【今週の大人センテンス】同名で風評被害を受けた写真館からのメッセージ

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 


第83回 「同業者」としての悲しみと憤り


「それでもこの事業を行なっている以上、あなたには最後までカッコつけて欲しかったです」by「株式会社ハレノヒ」社長・笠原徹

 

【センテンスの生い立ち】
成人の日に起きた「はれのひ株式会社」(横浜市中区)の営業取り止め騒動。多くの新成人が、一生に一度の晴れの日を台無しにされた。世間様の怒りの矛先は、まったく無関係なのにたまたま同じ読み方だった佐賀県の写真館「株式会社ハレノヒ」にも向けられ、多くの無言電話や銀行からの問い合わせなどの風評被害が発生してしまう。事態がやや落ち着いた10日、同社の社長がブログに「ハレノヒ違いの渦中にある私からのお礼と『はれのひ』元社長に伝えたいこと」を投稿。そこには「同業者」としての悲しみと憤りが綴られていた。

 


3つの大人ポイント
・助けてくれた人たちへの感謝を丁寧に述べている
・何のために「仕事」をするのかを思い出させてくれた
・「同業者」だからこそ許せない怒りがにじみ出ている

 


くれぐれもお間違えなく。このセンテンスをブログに書いたのは、いきなり雲隠れした「はれのひ株式会社」の社長ではなく、たまたま同じ名前だったばっかりに風評被害を受けてしまった佐賀県の写真館「株式会社ハレノヒ」の社長です。もちろん、両社はまったく一ミリもカケラも関係ありません。冒頭の言葉は、事件から2日がたち、事態がやや落ち着いた10日にブログにアップされたの一節です。


「はれのひ株式会社」の成人の日当日の閉鎖(計画倒産?)のニュースには、開いた口がふさがりませんでした。被害に遭われた新成人のみなさんは、本当にお気の毒でなりません。その後、キングコング西野亮廣が被害者のために成人式をプレゼントする企画を発表したり、呉服業界などからも支援の声が上がったりなど、多くの人が「救いの手」を差し伸べています。そういった「カッコいい大人たち」の行動や気持ちは、直接の被害者ではない私たちにも「世の中、捨てたもんじゃない」という思いを抱かせてくれました。


ひどい目に遭った「株式会社ハレノヒ」の社長のブログは、騒動で心配をかけたお客さんや関係者へのお詫びから始まります。続いては、SNS上などで風評被害を防ごうと動いてくれた人たちへのお礼の言葉。〈見ず知らずの当社に被害が及ばないように行動して下さり、本当にありがとうございました。おかげさまで、誹謗中傷やキャンセルなど直接的な被害は最小限になっていると思っています〉と述べています。




今後の影響への不安や、社名に対する想いも述べられていますが、とくに強い気持ちを感じられるのが、「はれのひ」の元社長へのメッセージ。穏やかな口調を保ちながら、行間から「同業者」としての深い悲しみと憤りがにじみ出ています。

 

まず今回の騒動で当社へ影響が出るなんてことは、おそらく貴殿の頭の中にはなかったと思いますし、そこに対して恨みなどは一切ありません。


しかし、成人式当日に業務を放棄した行動は到底容認できません。
人生の門出であり、まさにハレの日を迎えようとしている成人やそのご家族の、戻ることのない大切な時間を奪ったことは、同業者としても一個人としても全く理解できません。


(中略)この事業を行なっている以上、あなたには最後までカッコつけて欲しかったです。
「もう倒産するけど、成人式だけはちゃんと着物を着させて終えてあげたい。」
そう考えて欲しかったです。
それが「時」と「思い出」を扱う商売をしている人間の最低限の資質だったんではないでしょうか。

 

このブログを読んであらためて考えさせられたのが、「仕事とは何か」「私たちは何のために仕事をしているのか」ということ。もちろん、お金を稼ぐということも、仕事をする上では大切な要素です。しかし、それだけだとしたら寂し過ぎるし、明らかにそれだけではありません。多くの店舗が閉鎖された「はれのひ」でも、一部の店舗ではスタッフが「お嬢さんたちを泣かせるわけにはいかない」と、独断で(給料をもらえないことがほぼ確定しているのに)お店を営業してレンタルや着付けを行ないました。それをさせたのは、自分の仕事に対するプライドであり使命感に他なりません。

 

ブログにある〈最後までカッコつけて欲しかった〉〈「もう倒産するけど、成人式だけはちゃんと着物を着させて終えてあげたい。」そう考えて欲しかった〉というセンテンスには、同じように〈「時」と「思い出」を扱う商売をしている人間〉としての悔しさが込められています。「はれのひ」の社長は、いちばん大切な日に最悪な逃げ方をしてしまったことで、その日に被害を受けた人たちだけではなく、これまでに「はれのひ」を利用してあたたかい気持ちになっていた人たちすべての思い出にも泥を塗ってしまいました。

 

仕事はお金だけではないという話になると、ブラックな働き方を容認する言説と受け取る人もいそうですが、それはまた別の話です。そういう受け取り方をしたい人は、どうぞ勝手に曲解なさってください。仕事のやりがいや楽しさを感じたことがある方ならご理解いただけるかと存じますが、あくまでも「仕事に対するプライドと使命感」の話です。自分の仕事にとっての「カッコのつけ方」とは何か、普段はついつい忘れてしまいがちですが、じっくり思い出してみましょう。思い出したほうが、楽しく仕事に取り組めるはず。

 

それにしても、世間を騒がせる「ケシカラン事件」が起きるたびに、当事者に無言電話や罵詈雑言の電話をかける人がたくさんいて、とばっちりで関係ないのに被害を受ける人も必ずいます。ちょっと調べれば無関係だとわかるはずなのに、その程度の軽い気持ちで電話をかけるってどういう気持ちなんでしょう。情けないというかみっともないというか人間ってなんて愚かなんだろうと思わされるというか……。

 

あっ、それを言ったらSNSなどで罵詈雑言を書いて「言ってやったぜ」という顔をしている人は、もっと軽い気持ちだし、もっと……(以下同文)。ひどい事件に怒りを覚えることと、正義の虎の威を借りて日頃のうっぷんをぶつけることとは、まったく別だということは忘れたくないものです。いや、ほとんどの方にとっては関係ない話ですけど。

 

素晴らしい文章をブログにアップしてくれた佐賀の写真館の「株式会社ハレノヒ」が、この騒動がきっかけで知名度も評価も信用も上がって、災い転じて福となすという展開になることをお祈り申し上げます。「はれのひ株式会社」の被害に遭ったみなさんにとっても、いろんな動きを通じて、どうか災い転じて福となすという展開になりますように。

 


【今週の大人の教訓】
人間のダメさが引き起こした事件が、人間の素晴らしさを浮かび上がらせてくれる

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