マーケティング視点で「東京都知事選挙」を分析してみると…

 

 

2016年7月31日、舛添要一前東京都知事辞任に伴う、東京都知事選挙が行われた。即日開票の結果、小池百合子氏が女性として初めて東京都知事になることが決まった。自民党に所属しながら、公認を得られずに選挙戦を戦うことになった小池氏。今回の記事では、なぜ小池氏が東京都知事になることが出来たのかを、政策的な視点ではなく、マーケティング視点から紐解きたい。

 


■興味深かった選挙ポスター

 

まず最初に、今回の都知事選で興味深いことがあった。それは各候補者の選挙ポスターだ。やる気や自信を表す「赤」をベースにしたポスターはマック赤坂氏など少数派。主要3候補をみると、小池氏と増田氏はグリーン、鳥越氏はブルーと落ち着いたカラーをポスターに使っていた。


各候補とも、まず“クリーン”な印象を都民に訴えることにポイントを置き、ポスターで主張してきた。小池氏にいたっては、グリーンが自身のテーマカラーであることから、街頭演説などに来てくれる人たちに対してもグリーンで応援してくれるよう依頼した。色をうまく使って選挙を展開したのだ。

 

イメージで“クリーン”な印象を与えようとする方向性は、各候補とも一緒だった。では、勝敗を分けたマーケティングのポイントとはどこにあったのだろうか。3つの視点から説明したい。

 

 

【勝敗を分けた視点1】ターゲティング

勝敗を分けた1つ目のポイントが「ターゲティング」だ。都民のことを本当に考えているのかどうかがポイントとなった。


主要三候補のうち、まず立候補を表明したのが小池氏。続いて増田氏が、最後に鳥越氏が立候補した。小池氏は立候補した後に自民党の公認を得ようとしたが、自民党が選んだのは自民党員ではない増田氏だった。鳥越氏は民進党を始めとする野党の統一候補となった。


通常の選挙では後出しジャンケンの方が強いと言われる。しかし、今回は、最初に立候補を表明した小池氏が勝利した。これには理由がある。小池氏の後に立候補した増田氏は2つのマイナスが響いた。1つ目は、立候補が噂されてから実際に立候補するまで数日間を要したこと。2つ目は、岩手県知事時代には、東京に対してネガティブとも取られる発言をしていたことだ。過去のネガティブな発言となかなか立候補しない態度を見て、増田氏が本当に東京都のことを考えているのか疑問に感じる都民も少なからずいただろう。もし、増田氏が誰よりも早く立候補していたら、このような懸念も吹き飛んでいたのかもしれないが、結果的には”後出しジャンケン”のセオリーが増田氏には不利に働くことになった。


鳥越氏の場合、立候補当初からピントがずれていた。都民から見れば、鳥越氏の主張の多くは東京都ではなく日本全体の話であり、実現性に疑問が感じられるものだった。


舛添氏の辞任理由から考えても、今回の選挙は、自分のことではなく、都民のことをどれだけ考えているかがポイントだった。増田氏や鳥越氏が小池氏に及ばなかった理由は、ターゲットの気持ちをきちんと見極められなかったこともあるのだ。

 

 

【勝敗を分けた視点2】「ネガティブ情報」と「インターネット」
勝敗を分けた2つ目のポイントが「ネガティブ情報」と「インターネット」だ。


今回の選挙で注目すべきは、テレビで報道される内容とインターネットの情報に温度差があった。テレビは、小池氏、増田氏、鳥越氏の3候補を主要候補として取り上げた。しかし今回の選挙では、テレビ以上に、週刊誌での報道やインターネット上に残る過去のニュースを元に情報が拡散されていった。特にソーシャルメディアでは、各候補に関するネガティブな情報がポジティブな情報以上に多く飛びかった。


