30本を超えるボリューム、映画並みのショートドラマ…なぜ企業は「Web限定の動画」に力を入れるのか?

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野本 纏花

近ごろ「Web限定」という打ち出しで、企業のCM動画を目にすることがあると思います。なかには、かなりの予算をかけていることが予想できるクオリティのものも少なくありません。

 

ブランド・コミュニケーションの一手として増加傾向にあるこの「Web動画」は、どのような目的で、誰に向けて発信されているのでしょうか。今回は「YouTubeで配信されている、企業が制作したオリジナルの動画」という定義で、Web動画の捉え方を考えたいと思います。

 

 

■企業のWeb動画を見るのは誰?

 

Web動画とはどんなものなのか、アース製薬「モンダミン」の『シチュ♡エーション』動画を例に見てみましょう。

 

女優の清野菜名さんを起用したこちらの動画は、テレビCMと並行してWebで展開されており、30種類もの“キス”のシチュエーション動画が用意されています。

 

「他のも見たい!」ボタンで動画が切り替わる。コンプリートすると特別映像が出現?

では、このシチュエーション動画がランダムで出現し、それをコンプリートしていくというゲーム性のあるコンテンツを楽しむことができます。

 

ほかにも、カネボウ化粧品「suisai」の『わたしのままで』では、テレビCMの尺では収まらないショートドラマを展開。大丸の『1/6ドールの彼女」に至っては、複数話の連続ドラマになっているなど、広告の枠を越えた作品にも見えます。

 

なぜ企業はWeb動画にここまで力を入れるのでしょうか──そこには「若者の共感」を求めたブランド・コミュニケーションとしての意図があります。

 

 


■出演者は同じなのにテレビCMと違うものを作る意味

 

iPhoneが米国で発売されて早10年。総務省の「」によると、スマートフォンの普及率は世帯別で71.8%、個人保有率は20代94.2%、30代90.4%、13〜19歳81.4%と続きます。

 

加えて、10代・20代の若年層の特徴として、他の世代に比べるとインターネット利用時間が1日あたり平均120分を超え、利用用途のなかでは「動画投稿・共有サイトを見る」「SNSを見る・書く」の割合が高い傾向にあることが明らかになりました。

 

若者のメディア接触について、別の角度からも見てみましょう。「」に目を通すと、10代・20代はテレビの平均利用時間がインターネットのそれを下回っていることがわかり、“若者のテレビ離れ”の現状が浮き彫りになってきます。

 

移動中や外出先でも利用できるスマートフォンに分があるのは当然のことです。では、若者はテレビをまったく見ないのか?という話になるとそうではなく、家に帰ったらテレビを視聴しているのも事実なのです。

 

ご覧いただいたモンダミンの例からもわかるように、Web動画単体で作られるケースよりも、テレビCMと抱き合わせで同じタレントを起用しながら、テレビCMの世界観を拡張したWeb動画が制作されることが多くあります。

 

そんなことをせずにテレビCMをそのままWebで公開すれば良いのでは?と思うかもしれません。しかし、そうはいかない理由がちゃんとあるのです。

 

米国では、テレビCMをそのままWebに流用した場合に比べ、Web専用のコンテンツを用意した方が、好感度や利用意向においてが出ています。

 

先に、企業が求めているのは「若者の共感」であると述べました。Web動画によって醸成したい共感とは、心の中で「いいね!」と思ってもらうだけでなく、「SNSで拡散」してもらうことで、現象としてあらわれるのです。

 

拡散する側の心理に立ってみましょう。多くの人が目にするテレビCMを、わざわざ自分のSNSで拡散したいと思う人がどれほどいるでしょうか。「(自分の周りでは自分しか気付いていないかもしれない)おもしろいものを見つけた!」という感情の起伏があってこそ、「ねぇ、これ知ってる?」と拡散(≒自慢)したくなるのではないでしょうか。

 

インターネット上には玉石混淆のコンテンツが溢れかえっています。。その20億分の1の確率で出会ったWeb動画がおもしろいものだったとしたら「みんなも見て!」と拡散したくなるのも、頷けます。

 

 


■狭く深くのWeb動画 × 広く浅くのテレビCMで相乗効果を狙う

 

ブランディングやマーケティングの観点から見ると、Web動画のメリットは、他にもいろいろとあります。

 

1. 時間的制約がない

テレビCMは15秒や30秒といった時間的制約により、短い時間内にメッセージを詰め込まなければなりません。また、視聴者が本当に見たいのはテレビ番組そのもの。CMの時間はトイレタイムにされたり、録画視聴の際に早送りされたりして、見てもらえない可能性もあります。その点、Web動画であれば、いつでもどこでも見たいときに見ることができる上、スマートフォンの小さな画面に集中してもらえるため、視聴者の時間を独占できる可能性も高まります。

 

2. 効果が数字でわかる

YouTubeを使って配信すると「だれが・どこから・どのくらい動画を見たのか」といった効果測定が簡単にできます。テレビCMと比べて、費用対効果を割り出しやすいというメリットもあるでしょう。

 

3. 広告費を安く抑えられる

YouTubeの動画広告は放送枠自体が高額なテレビCMと異なり、予算に応じてどれだけの人に見てもらうかを調整できます。さらに、30秒未満の再生途中で動画がスキップされた場合は費用が発生しない仕組みになっていたり、年齢・性別・興味・関心など、ターゲットを設定して配信できるため、無駄な費用を抑えられます。YouTube上に公開するだけで、広告費はまったくかけないという選択もできなくはありません。

 

Web動画は消費者に届けば高い効果が得られます。しかし“広く認知させる”ためには、テレビCMとの連動が欠かせません。Web動画を軸に据えたブランド・コミュニケーションを行っている資生堂では、「スノービューティー」のプロモーションに向け、今話題の俳優、高橋一生と武井咲を起用した「Laundry Snow」を公開しています。

 

テレビCMで告知をし、店頭でもQRコードのついたリーフレットを配布。またTwitterやInstagramでは関連したハッシュタグキャンペーンも実施するなど、様々な仕掛けが用意されています。Web動画は、ブランド・コミュニケーションの軸として、重要な役割を果たしているのです。

 

 

■一歩間違えると炎上? 若返りの手段と期待される一方で…

 

歴史の長いブランドを抱える企業にとって“若返り”は死活問題です。ブランドの若返りを果たさなければ、コアユーザーが年を重ねるとともに衰退の一途を辿らざるを得ません。

 

他方、味の素AGF「ブレンディ」の『挽きたてカフェオレ「旅立ち」篇』や、サントリー「頂」の『絶頂うまい出張』などの炎上ニュースを見て、「Web動画って、こんなのばっかり……」と思っている人もいるかもしれません。炎上の原因は、たいてい“性差別”か“エロ”であり、バズらせたいと思うがあまり、悪い方向へ攻め過ぎたケースがほとんどです。

 

今やインターネットの世界は、一部の人だけが集う閉鎖された空間ではなく、老若男女、いろんな人たちがいるリアル社会となんら変わりありません。Web動画だから炎上したのではなく、Web動画だと見くびっていたから炎上したのではないでしょうか。

 

Web動画はテレビCMを補完する重要なコンテンツです。2013年ごろから注目されてきましたが、やっと企業が求めるブランド・コミュニケーションが活きる環境が整ってきたように思います。今後さらに増えてくることは間違いありません。私たちにどのような体験をもたらしてくれるか、楽しみですね。

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