「酔っぱらい」と「酒呑み」は違う!? “無礼講”が認められないBARのルールとは

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BAR評論家を勝手に標榜していると、「BAR初心者向けの……」という原稿依頼は後を絶たない。いつも同様の回答を用意しているので、この機会に整理しておこう。


BARについて話すと「敷居が高い」とぼやく輩は多い。その謎を紐解くと、それは日本の「無礼講」文化のせいではないかと思い当たる。酒を呑んだから、「少々やらかしても問題ない」、または「どんな失敗も許される」無礼講は、日本独自の精神。酒席では、大目に見てやるのが日本のスタンダードだった。


だが、BARは「無礼講とは真逆の文化」。酒を呑んでさえもルールがある。そんな感覚が「敷居の高さ」を意識させるのだろう。しかし、考えてもみたまえ、今の世の中「酔っていたので……」という言い訳が通用するような甘い時代ではない。これを機に酒を飲んだ際のルールを意識してみるのは、いかがだろう。


BARのルールは不文律。だが、ここで敢えて明文化させてもらおう。各氏、諸説・異論・非難はあるだろうが、11か条で勘弁願う。


【ルール1】BARにはルールがある
難しく考える必要はない。ただ「ルールがある」と覚えたい。そこが単なる「酔っ払い」と、上品な「酒呑み」とを隔てる境界線だ。そのルールとは何か……ここに列挙する以外にも数多ある。だが、それは、ひとつひとつ、BARに通ってこそ身に付くもの。
社会のルールは明文化されている。しかし、人生のルールは不文律である。BARのルールもそれと似ている。BARのルールが守れないということは、人生のルールを守れないと同義だ。まず「ルールがある」と意識したい。


【ルール2】BARは酔うところではない
酒を呑みに行く場で「酔うな」とは、これまた如何ものかと思うだろう。しかし、渋谷の老舗BAR「門」の深澤文雄氏もそう説いている。
実際、アメリカのBARでは、泥酔客のオーダーは受け付けない。時として、市条例や州条例で明文化されており、その禁を破ったバーテンダーに罰則が設けられている場合もある。目が座り、呂律が回らず、千鳥足の客はBARで呑む資格がない。BARには酔いに行くわけではない。それだけは認識を改めて欲しい。


【ルール3】BARは大人の嗜みである
良いBARの一軒も知らないようでは、大人とは言えない。「おお、いい店、知ってるねぇ」。知人をBARに案内した際に聞かれる最上の褒め言葉だ。BARは、人の品格すら問いかねない場なのだ。


【ルール4】BARでは脱帽せよ
新橋の「スコッチクラブ一葉」の柳倉武氏は、これを理解しない若者が多いと憤慨していた。神社などと同じように社交ルールとして、飲食の場も結界であえると言う。礼を払う場では、脱帽する。「脱帽」の日本語の意味ぐらい知って欲しい。なお、社交ルールとして、女性のみ着帽が許されるケースがあることをついでに知っておきたい。
ちなみに、柳倉氏は「BARで焼酎を頼むな」とも憤っていた。最近は焼酎をベースにしたカクテルも存在するが、「スコッチクラブ」で焼酎の水割りをオーダーするのは論外か……。

 

【ルール5】ドレスコードを意識する
「ドレスコードなし」と言われても、サンダル、短パンは勘弁してくれ。リゾートのビーチバーや、近所の行き着けなら許される時もあるだろうが……。
私は日ごろ、Tシャツ、ジーンズという服装に無頓着な人間であると誇りを持って言えるが、BARに足を運ぶ時は、せめて襟付きで挑みたい。


【ルール6】知ったかぶりはやめろ
これはビギナーよりも「慣れ始めた客」に多い。BARとは薀蓄を垂れる場ではない。特に、自分だけが特別に知っているだろうと思って知識を開陳しているのだが、周囲の客が内心「常識だ」と思っているケースなどは、愚の骨頂である。ひどく自戒したい項目でもある。


