経営者からみた「正社員」と「派遣社員」の決定的な違い

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後藤百合子

経営者からみた「正社員」と「派遣社員」の決定的な違い

元旦のテレビ番組での竹中平蔵氏の「正社員廃止」発言以来、「正社員」制度の是非についていろいろな議論が出ていますが、経営者の視点から議論の中で「決定的に欠けている」と思う点がいくつかありますので、述べてみたいと思います。

 

■「正社員」と「アルバイト」「パート」「契約社員」の違いは?
一般的には「正規雇用」VS「非正規雇用」という議論がされていますが、法律的にみると正社員とそれ以外の直接雇用従業員の雇用形態の違いは、「無期雇用」か「有期雇用」かにつきます。

 

日本企業の正社員には通常、雇用契約書の代替とされる就業規則はあっても毎年更新する雇用契約書はありません。一度正社員として就業を始めたら就業規則に定められた定年まで、会社には雇用し続ける義務が発生するのです。これを「無期雇用」といいます。

 

いっぽう、同じく会社が直接雇用するアルバイトやパート、契約社員は、通常、数か月間や1年ごとの「有期契約」になっており、会社は契約期間が終了した時点で契約更新をしないことができます。これを「有期雇用」といいます。このため、景気が悪くなると有期雇用労働者が解雇されるケースが多くなります。いわゆる「雇い止め」という形でまず「有期雇用」の雇用契約を終了することにより人員調整をするものです。

 

■派遣社員は非正規「社員」ではない
これに対し、派遣社員は「有期雇用」でも「無期雇用」でもありません。なぜなら、派遣社員はあくまでも派遣会社の社員であって自社の社員ではなく、契約も派遣社員本人とではなく、会社同士が期間を決めて契約しているのであって、強いていえば「有期外注契約」とでもいうものになっているのです。

 

派遣社員が就業している会社はその社員を雇っているのではなく、あくまでも派遣会社の社員が提供するサービスを派遣会社から購入しているのであって、非正規雇用といっても直接雇用の「有期雇用」社員とはまったく別ものです。同じ職場で働いているとはいえ、そもそも派遣社員は「社員」ではないのです。

 

ですので、例えば派遣契約の途中でも派遣された方が仕事に適性がないと判断したら、契約している会社は即座に派遣会社に派遣社員の入れ替えを申し出ることができます。この場合、派遣社員は仕事を失うことになりますが、違法ではありません。それは働いている会社に直接雇用されていないからです。

 

 

■有期雇用社員でも、5年以上同じ職場にいれば正社員と同じ無期雇用に
上に述べたように、正社員とパートタイマーや契約社員の雇用契約の違いは「無期」か「有期」かしかありません。直接会社に雇われた被雇用者であるという点においてまったく条件は同じです。

 

また、7年前にパートタイマー労働法が改正されてからは正社員雇用の際にはパートタイマーからも募集することが義務付けられ、福利厚生などその他の待遇等についても正社員と同様にする努力義務が企業に課せられました。また、3年前の労働契約法改正で5年以上勤続した場合は、本人の申し出により無期雇用に変更できるようになりましたので、ますます正社員と有期契約社員の垣根は低くなっているといってもいいでしょう。

 

■女性の派遣社員にみられる2つのタイプ
このように直接雇用社員については、竹中発言の背景にあった「同一労働・同一賃金」への道が徐々に整備されてきているといえると思います。問題は自社で雇用するのではなく、契約した会社から派遣される派遣社員のほうです。

 

派遣社員をしている女性を個人的に何人か知っていますが、「いずれ直接雇用の正社員になりたい」人と「ずっと派遣社員のままがいい」という人がだいたい半々です。「派遣社員のままがいい」人は、自分のもつスキルに自信があり、かつ自分の家庭や趣味などを重要視するため、好きなときに好きなだけ働きたいという人が多いように感じます。また、正社員として仕事に責任をもつのを避けたいという話も聞くことがあります。これはこれで一つの考え方、ライフスタイルの選択でしょう。

 

いっぽう、「正社員になりたい」という人は大手企業の派遣社員になりたがる傾向にあります。新卒時に就職できなかった人や、中小企業に入社した人がほとんどで、大企業への憧れもあるような印象を受けます。派遣開始時にはたいてい「将来的には正社員登用もありうる」という話を聞かされるようですが、残念ながら実際に希望がかなって派遣社員から正社員になったという話は聞いたことがありません。彼女たちの多くは「いつか正社員に」という一縷の望みを抱きながら仕事をしているのです。

 

 

■派遣社員と正社員の最大の違いは企業の教育投資
事務職の派遣社員は20代前半から中ごろまでは、給料が正社員より若干高めに設定されていることが多いようです。特に大手企業ですと正社員の給料が高いために派遣社員でもそれなりの時給をもらえますし、保険関係などもきちんと整備されています。しかし、20代後半以降は同じ会社にいても正社員とは徐々に給料の差がついてきます。それはなぜでしょうか?

