東急池上線「フリー乗車デー」に見る鉄道会社のPR方法

車・交通

野田隆

10月9日の池上線蒲田駅は大混雑

2017年10月9日、東急池上線は開業90周年と、「東急の日」(10月9日を「とう・きゅう」と読ませて語呂合わせとした)に因んでフリー乗車券を配付し、終日電車を無料乗り放題とした。沿線の商店街では商品の無料配布やレジャー施設も無料となるなど、大変な混雑となり、一部の駅での入場規制、乗り降りに手間取ったための電車遅延等々、ちょっとした騒ぎになった。

 

フリー乗車デーの表示がある五反田駅ホーム

この模様は、テレビや新聞、ネットニュースでも大々的に取り上げられ、それまで地元以外では忘れ去られていた「地味な」池上線の存在を世間に知らしめるPR効果があったようだ。多少の混乱は割り引いても、東急電鉄としては「奇策」に打って出た甲斐があったのではないだろうか?

 

池上線一日フリー乗車券

鉄道会社がある路線や列車をPRするときに無料にするというのは、幅広い意味ではよくある。例えば、新型車両をPRするために無料の試乗会を行うのが一例だ。ただし、誰でも乗れるわけではなく、応募者の中から抽選で100名とか限定的に招待するというのが定番である。誰でもタダで乗れる例としては、2007年3月のダイヤ改正から登場したJR常磐線普通列車の2階建てグリーン車の場合が思い出される。車両は正月明けより各列車に順次連結されていったので、3月までの2か月ほどを「お試し期間」として無料でグリーン車を開放したのである。もっとも、無料になったのはグリーン料金だけなので、運賃は別途支払っての話だ。それでも、無料の効果はてきめんで、各列車ともかなりの混雑だったようである。

 

富山ライトレール(愛称ポートラム)

2006年春に開業した富山ライトレールは、PRを兼ねて開業後1年近くの期間に限って運賃を半額の100円にした。このように、運賃を大幅に割り引くのは、宣伝効果を狙い時折目につくことである。それにしても、特定の丸一日、先着何名とか抽選ではなく全員を無料で乗せるという企画を筆者は聞いたことがない。地方の小規模な鉄道路線のことは不明だが、大都会の大手鉄道会社が特定の路線を無料にしたのは、かつての春闘で改札ストを行った結果として無料になった以外は、初めてであろう。

 

ホームの木の屋根がユニークな池上線戸越銀座駅

筆者は、10月9日に池上線を訪問したけれど、あまりの混雑に途中下車をして何カ所かを散策する企てを断念した。久しぶりの池上線訪問だったので、気になる沿線のスポットをいくつか発見し、3日後の「ふつうに動いている池上線」を再訪し、知られざる場所を散策した。筆者のような人間も少しはいるであろうから、しばらくは余波が続くのではないだろうか?

 

大都会にあるとはいえ、池上線の沿線も少子高齢化で輸送人員の大幅な増加は望めないどころか漸減する恐れさえあろう。何とか活性化を図りたいというのが大都会であろうと地方のローカル線であろうと共通の課題だ。何も赤字に苦しむのはJR北海道や地方の第三セクター鉄道、中小私鉄ばかりではない。現状では黒字であっても、将来のことを考えると安泰ではない路線が大多数なのではないだろうか?

 

東急が力を入れる伊豆急のTheRoyalExpress

池上線を運営する東急は、傘下の伊豆急行を活性化させるため2017年春からThe Royal Expressという豪華観光列車を導入した。車両デザインをJR九州の各種観光列車で実績のある水戸岡鋭治氏に任せ、話題作りとして実に効果的だった。列車の構想発表、車両お披露目などの席には伊豆急の社長とともに東急電鉄の野本社長自らが登場し、PRに励んだ。東急グループが、この列車にいかに力を入れているかがひしひしと伝わってきた。

 

東武の企画SL大樹運行にも度肝を抜かれた

東武鉄道は、2017年8月から、鬼怒川線の下今市駅~鬼怒川温泉駅間で、SL「大樹」の運行を開始した。大手私鉄が自らの路線でSL列車を走らせるというのもかつてない企画で、度肝を抜いた。それも一過性のイベントではなく、定期的に走らせるため、SL線用の機関区や転車台など付属施設を設置。その壮大なプロジェクトに目を見張った。右肩下がりだった鬼怒川温泉一帯の需要落ち込みを回復するための起爆剤として、どんな効果をもたらすのか注目したい。

 

前例のない企画とそれによるPR効果。今回の池上線無料乗車デーは、とくに観光名所でもない沿線に人を呼び込んだわけだが、東急のチラシでは「生活名所」というスポットをいくつも紹介している。有名観光地と比べたら、取るに足らない場所かもしれないけれど、紹介の仕方によっては人が集まるだけの魅力を引き出せる可能性はある。何にもないからと諦めるのではなく、それをいかに「名所」に仕立てるか。「ここには『何もない』があります」の名キャッチコピーで人を集めたいすみ鉄道(千葉県)のように、活性化の方法は、アイデア次第かもしれない。

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