【今週の大人センテンス】「笑点」の司会を引退する歌丸さんの置き土産

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出典:笑点オフィシャルウェブサイト

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第6回 生き死にを笑いのネタにする美学と覚悟

 

「日本テレビさんが、50周年を控えているからそれまでは生きていろと言われまして、んで、生きていたんですが」by桂歌丸

 

【センテンスの生い立ち】

4月30日、日本テレビの超長寿番組「笑点」の50周年記念特番(5月15日放送)の収録で、司会を務めている落語家の桂歌丸さんが「体力の限界」を理由に、番組からの引退を発表。収録後、大喜利メンバーとともに会見に臨んだ。その中で、昨年の秋に日本テレビ側に引退を申し入れたときの様子について、自虐的に脚色しながらこう語った。

 

3つの大人ポイント

・79歳という高齢なのに自分の「死」を笑いのネタにしている

・引退の発表という寂しいニュースを全力で明るく伝えている

・限界までがんばり抜いた姿を通して多くを教えてくれている

 

「笑点」がスタートしたのは、1966(昭和41)年5月15日。もうすぐ丸50年を迎えます。そんな晴れやかな節目のタイミングで、寂しいニュースが飛び込んできました。第1回から大喜利メンバーとして出演し(なんと当時29歳!)、2006(平成18)年5月からは5代目司会者を務めていた桂歌丸さんが、番組を引退することを発表したのです。

 

引退の理由は、本人曰く「体力の限界」。数年前から体調が思わしくなく、何度か手術のための入院で番組を休んだこともありました。4月30日に行なわれた引退発表の会見によると、現在は「歩くことがたいへんに苦しい」状態だとか。歌丸さん、長いあいだ本当におつかれさまでした。会見の模様は、こちらで見ることができます。

 

(MaiDiGiTV)

 

さすが芸ひと筋に生きてきた落語界の重鎮、会見ではたくさんの「大人センテンス」が飛び出しました。

 

 

「(司会者はやめても)落語は続けます。まだまだ覚えたい話も数多くありますので。落語のほうだったら、みんなに負けちゃあいられませんからね」

 

「(今の率直な心境は)そりゃ、寂しいですよ。踏ん切りをつけなければ席を譲ることはできませんので、踏ん切りをつけました」

 

「(次の司会を誰にするかは)私が口出しすべきことじゃなくて、日本テレビさんにお任せしてあります」

 

「(終身名誉司会をやらせるんだったら)みんな、上納金、持ってきなさいよ」

 

芸に対する限りない欲、引き際を決意するにあたっての思い、あくまで出演者という立場としてのプライドとケジメ、そして茶目っ気……。

 

歌丸さん本人だけでなく、メンバーたちのコメントも大人力にあふれていました。三遊亭円楽さんは、涙をこらえながら「死ぬまでやったらいいと思ったんですよ。あそこ(司会者席)で死んじゃえばね、あたしがまた突っ込めるしね。大きなネタがひとつなくなるという自分の寂しさ……」といつものようにブラックに語り、それに対して歌丸さんは「ざまあみやがれ、ちくしょー」と突っ込んでいます。

 

もともと「笑点」という番組は、どこを切っても大人力が顔を出しますが、とくに素晴らしいのが生き死をネタにするというタブーを微塵も怖れないところ。歌丸さんが79歳、林家木久扇さんも78歳、三遊亭好楽さんや三遊亭小遊三さんもそろそろ70歳という高齢者だらけの状況で生き死にをネタにするには、かなりの勇気と覚悟と芸が必要です。今の日本で生き死にをネタにできるのは、この番組と毒蝮三太夫さんだけではないでしょうか。ちなみに毒蝮さんも、番組の初期に座布団係を1年半ほど務めていました。

 

歌丸さんの引退発表があった翌日の放送でも、たまたまなのか狙ってなのか、いつも以上に生き死にのネタが盛りだくさんでした。前半の演芸コーナーでは、鉄拳さんと林家たい平さんがコラボ。「こんな『笑点』はいやだ!!」というネタで「メンバーの半分以上が昇天している」と言ったり、歌丸さんがゆるキャラになったというネタで、たい平さんが鉄拳さんに「亡くなったあとも誰かが入れば『笑点』がそのまま続くんじゃないか……」と耳打ちしたりなど、見ている側がヒヤヒヤしてしまうブラックさでした。

 

昨今のテレビは、いやテレビに限らず世の中全体が、クレームや反対意見を怖れて無難に差し障りがないように縮こまっています。とくに誰も困らないし怒らないのに、先回りして「これはちょっとマズイんじゃないか」と自粛してしまうこともしばしば。歌丸さんや、歌丸さんが引っ張ってきた「笑点」は、たとえば生き死にを堂々とネタにすることで、大切なのはいろんなことを笑い飛ばすことだという信念や美学を表現してくれています。

 

もちろん「死」は厳粛で悲しいこと。むやみに茶化すことは許されません。番組を引退する歌丸さんから私たちが受け取りたいのは、タブーを怖れるなとかそういう具体的な話ではなく、自分が「死」をネタにいじられまくることによって伝えようとしてくれた「ものすっご~~く(座布団10枚の特典の紹介風に)大きな何か」や「ものすっご~~く大事な何か」ではないでしょうか。歌丸さんがいなくなったあとも、後輩のメンバーのみなさんが、笑いを通してそんな思いを私たちに伝え続けてくれるに違いありません。

 

まあ、とはいえ「笑点」なので、ややこしく考えすぎるのはかえって失礼です。お約束の世界に身をゆだねながら「く、くだらない」と失笑するのが、出演者のみなさんに対するもっとも真摯な敬意の表し方と言えるでしょう。

 

 

【今週の大人の教訓 】

寂しい話ほど明るく語ったほうが聞く側の胸を打つ

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