増田氏に関しては岩手県知事時代に赤字を拡大させたことや東京への批判的な発言がピックアップされた。鳥越氏に関しては健康問題や女性問題がピックアップされた。今回の選挙戦の大きなポイントは”クリーン”なことである。つまりネガティブな要素がないことが大前提として必要だったため、このような問題が出ること自体がマイナスに働いた。小池氏の場合、増田氏や鳥越氏のようなネガティブなニュースは出なかった。他の候補に比べてネガティブな要素がなかったからこそ、小池氏の主張や語気の強さは、ポジティブな印象を持って都民に伝わっていったのだろう。


インターネットは、今回の選挙の勝敗を左右する力を持ったと言えるだろう。

 

 

【勝敗を分けた視点3】後押しの「空気」を作れなかった陣営

ここ数年、マーケティングの潮流の一つに「モノやサービスを売りこもうとする前に、モノやサービスを買いたくなる空気を作る」ということがある。空気を作るということは重要なことだ。今回、この空気作りに失敗したのが増田氏を応援した自民党都連だ。都民のみならず多くの日本人が、組織票で選挙を勝とうとするやり方を否定するようになってきた。しかし、この現実の空気を自民党都連は最後まで読み損ねてしまった。


一例を挙げたい。自民党都連は「党公認、推薦候補者以外の者を応援してはならない。もし応援した場合、除名などの処分にする」という通達を出した。処分対象は党員だけでなく党員の親族までとしたため、世間から批判の声が上がったのだ。組織的な締め付けとも言えるやり方に時代錯誤感と嫌悪感を覚えた都民が少なからず出たのだ。


また別の例もある。増田氏の名前が書かれたプラカードを持って演説を応援しに来た人たちがメディアのインタビューに答えていた。「自民党から増田氏の演説について案内があったので応援に来た。小池氏の演説応援については案内は来なかった。」と発言していたのだ。インターネットが普及し、一人一人の価値観・生き方・ライフスタイルが多様化しているにも関わらず、ここでも時代に逆行したやり方が見えてしまった。これは、増田氏個人への拒否ではなく、バックアップした自民党都連のやり方への拒否だ。これも増田氏にとって大きなマイナスになってしまった。


小池氏の当選が確実となった後も、ある自民党都連幹部が「知事としての小池氏とはしっかりやっていくが、小池氏が自民党の綱紀を破ったことは別問題であり、処分対象だ」という主旨の発言をしていた。この発言も、都民からすれば「増田氏がなぜ大敗したのかを自民党はわかっていない」と思われるだけであり、自民党へのネガティブな印象が増すだけのものだ。そこに最後まで気づけなかったことも敗因の一つだ。小池氏が都知事として初登庁した日、自民党は、小池氏への処分を行わない方向になったと報道されたのは、都民の自民党の一連のやり方に対して、都民や国民に自民党へのネガティブな空気が広がっているのをようやく感じたからではないだろうか。


選挙とは短時間での勝負である。候補者も知名度を一気に上げられるとは限らないし、主張もすべてを伝えられるものとは限らない。そうした中でも、候補者に有利な空気を作っていくのがバックアップするものたちの役割だ。しかし、今回の選挙では増田氏陣営、鳥越氏陣営ともに、この空気を作ることができなかった。

 


■マーケティング的にみると、自然な結果

 

マスメディアが、以前ほど圧倒的な力を持たなくなったように「大きいこと、多いこと」が良い、強いという時代は終わりつつある。今回の選挙でも「組織」で押し切ろうとしたやり方が、都民に受け入れられなくなってきたことが顕著に現れた。「個」の力がますます強くなってきたことが今回の選挙では感じられた。

 

今回の選挙で都知事になった小池氏の勝因をマーケティング的に見ると、どの候補よりも、ターゲットニーズをきちんと把握し、自らの強みをきちんと伝えることに成功したことにある。そして自分に有利な空気を作れたことにある。これは選挙戦略の作り方としてだけでなく、一般的なマーケティング戦略を考える上でも、もっとも基礎的な要素でもある。この基礎的なことがきちんとできていた小池氏が都知事になったのは、マーケティング視点で見れば、自然な結果だと言えるのだ。
 

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