 

非正規雇用の議論の中でほとんど問題とされることがないのですが、私は直接雇用の社員と派遣社員の待遇の最大の格差は「教育」だと考えています。

 

大卒や高卒の新入社員を雇用したとき、会社がまず一番に行うのは新入社員研修です。外部研修も行いますが、まずはOJTで指導者をつけてきめ細やかに仕事を教えていくのが日本独特の職業教育です。新人の時期を過ぎても、正社員のみならずパートや契約社員も含め、直接雇用社員にはさまざまな教育の機会が用意されている会社が多いと思います。外部セミナーへの参加に加え、講師を招へいしての教育や改善活動、目標達成のための社内ブリーフィングやミーティング、大きくいえば上司との面談時間なども教育の範疇に入れていいのではないでしょうか。

 

直接雇用の社員たちはこのような教育機会を継続的に会社から提供され、勤続年数が伸びるにつれて業務遂行能力を伸ばしていきます。経営者からみると教育に対するコストは非常に大きいですが、企業経営は人材が命ですから、ある程度のコストをかけても社員が成長し業務に活用してくれれば業績によってリターンを得られるのです。ですから、教育コストは社内人材に対する投資でもあります。

 

日本では欧米とは違い、若年層の給料が比較的低く抑えられています。逆に欧米では若年層の失業率が高いですが、日本では若年層に関しては欧米に比べると圧倒的に就業機会が多くなっています。その最大の理由は、日本の経営者が「新入社員は仕事ができないのが当たり前」で「教育コストをかけて1人前の労働者にする」のは会社の役割と認識しているからです。当然、教育訓練期間も給料を支払うわけですから、給料は少なくなります。その代わりに社員は実践的な仕事のスキルを給料をもらいながら学ぶことができるのです。

 

しかし、派遣社員の場合はそうはいきません。派遣社員は自社の社員ではないのですから、教育コストをかけることはできません。経営者が派遣社員に期待するのは、既にもっている能力でできる範囲の仕事です。その派遣社員に能力がなく十分に業務を遂行できなければ別の人に切り替えてもらうしかありません。このような繰り返しであれば、派遣社員の潜在能力が教育によって引き出され、さらに高いレベルに達することは非常に難しいでしょう。こうして時間がたてばたつほど、直接雇用社員と派遣社員の能力の差は開いていきます。

 

 

■年齢が上がるにつれて居場所がなくなる派遣社員
シンガポールでは私の知る限りで、派遣社員は低賃金で働く外国人労働者以外にはいません。また、若いうちは数年ごとに転職を繰り返す人もいますが、30代になると多くの人が一つの会社に腰を落ち着けて長期間働くことを希望します。

 

が、2~3年ごとに転職を繰り返したり、派遣で働く会社を変えていく、という働き方はある程度の年齢になると本人にとっても働く会社にとっても厳しくなってくると思います。特に派遣社員の場合は上述したようにスキルアップのための教育機会が与えられてませんから、年々、その年齢で期待されるスキルの維持は困難になってくるでしょう。

 

また、40代などある程度の年齢になると、習熟した仕事は問題なくこなせても、新しい仕事にチャレンジして20代の人たちと同じスピードで習得していくことが難しくなっていくので、できれば30代半ばくらいまでには正社員として定年まで働ける職場をみつけておくことがベストだと思います(もちろん起業をするというのなら別の話ですが)。

 

■会社と社員はともに成長していくもの
会社とは、ただ仕事をしてくれる社員がいてくれればいいというものではありません。社員の成長とともに会社も成長し、その成果を社員に還元すると同時に、会社の成長のためにも投資していく、という循環の中に「業」が存在し、「人」が働く場所が生成するのです。

 

そこを考えずに「自分の好きなときに働いて好きなときに辞める」人ばかりの会社になってしまえば、経営者もまた、人を機械と同じ消耗品としかみなさなくなるでしょう。逆に、苦楽を共にして自社の歴史とともに歩んできた社員ほど、経営者にとってありがたく、また頼りになるものはないのです。

 

「有期」「無期」の違いはあっても、働く人が明日の仕事の心配をしなくていいように直接雇用し、また、長く働きたい人に働く場を継続して提供できる会社を増やしていくことこそ、現代日本の少子高齢化社会で企業が求められている役割ではないでしょうか。その意味で、「正社員をやめてしまえ」という竹中氏の意見はあまりにも多くの企業の実情とかけ離れた議論に思われ、賛成しかねます。

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後藤百合子

大正5年創立、今年で100周年を迎える繊維会社の4代目社長。 日本語、英語、中国語(北京語と広東語)のトライリンガル。現在、シンガポールでも会社を経営中。 ツイッターアカウントは@sinlife2010

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