインディーズの匂いが見え隠れする。

 

Words: Kosuke Kawakami
Photos: Chikashi Suzuki
Hair & Make-up: Asami Nemoto

 

 

ICHIRO YAMAGUCHI 山口一郎()
ミュージシャン。1980年北海道生まれ。バンド「サカナクション」のボーカル兼ギタリスト。様々なジャンルのクリエーターが集い、音楽以外のカルチャーも同時体験できる定例クラブイベント『NF』を主宰する。

 

 

■“システム”があるかないか

 

音楽業界において、メジャーとインディーズの境界線は明快だ。セールスやプロモーションといった“音楽ビジネスのシステム”が整っているのがメジャーで、それを持たないのがインディーズだ。

 

「自分たちの音楽を全国津々浦々まで届けたいと思うならメジャーを目指すべきだし、自分たちがやりたい音楽をそれが好きな人たちに聞いてもらえればいいと思うならインディーズでもかまわないと思います」

 

サカナクションの山口一郎は、そう定義したうえで、自分たちは“ド”メジャーだと語る。

 

「サカナクションの音楽を世の中に響かせたい。社会になんらかの影響を与え、音楽シーンになんらかの爪痕を残したい。だからメジャーでいたいんです。初期のアルバムは、インディーズ的な価値観もあったかもしれない。でも収容300人のライブハウスが1000人のホールになり、1万人の大会場に替わっていったように、求める人が多くなれば、それだけの人の期待に応えるサウンドを作るようになるのです」

 

ヒットチャートの常連であり、ライブは常にプラチナチケット。タイアップも引き受けるし、テレビの音楽番組にも出演する。2013年末には、NHKの紅白歌合戦にも出場している。それでも独特の世界観を描くサカナクションのサウンドと存在感は、どこか異質で、素直に“ド”メジャーだとは思えない。彼らが奏でる音楽は、おおむねポップでキャッチーだ。だが、その心地よい音の合間合間からは、音楽シーンに対するアイロニーを感じることがある。

 

「僕は、音楽を作るうえで、『メジャー or インディーズ』ではなく、『マジョリティ or マイノリティ』を意識しています。好きな音楽を探して聞くような人は、いまやマイノリティで閉じた世界にいるんです。なので彼らに向けて作っても広がりがない。だから僕らはマジョリティを意識して、たくさんの人に受け入れられる明快なサウンドを作る。そこから多くの人がサカナクションに興味を持って、アルバムを買ったり、ライブに足を運んでくれたりすることで、その奥にある難解だけど美しい音楽の世界を伝えることができるんじゃないかと思っているんです」

 

サカナクションが目指すのは、マジョリティとマイノリティの間に立つ“通訳”。山口は、サカナクションのファンという大きなターゲットにクラブイベントを開催することもある。そうやって日本の音楽のリテラシーを上げる活動を続けているのだ。

 

「言葉は悪いけど、タイアップやテレビ出演は、“撒き餌”みたいなものだと思っています。僕らの音楽を通して、いろいろな音楽を知り、さらにファッションやデザイン、音楽や映画などたくさんのカルチャーに興味を持ってもらえるようになったら嬉しいですね」

 

ICHIRO YAMAGUCHI 山口一郎(サカナクション)

 

■音楽だけの存在

 

山口は、ライブ会場で物販のブースにこっそり立つことがあるという。それでもファンの多くは彼に気付かない。街中を歩いていても声をかけられることは、ほとんどないという。

 

「の音楽は知ってもらえているけど、それが僕という人間と結びついていない。純粋に音楽を伝えるミュージシャンとしていられることは、僕らの戦略が成功している証しだと思っています」

 

多くのミュージシャンが俳優やタレントとしてテレビに出ることでメジャーを目指す時代に、音楽の魅力だけでメジャーであり続ける。それもまたサカナクションが異質に感じられる理由だろう。

 

「60歳を過ぎて、釣り堀で釣り糸を垂らしているとするじゃないですか。そんなときラジオから聞こえてくる音楽に失望したくない。未来の音楽にカッコいいなと嫉妬したいんです。そのためにはいまの時代を生きている僕らが音楽の本質的な魅力を、多くの人に伝えていかなきゃならない。その責任を感じているんです」

 

CDという物体を売る時代が終わって、セールスもプロモーションも多様化してきた。もはやメジャーとインディーズという区別に大きな意味はない。それでも山口は、ミュージシャンとしての強い責任感を持って、メジャーであり続けようとしている。だからこそサカナクションの音楽は、聞き手の奥深いところまで届いてくるのだ。

 

山口一郎が主宰する複合イベント『NF』は、ライゾマティクスの真鍋大度、インテリアデザイナーの片山正通などさまざまなジャンルのクリエーターとコラボレーションしながら、ライフスタイルの提案をおこなっている。

サカナクションは今年でメジャーデビュー10周年。会場を音で囲むサラウンドシステムを使ったSAKANAQUARIUM2017 10th ANNIVERSARY Arena Session 6.1ch Sound Aroundが9月30日より開催。詳細はサカナクションのへ

 

 

 

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