新しいビジネスを成功させる「+α」という考え方

ビジネス

酒井威津善

 

新しいビジネスを考えるとき、やってはいけないことが2つあります。ひとつは、ゼロから考えること。何か新しいビジネスを、となると「これまでにない方法や商品はないだろうか」とつい“ゼロ”から考えがちです。残念ながら、これは時間の無駄です。なぜなら、仮に新しい方法が見つかったとしても、実際に売れるかどうかを確認するまでかなりの時間とコストを要するからです。ハッキリ言って現実的とは言えません。

 

そしてもうひとつが、他社のやり方をそのままマネしてしまうこと。何の工夫も加えずに他社の新しいやり方をそのままやってしまうことです。例えば、競合がインターネットでビジネスを立ち上げた。じゃあ、我が社もという風に。

 

市場がまだ成長期にあるならこのやり方でもOKですが、今、そのような業界はほとんど存在しません。単純なマネだけをすれば、価格競争が待っているだけです。では、どのようなやり方をすれば新しいビジネスが生み出せるのでしょうか?実は、それほど難しいことではありません。ちょっとした工夫で新しいビジネスを生み出すことができるのです。

 

 

■すでにある商品やサービスを焼き直す

 

成功を収めているビジネスの多くは、すでにある商品やサービスと大きな違いがないことをご存知でしょうか?もちろん、まったく同じというわけではありません。何が違うのか。それは、既存の商品やサービスに「今までにない付加価値」がついている点です。

 

例えば、「古本」。もともと古本屋と言えば、天井まで積み上げられた本、そして小さな店舗で店主が一人静かに佇んでいる、どちらかと言えば暗いイメージのあるビジネスでした。しかし、やの登場でその姿は一変しました。両社が行ったことは従来の古本屋さんと基本的には変わりません。不要になった本を買い取る。利益を乗せて、店頭に並べる、という古本屋さんならでは流れです。両社が従来の古本屋のビジネスに新たに付け加えた価値は2つ。

 

「イメージ」と「取り扱う商品」です。

 

ロードサイドに大規模な店舗を構え、明るい照明の中で大量のタイトルを並べました。そうして新刊書店と同じような雰囲気を作り上げた結果、古本屋=暗いというイメージを払拭。さらに、これまでの古本屋にはなかった「ゲーム」や「CD・DVD」を取り扱い始め、単なる中古本ではなく、「リサイクルショップ」という新しい形に焼き直したのです。こうした新しい付加価値によって、従来の古本屋には寄り付かなかった若い人たちが訪れるようになり、古本の市場は瞬く間に大きく成長。今や中古本だけでも1300億円近い規模です。

 

 

■既存のビジネス+αの価値が成功への近道

 

古本屋の事例から学べるのは、既存のビジネスをそのまま踏襲するのではなく、新しい価値、つまり+αを加えることが、ポイントだということです。こうした新しい価値を付け、成功している事例は古本だけにとどまりません。まったく違う業界から2つご紹介しましょう。

 

ひとつめは、シェアハウス。シェアハウス自体も従来のアパートに共同スペースを設け、住人同士でコミュニケーションが取りやすくしたという新しい付加価値をつけたものです。しかし、ここ数年で一気に広がり、全国で2800件、東京都内だけで約1900件も数えるほどになり、ビジネスとしての魅力はすっかり色あせています。今からシェアハウス市場にそのまま参入しても、たぶん儲からないでしょう。特に都内は競合だらけ。さらに人口減少で若い人が減り始めていて、お客さんの取り合いになるのが目に見えているからです。

 

「それはそうだよな、今さらシェアハウスを始めても遅いよな」

 

と、ここで思考を止めてはいけません。古本と同様、新しい付加価値を付け、成功しているケースがシェアハウスにもあります。

 

例えば、お。神奈川県横浜市で不動産建築や賃貸を行っているが運営する横浜の菊名にあるシェアハウスです。一見普通の「シェアハウス」なのですが、なんと隣駅から『おばあちゃんコンシェルジュ』が週3日やって来て、洗濯・掃除・料理などの家事を行ってくれる「家事サービスシステム」が付いているのです。おばあちゃんコンシェルジュの費用は月額8800円。仕事を終えて帰宅すると掃除・洗濯が済んでいる上、「タニタのレシピ本」に代表される低カロリーの夕食も用意。テレビをはじめ、様々なメディアで取り上げられ、キャンセル待ち状態が続いているほど好評。見事な付加価値です。

 

ふたつめの事例はコインランドリー。コインランドリーと聞くと、アパート住まいの独身の若い男性がまとめて洗濯ものを持っていく、という暗く女性が入りにくいイメージがありますが、もはや過去の話。店舗は明るくなり、設備もクリーニング店にあるような高機能。羽毛布団や靴なども家では洗えないようなものが洗えるようになり、自宅に洗濯機がある主婦も利用するようなるなど新たな需要を生んでいます。さらに、設備をインターネットでつなぎ、空き状況までわかるその名も「ITランドリー」なるものまで登場。ますます利用者が増えています。今や駐車場ビジネスに代わり、新たな遊休土地ビジネスとして有望な存在となり、コインランドリーは、ここ10年間ずっと増加傾向。まさに既存のビジネスを焼き直した好例です。

 

対照的に人が受付にいる従来のクリーニング店は、この10年間で約40000店も減少。 (出典:厚生労働省生活衛生局統計資料)

 

 

■お客さんの意見が正しいとは限らない

 

ここまで既存ビジネスに何かをプラスすることで新しい価値を提供する事例をご紹介してきましたが、こうした方法を取る上でやってはいけないことがあります。それは、お客さんからの意見をそのまま反映させてしまうこと。どんなビジネスをやっていても、必ず「こういうものを置いて欲しい、こういうサービスを加えてほしい」というお客さんの声が聞こえてきます。もちろん、その声を採用して成功する場合もありますが、気をつけておきたいのは必ずしもお客さんが正しい答えを知っているとは限らないという点です。

 

こんな例え話があります。明治維新のあと、蒸気機関車がイギリスから輸入されることが決まったときのこと。街行く人々にもっと早く移動するためにはどんな手段が欲しいかと尋ねたところ、「早い人力車」「今より早い籠」という答えが帰ってきたそうです。だれ一人として、機械で動く乗り物はイメージできなかったという話です。

 

極端な話かもしれませんが、お客さんはどうしても自分の都合や、自分が知っている範囲だけで答えます。人間ですから当然と言えば当然なのですが、お客さんの意見=正しいとは限らないということです。お客さんの意見は参考程度に止め、新たな付加価値を探るのが懸命です。

 

 

■金鉱脈はどこに眠っているのか

 

既存のビジネスの収益が厳しくなってきた。何か新しいビジネスをと考えているなら、ぜひ、世の中にある商品やサービスを見直してみましょう。とはいえ、どうやってそのターゲットを選べばいいのでしょうか。

 

それは、ここまでご紹介してきた「古本」「シェアハウス」「コインランドリー」に共通する点、

 

 ・長い歴史がある

 ・大企業によって専有されていない、中小企業がひしめき合っている

 

といったことがポイントになるはずです。あのQBハウスも、理容業という長くそして大企業の不在の市場に1000カットという新たな付加価値をもって、参入、成功しました。すっかり定着し、多くの人にとって当たり前になったビジネスに対して、独自の付加価値がプラスできないか、ぜひ探してみてください。そこには思いもよらない金鉱脈が眠っているはずです。

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