3000本のAVを撮影・村西とおるが明かす「NO」から「YES」に女性を説得する禁断の「応酬話法」

人間関係

(村西とおる/祥伝社)

AV界の巨匠、村西とおる。彼の経歴を見つめると、波瀾万丈という言葉にふさわしい激動の人生が浮かび上がる。20代にして月収200万円以上を稼ぐ英語百科事典のトップセールスマンになり、40歳でダイヤモンド映像を立ち上げると年商100億円もの売り上げを叩き出した。一方で、前科7犯、投資に失敗して一時は50億円もの借金を背負った。3000本のAVを制作し、「顔面シャワー」や「駅弁」を生みだした村西監督の人生は、上にも下にも突き抜けている。

 

人は良い方向でも悪い方向でも、突き抜けるには才能が必要だ。その才能が村西監督にはあった。「応酬話法」と呼ばれる「禁断の説得術」があったのだ。この技のおかげでトップセールスマンになり、AV界の巨匠として君臨し、50億円の借金を完済できたという。この話法を使えば、一般人である私たちもトップセールスマンになれたり、異性を簡単に口説き落とせたり、ピンチを難なく脱しられたりするスキルを身につけられるかもしれない。いったいどんな話法なのだろうか。『禁断の説得術 応酬話法』(村西とおる/祥伝社)よりちょっとだけ覗いてみよう。

 

 

■相手を肯定しつつ否定も織り交ぜる「間接否定話法」

 

応酬話法を一言で表すならば、お客さんから投げかけられる疑問・質問・反論に答えるセールストークのことだ。村西監督は百科事典を売り歩くセールスマン時代にこの話法を身につけ、お客さんに声をかけては次々に契約を結んだ。

 

「なんだ、ただの営業用トークじゃないか」と思ってしまいそうだが、この話法のキモは「粘り」にある。「誰かを説得したいとき」というのは、相手から「ノー」と言われているときでもある。そこで簡単に「はい、そうですか」と引き下がれば営業で成績を上げることもできないし、目の前の異性を口説き落とすこともできない。「ノー」を「イエス」に変える「粘り」こそ応酬話法の真髄だ。

 

その1つに「間接否定話法」がある。村西監督がよく使っていたテクニックだ。その相手はAVにはじめて出演する女性たち。いざ撮影の現場に踏み入れると、どれだけAV出演を望んでいたとしても彼女たちは処女喪失時のように恐れを隠せなくなる。「やっぱりやめようかな」と言い出すこともある。女性が「ノー」を言い始めるのだ。

 

こんなとき「ここまで来てやめるのはあんまりだよ」と説得を試みるのは絶対NG。女性は男たちに対して「この人は自分の都合だけを押しつける人間だ」と不信感を持ってしまう。そこで村西監督は「ノー」を「イエス」に変えるべく間接否定話法を繰り出す。「そうだよね、君のような素敵な女性が簡単にAVに出演するわけがないよね」と、彼女の意見を肯定してしまうのだ。そして次のように会話を展開していく。

 


「簡単に『出演します』という娘は、制作側からは魅力的に見えないですね。君みたいに消極的で最初は迷うくらいの娘じゃないと、こちらが燃えないから、いい作品が撮れないんですよ。正直に言うと、君が『やっぱりやめようかな』と言った時、私は心のなかで『やった!』と叫んでいたんですよ」

これぞ3000本ものAVを制作した監督の匠の技だ。女性の意見を肯定して称賛しつつ、ソフトな否定もひっそりと織り込み、「ノー」を「イエス」に変えていく。こうして気分を良くした女性たちは「出来心」と共に作品に出演する。

 

本書ではこの「間接否定話法」を含めた「質問話法」「繰り返し話法」「実例話法」「聞き流し話法」という5つの応酬話法のテクニックを紹介している。村西監督が人生を突き抜けていった極意とも呼べる技の数々がここにある。

 

 

■応酬話法の根底に流れるもの

 

しかし本書を読む限り、どうやら応酬話法だけが村西監督の人生を支えたわけではないようだ。私たちは相手があってはじめて会話ができる。会話というのは相手を思いやってこそ話が成立する。話が成立してはじめて相手と心を通わせることができる。

 

つまり一方的に「説得してやろう」という自己中心的で独りよがりな気持ちが心を支配していては、説得するどころか会話すらできない。相手は心を開くことなく、どれだけ応酬話法を繰り出しても「ノー」は「ノー」のままだ。

 

相手を心から思いやり、素晴らしい何かを提供したい、かけがえのない時間を共に過ごしたい、そんな気持ちが体中からあふれ出てこそ、はじめて応酬話法の真髄が発揮されるのではないか。応酬話法の根底には、私たちがなにより大切にするべき「相手を敬う心」が隠されているように感じる。話術を磨くことも大事だが、言葉にできない「もっと大事なこと」を本書は気づかせてくれるようでもある。

 

上にも下にも突き抜けた人生を歩んだ村西監督。彼にはとんでもない才能があった。応酬話法という「ノー」を「イエス」に変える話術と、その話術を実現させる人間としての器があった。本書はそんな彼の偉大さを感じさせてくれる1冊だ。

 

文=いのうえゆきひろ

関連記事