【今週の大人センテンス】我が子を否定する母親の相談に対する厳しい回答

話題

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第8回 母親の辛さも理解した上での愛ある叱責

 

「あなたはすでに息子さんを精神的に抹消しているのと同然です。」by大日向雅美

 

【センテンスの生い立ち】

2016年5月19日付の読売新聞(東京本社版)朝刊『人生案内』欄に、「中3息子がゲームばかり」という相談が掲載された。相談者は山口県に住むシングルマザーの40代女性。〈息子を私の人生から抹消したいとさえ考えます〉〈本人にも、「こんなクズ、産むんじゃなかった」と言います〉といったショッキングな相談に対して、恵泉女学園の大日向雅美学長は、「よく息子さんは耐えていると思います」と息子に同情しつつ、はっきりこう指摘した。

 

3つの大人ポイント

・非を責めるだけではなく、自分の過ちに気づかせようとしている

・「尋常」な状態ではない母親に届くように、あえて厳しく叱っている

・現状を変えるために、まず何をすればいいかを具体的に教えている

 

この人生相談がネット上で話題になったのは、@atsumi_vさんの「そういえば、今朝の読売新聞朝刊人生案内は久しぶりのヒットだな…と思いました」というツイートがきっかけ。たちまち大量にリツイートされて拡散し、ネットニュースにも取り上げられました。でも、さまざまな声が集められています。

 

思い通りにならないからといって、中3の息子に「こんなクズ、産むんじゃなかった」と言ってしまう母親……。相談の文面からは、そう言ってしまった自分に対する反省は感じられません。「中学3年の息子がどうしようもなくて、嫌になります」「息子を私の人生から抹消したいとさえ考えます」「こんな日々がいつまでも続くのかと思うと、今、更生させるべきなのかと悩みます」など、むしろ被害者意識をたっぷり抱えているようです。

 

明らかにひどい話で、ここまで読んだ段階で頭の中に罵倒の言葉がたくさん浮かんでいる方も多いでしょう。しかし、たとえばネットに「信じられない!」「ひどい母親だ!」と書き込んだところで、目先の留飲を下げる以上の意味はありません。世の中にはスキあらば「自分の育て方(育てられ方)は間違っていない!」と叫びたくて仕方ない方が少なくないようで、子育てネタはしばしば勢いよく炎上します。はっきりとした正解がないだけに、誰もが漠然とした不安を抱えているからでしょうか。

 

また、こういう話になると「最近の母親は」とか「今の世の中は」といった批判もよく見られます。しかし、子どもにひどい言葉を投げかけてしまう母親はいつの時代もいたはず。じつは長く人生相談のコレクションをしていますが、20年前、30年前の人生相談にも、同様のことを言ってしまった側や言われた側の相談はたくさんありました。単なる罵倒も世代や時代のせいにする言い方も、自己肯定や自己満足を与えてくれるという点では同じこと。もちろん、よくある話だから仕方ないと言いたいわけではありません。

 

回答者の大日向雅美さんは、発達心理学が専門で家族や親子関係について長く研究してきた方。この相談の回答者として、まさに適任と言えるでしょう。明らかに追いつめられていて、それでいて自分がひどいことをしている自覚に乏しい相談者に、相談者と息子が置かれている状況を冷静に説明しながら具体的にどうすべきかを指南しています。

 

子どもは必ずしも、親の思い通りに育たないものです。さりとて自分の人生から息子さんを抹消したいとは尋常ではありません。

 

しかも家の中では、対照的に優等生のお姉さんが輝いていて、自分をめぐって祖父母の小言が飛び交い、母親からは存在を全否定されているのです。(中略)あなたはすでに息子さんを精神的に抹消しているのと同然です。

 

きつめの言葉で厳しく叱っていますが、けっして愛のない罵倒ではありません。おそらくは、母親が追いつめられていることが根底にあることを理解しつつ、まずは「自分が加害者なんだ」と気づかせようという意図があってのこと。母親としては「自分は一生懸命にやっている」という思いがあるでしょうから、やさしく言っているだけでは、自分に言い訳するばかりで本当の問題点に目を向けようとはしないでしょう。

 

反省を促した上で、「まず息子さんへの接し方について率直に謝ってください。今、何を考えているのか、何をしたいのか、じっくり聞いてください」と、現状を変えるために何をすればいいかを具体的に指南。そして、締めで「この先、ひきこもったり暴力を振るったりするほど追いつめないために、即刻あなたの心と態度を改めるべきです」と、変わるべきは自分なんだと念を押しています。

 

このメッセージが母親に届いて、素直に自分が置かれている状況を見つめ直し、やがてこの親子の関係が改善することを願わずにはいられません。息子の側としては母親を簡単に許すことはできないでしょうけど、いつの日か「あのときは母親もたいへんだったんだ」と理解できる大人になってくれるといいのですが……。いや、見ず知らずの私がそんなことを心配するなんて、それこそ自己満足の余計なお世話ですね。

 

私たちとしては、この大日向さんの大人力に満ちた回答から、こうした「明らかにひどい話」を目の当たりにしたときに、どう振る舞えばいいのかを学びたいところ。感情に任せて非難したり罵倒したりするのは簡単ですが、そこを踏み止まって、少しでも「大人として恥ずかしくない反応」ができるようにがんばりましょう。荒っぽい言葉で非難や罵倒に精を出すだけだと、それこそこの母親のように、第三者からは「そうせざるを得ないほど追いつめられている自分を振り返ったほうがよろしいのでは……」と思われてしまいます。

 

【今週の大人の教訓】

何かに腹が立って仕方ないときは、たいてい自分の側に理由がある

この記事が気に入ったらいいね!しよう

citrusの人気記事をお届けします

SNSで記事をシェア

コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

石原壮一郎のプロフィール&記事一覧
ページトップ