娘に殺害されたとされる「教育熱心な」母親が見えてなかったもの

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福田由紀子

 

2016年5月8日、台東区の自宅マンションで母親を窒息死させたとして、高校1年生の長女(15)が逮捕されました。事件そのものは同年2月に起こっています。死亡推定時刻は、26日夜から27日未明。27日朝、長女は通常通り登校して昼過ぎに帰宅し、夜7時頃になって「母が息をしていない」と119番通報したようです。ソファに横たわって死亡していた母親の首にはタオルが巻かれており、抵抗した形跡はなかったとのこと。

 

長女は殺害を否認し、黙秘を続けているそうです。

 

ひとりっ子。父親は不在がちで、警視庁の調べに「教育や子育ては基本的に妻に任せていた」と話しているとのこと。殺害された母親は「教育熱心」で、虐待通報されたこともあるようです。母親と二人きりの「密室」の中で、長女は何を考え、何をがまんしてきたのでしょうか。

 

「容疑者」イコール「犯人」ではありませんので、報道から見えてきた事実をもとに彼女が置かれた状況について考えてみたいと思います。

 

 

■親が敷くレールには「友だち」が組み込まれていない

 

千葉の私立小学校から、都内の中高一貫の私立校に進学。しかし、附属高には進まず、別の高校へ。母親は語学留学をさせる計画を立てていたといいます。

 

ここまでで、私がまず思ったのは「友だち作りで苦労しただろうなあ」ということです。お受験組の子どもたちには、多くの場合「近所の友だち」がいません。通学に時間がかかる上、彼女は水泳やピアノの習い事もしていたとのこと。友だちと遊ぶ時間を捻出するのは至難の業だったことでしょう。小学校の友だちとも中学進学によってお別れとなっています。

 

思春期~青年期は、「自分とは何者か」を模索する時代です。心と体が急激に変化していく中、先の見えない不安や大人たちへの反発を友だちと分かち合い、少しずつ「自分らしさ」を発見していきます。

 

中高生時代を振り返ると、親との思い出よりも友人との思い出の方がはるかに多いのではないでしょうか。この時期の「友だち」は、人生の基盤を築いていく上で、とても大切な存在。しかし、「教育熱心」なあまり、友だちとの時間を軽視する親は多いようです。

 

 

■ツールで繋がる時代

 

殺人容疑で逮捕された長女は、「スマホがほしい」と母親と口論になっていたと報道されています。

(-産経ニュース)

 

高校に内部進学しないことになった彼女は、またしても学校で「イチから」友だち作りをしなくてはいけなくなります。そんな中、中学時代の友だちと繋がり続けるためのツールとして、スマホがほしいという彼女の気持ちは十分理解できる気がします。首都圏での中学生のスマホ所有率は80%を超えています。

 

「ガラケーで十分」という声もあるでしょう。しかし、SNSの普及により、コミュニケーション手段は近年格段に変化しました。Facebook、LINE、Twitter……どのSNSで繋がるかは学校やコミュニティによって異なります。用件によって連絡手段を使い分けている人も多いようです。

 

LINEグループなど、複数で同時にやりとりできるというのは、メールにはない機能です。「LINEいじめ」など、ツールが発達したために出てきた問題もあります。しかし、友だちと家が遠い「お受験組」の子どもたちにとって、SNSは友だちと繋がるために欠かせないツールになっているというのも現実です。

 

記事にはこうあります。「長女は両親ら親族とだけ通話やメールができる携帯電話を使っていた」……これって、キッズ携帯!?

                 

 

■見過ごされやすい「優等生」の生きづらさ

 

殺すくらいなら、家出すればよかったのに。……そう思う人もいると思います。しかし、彼女にその選択肢はなかったと思います。家出も非行も、そもそも思いつきもしなかったのではないでしょうか。そもそも、ガラケーさえも持たされていない状態で、誰を頼って家を出て行けばいいのでしょう。

 

帰宅後の友人との通信手段がない状態で、息苦しさがどんどん高まっていった様子は容易に想像できます。「スマホ欲しさ」なんかじゃない、もっと根の深い鬱屈が何年もかけて醸成されていたのではないでしょうか。

 

学校からも友だちからも物理的に遠く、気軽に連絡できないため友だちとの心理的な距離も遠い。そして、多くの場合「優等生」は、がまんが得意です。「なんの問題もない」と思われている子は、深刻な悩みであればあるほど、周りに相談できません。

 

家庭内は「密室」になりやすいため、子どもの育ちには「風穴」が必要です。あなたの子どもには、親の愚痴を言える場所、親とケンカした時に逃げ込める場所が、いくつあるでしょうか。時には「クソババア」と言われ、「うちの親ってひどくてさぁ!」と周りに悪口を言われ、それでもフフンと笑い飛ばせるような親が、この時期の子どもたちには必要なのかもしれません。

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福田由紀子

女性支援を専門とする臨床心理士。認定フェミニストカウンセラー。女性のエンパワーメント(力を取り戻す/力をつける)支援をライフワークとしている。性暴力、虐待、DV、トラウマ・PTSD、母娘関係、アサーティブ(...

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