【ルール7】隣の客に気安く話しかけるな
私がもっとも守らないルールのひとつである。ひとりでBARに通っていると、ついつい、話かけてしまうのだが……。もし隣人と話したい場合は、バーテンダー氏に取り持ってもらおう。バーテンダー氏とのトライアングルの中で会話が成立するなら、隣人も話し相手が欲しいと考えているかもしれない。逆にひとり客には、他人と話したくないと思っている者もいる。


【ルール8】バーテンダー氏の提言には素直に耳を傾けよう
バーテンダー氏は、さまざまなアドバイスをくれるBARの舵取り役である。もちろん、暗喩に気づかず、酔いが醒めてから「いけね、そういう意味だったんだな」なんてこともある。提言には素直に従おう。
特に「今日はそろそろお止めになったほうが」なんて言われた夜には、尻尾を巻いて帰路に着くべきだ。そんな時、東銀座の「クラシックバー・オリベ」の能坂氏なら、オーダーに応じず、黙って締めの蜆汁を出す。さあ、そろそろ潮時だ。


【ルール9】その一杯が終わるまで席を離れない
酒をオーダーしたら、その酒を呑み終わるまで席を立たない。あまり聞かないだろうが、私はこれはルールだと思う。バーテンダー氏は、つねに最良のタイミングで至極の酒を振る舞おうと工夫している。「Bar Atrium Ginza」の清水智恵子氏は、珠玉の一杯を作り、サーブしようとした瞬間、客の携帯が鳴り、席を立たれると「今、自分の手元にあるカクテルを、どうすべきか、すごく悩みます」と苦笑する。いや、最高の瞬間を逃している。
また、呑んでいる途中にトイレに立つのも避けたい。呑みかけのカクテルが、カウンターに残されている様は、無様である。さっと呑み干してから移動するぐらいの余裕は欲しい。


【ルール10】スマホの使用は控えたい
まず店内で通話するのはNGだ。着信の場合は、席を外し、店外に出るぐらいの配慮は必須。メッセージのやり取りや検索など端末を操作するのは、今の時代止むを得ないだろう。しかし、南青山の名店「ラジオ」のオーナー尾崎浩司氏は「目の前に知の宝庫であるバーテンダーがいるのに、スマホばかり弄っている客の相手はしたくない」と厳しい。操作もほどほどに。また、カクテルの写真などを撮る際も、必ずマスターに訊ねてから。あまり熱心に凝った撮り方をしていると、カクテルの旬を逃すこともあるので、こちらもほどほどにしたい。


【ルール11】自分の中に掟を造る
今は亡き銀座の名バーテンダー吉田貢氏が、自身のB4版のノートをわざわざ切り取ってまで渡してくれたメモの一行にこう記されている。「BARで酒を呑むときは、自分の中に掟を造る」と。ルールを持つ人間には自律が芽生える。
こうして振り返ってみると、如何に自分で守れていないルールの多いことか……。先日など珍しく美女と同行したためか杯を重ね、会計をせぬまま、席を立つという失態をやらかしたのは、門前仲町のオーセンティック・バー「Bar, C」での出来事だった。

 

自戒の念をこめ、諸氏にも見直してもらいたい。また、「初めてBARに足を運ぶ」という初心者はぜひ一度目を通してもらうと良い。最後に大事なことをひとつ。「バーテン」は蔑称なので、決して使用しないように。「ジャパニーズ」を「ジャップ」と呼ぶに等しい。あくまで「バーテンダー」である旨、失念されぬよう。長すぎるようなら「マスター」と呼んでおけば差し支えないだろう。

 

忘年会シーズンなど特に多いが、静かにカウンターで呑んでいると、ドアがバンと開き「12人、入れますか~?」などと叫ぶ輩もいる。オツムが弱くなければ判ると思う。ここはカウンター8席のみの店だ。まずは、どんな店なのかしっかり自身で判断してもらいたい。

 

では各位、今宵もカウンターで至福の一杯を!

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