痴漢えん罪経験者を絶望に突き落とした、真の加害者は誰か?

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三浦ゆえ

 

Eテレ『ねほりんぱほりん』は、2匹のモグラがゲストのブタに「そんなこと聞いちゃっていいの~?」という話を根ほり葉ほり聞き出すトークショー番組です。モグラやブタというのはぬいぐるみで、“中の人"はモグラ=インタビュアーのYOUと山里亮太、ブタ=顔出しNGのゲスト。これまでにも「ナンパ教室に通う男」がその背景にあるこじらせまくった恋愛観を吐露した回や、「養子」として育った人物がその複雑な心中を語った回などが話題を集め、ファンを増やしています。

 

1月25日に放映された回のゲストは、「痴漢えん罪経験者」。コミカルなブタの風貌や動きとは裏腹に、その体験談は実にヘビーでした。

 

 

■痴漢を疑われた瞬間、絶望が始まる

 

男性は通勤電車で突如濡れ衣を着せられ、そこから3カ月間も拘留されて自宅に帰れなかったといいます。警察での強引かつ屈辱的な取り調べが続き、起訴されるやいなや会社からは退職を勧められ、2年半にわたる泥沼裁判には600万円を費やし、当人だけでなく妻も深刻なうつ状態に陥ります。ふたりの子どもを道連れに死のうとしたこともあったとか。

 

それでも「この子らを犯罪者の子どもにしたくない」という一心で裁判を戦い、無罪判決を勝ち取るも、失われた日々は二度と戻らない……。最後に、成長して現在は大学生となった息子が登場し(ブタのぬいぐるみとして)、父への尊敬と感謝を述べ心あたたまるエンディングを迎えたものの、翻弄されてしまった男性の人生を思うと苦さが強く残りました。

 

 

■えん罪事件の加害者は女性なのか?

 

痴漢の話が出ると、必ずといっていいほど男性からは「でも痴漢えん罪があるじゃん」というひと言が出てきます。ひとたび痴漢の疑いをかけられれば人生が大きく狂う実情を強烈に伝えた同番組を見ると、男性はますますその恐怖を募らせるでしょう。「自分たちは被害者になりうる性」だと考え、痴漢という問題に関しては思考がストップしてしまいます。

 

しかしこの場合の加害者とは誰なのでしょう? 男性を「痴漢です!」と通報した女性でしょうか? 筆者は同番組を視聴しながらSNSでの反応をチェックしていましたが、「えん罪怖い」が「女性怖い」にスルリとすり替わり、女性という性が加害者であると感じている人が少なからず見受けられました。「痴漢えん罪は女性から男性への性犯罪」というコメントもありました。

 

 

■「間違っていたら…」と思うと通報できない

 

同番組では、先に紹介した男性以外にも痴漢えん罪経験者が証言していましたが、そのうちのひとりは裁判で無罪となった後、女性が怖くて電車に乗ると過呼吸になり、夜道で女性とすれ違うときに「また何かされるのでは」と恐怖にかられると語りました。

 

しかし、女性らも被害者である可能性を忘れてはなりません。痴漢に遭いながらも満員電車ゆえに犯人の特定を間違ってしまう……十分にありえることです。痴漢加害者は逃げるのも巧妙だといいます。けれど、こうした場合に女性を責めるのは筋違いです。間違いは警察の調べによって訂正されればいいことですし、女性の責任を重くすれば痴漢に遭っても「間違っていたらどうしよう」と訴え出るのを躊躇するようになります。そうでなくとも通報が女性に精神的、時間的負担を過剰に強いている構造があるうえに、通報のハードルをさらに上げるとなると、喜ぶのは本物の痴漢だけなのは明白です。

 

 

■無実を訴えても、聞く耳持たない警察

 

痴漢えん罪の話題では、女性側が示談金を狙ってえん罪を仕掛けるという説がほぼ100%の確率で登場しますが、もしそういうことが本当にあるのであれば、ひとつの犯罪として警察が調査してその事実を明らかにしていくべきものです。ただ、同番組を観てもわかるように、加害者とされた男性が否認し裁判になった場合、女性もそこに多大な時間と労力が奪われますし、えん罪だとわかれば一銭にもなりません。むしろ出ていくお金のほうが多いでしょう。“おいしい"商売になるとはまったく思えないのですが。

 

同番組に登場した男性が語る、警察での取り調べはひどいものでした。痴漢事件は立証がむずかしいといわれますが、それでも男性が無実である根拠を再三再四、訴えてもすべて無視し、決め付けと恫喝とで男性を犯人に仕立て上げていく……こうしてひとりの「痴漢えん罪被害者」が誕生しました。

 

そしてそれ以前に、女性に加害しながらうまく逃げおおせた痴漢がいるではありませんか。性被害の苦しみも、ぬれぎぬを着せられた男性の絶望も知らず、明くる日もまたどこかで痴漢行為をくり返す卑劣な人物です。同番組では「痴漢えん罪に詳しい弁護士」もブタのぬいぐるみで登場し、「痴漢は女性の敵ではなく、男女の敵」と明言していました。このひと言に「真の加害者は誰か」の答えがあります。
 

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三浦ゆえ

フリー編集&ライター。富山県出身。複数の出版社に勤務し、2009年にフリーに転身。女性の性と生をテーマに編集、執筆活動を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』シリーズをはじめ、『失職女子。~...

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