【今週のTOKYO FOOD SHOCK】あなたの義理チョコが減ったのは「バレンタインデーのSNS化」のせい?

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今年のバレンタインデー直前の報道を見ていると、「最近は男もバレンタイン」という論調が目立った。NHKの「」では都内のデパートで、バレンタイン時期の男性のチョコレート需要が増えたことを紹介していたし、AERAの「」は「今や4人に1人の男性が友人にチョコを贈る」というフレーズから本編へと展開した。
    

いずれの企画もバレンタインデーに、「自分のため」もしくは「女性へのギフト用に」チョコレートを買う男性が増えているという切り口だった。NHKで紹介していたのは新宿高島屋。この時期、男性のチョコレート購買額が一昨年、昨年と10%ずつ増えているという。一方AERAのデータ元は、江崎グリコの「バレンタイン事情2016」。この調査では2015年実績で男性の4人に1人以上(26,9%)がチョコを贈るというだけでなく、男子高校生は3人に1以上(34.6%)と増加傾向にあることを示していた。


たしかにこのところ周囲でも、バレンタインデーの頃に男性がチョコレートを配る姿を目にするようになった。江崎グリコの調査からも2年が経過している。百貨店の「年10%ずつ増えている」というコメントから考えると、現在「男性の4人に1人(高校生は3人に1人)以上」という数字はさらに増えていることが予測できる。


極めて興味深い。一点は「バレンタインデーのSNS化」、もう一点は「定着した外来行事の斜め上スライド」という観点からだ。そしてこの両者には関わりがある。

 


■急速に進む、バレンタインデーのSNS化

 

まず「バレンタインのSNS化」について考えてみたい。江崎グリコの調査には「5年前に比べて義理チョコをもらう数が減った」という項目がある。「減った」と感じる男性が42.0%、とりわけ40代男性は63.5%が「減った」と感じている。実際、女性の側も「5年前に比べてあげる数が減った」と53.5%が感じており、女子大生は71.2%、社会人の合計でも61.5%が減ったと思っているという。

 

だが、チョコにかける総予算は、前年比で増えている。ならば減った義理チョコの分はどこに行ったのか。

 

その回答が「バレンタインデーの意義」という項目に集約されていた。この質問では「現在」と「これから」の意義について尋ねていた。その回答では「現在のバレンタイン」は「恋人との仲を深める」「おいしいチョコを食べられる」というSNSを介する必要のない回答が優位に。逆に「これからのバレンタイン」は、「友人・知人に日頃の感謝の気持ちを伝える/友情を深める/盛り上がる」、「家族との絆を深める」などSNSを介するのがより自然な相手とのコミュニケーションが優位となった。

 

つまり、チョコレートはより汎用性の高い身近なコミュニケーションツールとなっている。気軽に電話できる「恋人」や業務等でメールのやり取りをする「義理」の対象には専用ツールを使い、SNSで気楽なコミュニケーションを取る「友人」や「家族」にこそふさわしいコミュニケーションツールがチョコレートということなのかもしれない。

 


■クリスマスに続く、外来行事の斜め上化

 

もうひとつ「定着した外来行事の斜め上スライド」という意味でも、この現象は興味深い。戦後、日本で定着した外来イベントは、バレンタインデー、ホワイトデー、エイプリルフール、母の日、父の日、ボージョレー解禁、ハロウィーンあたりだろうか。


「クリスマスがないじゃないか」という声もあるかもしれないが、実はクリスマス(イブ)を家族と過ごすという習慣は、一部では明治・大正時代から定着していて、昭和初期には現在のようにパートナーと過ごす日に変化しつつあったという。「文明開化」という大きな流れのなか、外来文化が急速に流入してきた当時ならではのスピード感も手伝っていたのだろう。


そしてバレンタインデーは戦後に定着した外来行事としては初めて、その位置づけを変えようとしている。実はバレンタインデーの定着は1970年代に入ってから。意外と最近の話なのだ。まず「本命チョコ」が定着。その周辺の繊細なコミュニケーションを解決するために「義理チョコ」という概念が生まれ、長い時間をかけて社会に定着してきた。


そして2000年代に入り、女性が女性に贈る「友チョコ」が広まるあたりから、バレンタインは再び変化し始める。自分への「ごほうびチョコ」や男性から女性へと贈る「逆チョコ」など、さまざまなチョコレート消費が定番化。「年に一度の告白の機会」が「季節のコミュニケーション風物詩」へと変化しつつある。


日本でのバレンタインデーの定着から約40年。「告白」から「交流」への移行が可視化されてから10年以上が経った。その昔、チョコレートを贈る立場としての男性にスポットが当たる未来が来るとは誰が予想しただろうか。いまでは、贈り主、贈る相手、チョコレートに込められた意味までも多様になった。食文化がゆっくりと変化しながら、熟成し続けることができるのも、この地が平和なればこそ。そもそもバレンタインデーが設定されたいきさつには、千数百年前のローマ帝国時代の戦争や、宗教上の諍いが関わっているとされている。


いま手元にあるチョコレートは、もっと味わい尽くされてもいいひとかけらなのかもしれない。
 

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フードアクティビスト

松浦達也

フードアクティビスト/編集者&ライター 『dancyu』などの食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでの食トレンド...

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