これから必要とされる人材を育てるには——佐藤優が語る人生力を伸ばす浦和高校の極意とは

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(佐藤優・杉山剛士/講談社)

この四半世紀で社会の情報化が急速に進み、知識はGoogleやYahoo!などの検索エンジンを使って簡単に得られる時代となった。これからの時代に求められるのは、知識の豊富さではなく、その豊富な知識をいかに創造的に生かすかであることは言うまでもない。

 

しかし、社会の急速な変化に追いつくことができず、日本がいまだに知識偏重型の教育から抜け出すことができていないのもまた事実である。そこで、これからの時代に適った「知の力」をどのように育んでいくかが問題となってくる。

 

本稿ではこの問題に関して、『埼玉県立浦和高校 人生力を伸ばす浦高の極意』(佐藤優・杉山剛士/講談社)に即した議論を展開していきたいと思う。なお、埼玉県立浦和高等学校は本書の著者であり、元外務省主任分析官でもある佐藤優氏の出身校である。本書は佐藤氏が母校でおこなった講演の内容や浦和高校の校長である杉山剛士氏との対談をもとに再構成されたものである。

 

 

■「教育」の観点からするとあまりよくない「受験刑務所」

 

佐藤氏によれば、日本には多くの「受験刑務所」的な全寮制の中高一貫校が存在するという。たとえば、夕方5時に放課しても夜の9時までは宿舎に入れないような学校だ。5時から9時までの4時間は学校に設けられた自習室で勉強をしていなければならないのである。そして、このような学校に特徴的な点がもうひとつある。それは、生徒の「適性」と「優秀さ」を勘違いした進路指導である。こうした進学校は東京大学や早稲田大学、慶応義塾大学といったいわゆるエリート大学の合格者数を伸ばすために、生徒の適性を鑑みず早々に受験科目を絞って集中的に勉強させるのだという。

 

なぜこのような「受験刑務所」が「教育」の観点からしてよくないのかといえば、生徒本人の「適性」と「優秀さ」を勘違いしていることと、科目を超えた「総合知」が求められる時代を迎えているのにもかかわらず、勉強する科目を絞ってしまっていることがその理由である。

 

 

■受験科目の内容ではなく、幅広い教養と自分と向き合う力を身につける

 

佐藤氏は、こうした学校とは対照的に、これからの時代に求められる人材を育む高等学校も一方で存在すると述べている。それは彼の母校でもある浦和高校のような伝統的な公立高校だという。公立高校の中にも、有名大学への進学率を売りにしているものはなくはないが、やはり浦和高校をはじめとした伝統ある公立高校には、「総合知」を身につけるためのシステムが備わっているという。多くの高校は受験勉強に特化するために美術や音楽、工芸などの実技科目を軽んじていることが往々にしてあるが、浦和高校では受験科目以外のこともやるというカリキュラムを通じて幅広い教養を身につけさせようとしているのだ。

 

佐藤氏と杉山氏は、実技科目以外にも全校生徒参加型の、一見すると非合理な学校行事にも意味があると説く。実際に浦和高校で伝統的に行われている「新入生歓迎10キロマラソン」や臨海学校での「遠泳大会」、50キロを歩きぬく「強歩大会」などには、他者との比較をするのではなく、昨日までの自分を超えていくというコンセプトがあるそうだ。

 

これからの時代に必要となる人材は、受験科目だけに縛られることなく幅広い教養を身につけた人で、なおかつ自分と他者を比較するのではなく、過去の自分といまの自分を比べてみずから成長していこうという意欲のあるものだと思う。

 

子どもをどこの学校に入れようか考えている保護者の方や、自分がすすむべき道を探している中学生・高校生の助けになる1冊だということは間違いないだろう。

 

文=ムラカミ ハヤト

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