ドトール、スタートトゥデイ…「本当に強い企業」と「危ない企業」を決算書から見抜く方法

ビジネス

(前川修満/文藝春秋)

シャープ、東芝、神戸製鋼……。大企業が凋落する瞬間を私たちは何度も目にしてきた。一方で、たった数年で急成長を遂げる企業もある。経済活動は弱肉強食。いつどの企業が業界のトップに躍り出るかは分からない。

 

だが、その予兆を感じ取ることはできる。一部のエリートマンだけじゃない、一般人である私だってあなただって、誰でも知ることができる。決算書を読み解くのだ。『やっぱり会計士は見た! 本当に優良な会社を見抜く方法』(前川修満/文藝春秋)は、公認会計士であり税理士の前川修満さんが決算書を読み解くことで、あの企業の好不調を紹介している。

 

 

■ドトールとルノアールの儲け方の違い

 

決算書の話へ行く前に、まずは商売で効果的に儲ける2つのポイントの話から始めたい。

 

1.「利幅の厚い」商売をする

2.「資本の回転速度」を高める

 

この2つが商売において重要だ。1つ目は誰もがなんとなく分かるはず。ある商品を安く仕入れて誰かに高く売る。商売の基本だ。そしてもう1つは、事業に投入した資金をなるべく早く回収することだ。これはムツカシイので、有名コーヒーショップ「ドトール」と「ルノアール」でたとえて説明したい。

 

ドトールはブレンドコーヒー(Sサイズ)を1杯220円で提供している。一方、ルノアールは同様のコーヒーを590円(※)で提供している。一見すると「ドトール不利だなー」と感じるが、実はそうではない。ドトールは利幅が薄くても、資本の回転速度を高めているのだ。

(※)店舗によって異なります。

 

たとえば、ルノアールには座り心地のよいソファーがある。客はそこに座って小一時間ほどそのひとときを楽しむ。一方、ドトールは木製の椅子を置いていることが多く、ルノアールほど長居できるデザインにはなっていない。つまりルノアールが小一時間かけて590円を回収する間に、ドトールは何人もの客から220円をちょうだいしているのだ。

 

詳細は本書に譲るが、これによりドトールは圧倒的な利益を叩き出している。もちろんルノアールの居心地の良さは素晴らしいし、「どちらのコーヒーショップが優れているのか」が言いたいわけではない。「ダメな企業ほど資本の回転速度を軽視しがち」ということが重要だ。

 

 

■決算書を読むことで企業の未来を予見できる

 

2003年頃の田崎真珠(現TASAKI)は、ミキモトに並ぶ一流の真珠メーカーだった。誰もが「真珠を買うならここ!」「就職するならここ!」と思う企業だったはずだが、前川さんが当時の田崎真珠の決算書を入手したところ、驚きの事実を見抜いてしまう。

 当時の田崎真珠の総資産は958億円。そのうち「棚卸資産」が384億円も占めている。「棚卸資産」とは顧客に売る商品の在庫のこと。つまり総資産のうちの約4割が在庫なのだ。そうだ、決算書は田崎真珠の資本の回転速度がヒジョーに悪いことを教えてくれていたのだ。

 

さらに「売上原価」を確認すると、156億円という記載がある。「1年間に原価ベースで156億円を販売」ということは、田崎真珠はざっと見積もっても「2年半」に相当する在庫を抱えていることになる。

 

これを受けて「どうせ売れるならいいじゃん」と思う読者もいるかもしれない。しかし同様に決算書を確認すると、田崎真珠にはなんと459億円の借金があり、その利息として年間8億円も支払っていた。ムダに金を投入して余計な在庫を作ったせいで、本来支払う必要もない8億もの利息を生んでいたのだ。

 

安直な経営をしていた田崎真珠は、その後、中国の安価な真珠に押され、需要が減少したこともあり、2008年度に169億円という大赤字決算を発表した。約5年も前から、決算書は警告を発していたのだ。「このままじゃ経営が危ないですよ」と。

 

 

■決算書は予言の書?

 

今まさにイケイケな企業といえば、先日「おまかせ定期便」を発表したZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイだ。アパレル業界を引っ張るトップ企業の座を狙える位置まで来ている。

 

このスタートトゥデイの躍進には驚くばかりだが、決算書を読み解いていれば予見できたかもしれない。2015年3月期の決算書をのぞくと、売上高は411億円。百貨店業界の首位を走る三越伊勢丹が同時期に1兆2000億円を叩き出していたので、その差は歴然。これだけ見ると「あちゃー」と思ってしまうが、前川さんはROE(株主資本利益率)に着目している。

 

ROEとは「当期純利益/株主資本」によって割り出した数字のことで、これまた詳細は本書に譲るが、企業の出資者である株主たちが非常に気にする指標だ。この数字が高ければ高いほど、その企業が成長する可能性が見込める。では、この時期の両者はどうだったかというと、三越伊勢丹のROEは5.51%だったのに対し、スタートトゥデイは40.41%。

 

数字に表れた通り、2年後の2017年3月期、三越伊勢丹の売上高は伸び悩み、スタートトゥデイは急成長。当期純利益に限ると、スタートトゥデイ170億円に対し、三越伊勢丹150億円。なんと追い越してしまったのだ。

 

このように、決算書を読み解けるようになれば、企業の現在の状態や将来性を見抜くことができる。つまり「いい会社に就職したい!」と意気込む就活生や転職者にはぴったりだし、投資家を目指す方には必須のスキルと言えるだろう。

 

決算書は予言の書と言うべき、一般市民の心強い味方だ。その素晴らしさを教えてくれるのが本書であり、手に取った読者に最高のスキルと未来を与えてくれるはずだ。そして本書のタイトルのごとく、あの大女優の名ドラマのワンシーン、「見た!」という驚愕の瞬間が訪れる……かもしれない。

 

文=いのうえゆきひろ

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