【今週のTOKYO FOOD SHOCK】すき焼きにしらたきを入れると肉が硬くなる、はウソだった!

ライフスタイル

 

以前、All Aboutのコンテンツでを書いたことがある。ざっくり言うと「肉の隣にしらたき入れるとかたくなるって言うけど、それ本当?」という記事だ。

 

僕にとってすき焼きとは甘辛く! 香ばしく! やや半生気味に! 炒め煮にした牛肉を卵にからめて食べる鍋物である。

 

そして同時に、肉や野菜から出た出汁を存分に吸ったしらたきを食べる料理でもある。二日目のすき焼きを温め直し、多めに投入しておいたアツアツのしらたきを溶き卵にくぐらせ、肉とともに冷やごはんにぶっかけてかっこむ。そりゃもう最高のごちそうだ。

 

だから「」とか、「」なんて記事が出たときには「ああ、ようやく……」と感無量の心持ちだった。

 

というのも以前、何度か日本こんにゃく協会に「本当に肉の隣に置くとかたくなるんですか」「そうは感じられないんですが」「データ、ありませんか」という問い合わせを入れていたからだ。だが回答はいつも同じ。「私もかたくなるとは思えないんです。でもデータに心当たりはありません。何かいいデータがあったらご連絡します」。その後、連絡をいただいたことはなかった。

 

ところが「実感値として感じたことはないけど、本当にかたくなるの?」と疑念を持つ方は多かったようで、Googleで検索をかけてみると「こんにゃく協会に聞いてみたけど、調査結果なし」と肩を落としていらっしゃる方のブログなどがいくつかヒットした。「牛肉×しらたき」の口合いを信じる者はあちこちにいたのだ。

 

では、その昔はどうだったのか。明治のはじめ、牛鍋が流行した頃から長ねぎ(根深ねぎ)は定番の具として使われたようだが、しらたきが登場するのはもう少しあとのこと。明治時代の風俗に詳しかった植原路郎は著書『鰻・牛物語』ですき焼きに「白滝(しらたき)を用いるようになったのは明治中期から」と記している。

 

そもそもすき焼きや牛鍋自体、一挙に全国に広まったわけではない。日本では7世紀から江戸時代まで、表向き「肉食禁止」の時代が長かった。明治時代前半、東京や大阪といった新しいもの好きの都市圏では牛肉食が受け入れられていったが、地方などでは牛肉食への抵抗感も強かった。

 

大正から昭和初期にかけての全国の食文化を記した『聞き書 日本の食』という数十巻に渡るシリーズ本がある。そのなかで「すき焼き」が登場するのは宮城、東京、石川、滋賀、大阪(※表記は「すっきゃき」)、兵庫、奈良、島根、山口、福岡、佐賀の11都府県にすぎない。前出のように明治中期(1890年頃)、すき焼きに「白滝(しらたき)を用いるように」なってから30~40年経っているのに、都市圏と古くからこっそり牛肉に親しんでいたエリアがほとんどである。

 

それでも都道府県をつぶさに見ていくと、すき焼きとしらたきの相性の良さがよくわかる。11都府県のうち8都府県で「しらたき」「こんにゃく」を入れると明記されている。残り3県は「入れない」のではなく不明。一方、神戸ビーフや但馬牛のお膝元、『聞き書 兵庫の食』は、すき焼きに1ページをまるまる割き「しらたき(関東)またはこんにゃく(関西)」と東西の文化の違いにまで触れている。そう。すき焼きとしらたき(こんにゃく)は「一式」として伝播していくほど相性がよかったのだ。

 

以来、しらたきは長きに渡ってすき焼き鍋の中で牛とともに過ごしてきた。鍋に入る前に流水やときには熱湯で身を清めた(アクを取った)。テレビの料理番組や有名なグルメマンガなど、外野から「肉がかたくなるのはお前のせいだ」と罵倒されても、自ら身を引くように肉からそっと距離を置いてきた。

 

だがしらたき(こんにゃく)はきちんと反論すべきだったのだ。肉をかたくする可能性がある成分が含まれていても、本当に周囲に影響を与えるほど有意なものではないことを。少なくとも現在、スーパーの店頭に置かれているような製品ならそのまま入れても肉はかたくならず、昔ながらの製法の頑健なものでもアク抜きすれば何ら問題はないということを。

 

濡れ衣はようやく晴らされた。誤解を解かねば、食文化は次なるステージには進めない。ステーキに焼き目をつけても肉汁を閉じ込められないことは90年も前に判明しているし、卵をゆでるときの湯に、塩や酢を少しくらい入れても体感レベルでゆで卵のむきやすさは向上しない。進化とは、過去の常識を上書きするところから始まるのだ。

 

今回のしらたき騒動のみならず、このところ話題になっている和牛の「サシ」の話など、最近すき焼きのまわりがにぎやかだ。食が都市伝説から解き放たれるのは進化の兆しである。「みんなのすき焼き」がいよいよ次なるステージへと進むときが来た。忘れかけていたおいしさの掘り起こしや、新たな味わいの提案もされるのだろう。

 

例えば、すべてのうまみを吸ったしらたきを持ち帰ることができる、「二日目のしらたき」なんてお土産はできないものか。うまみの回りきった鍋ごと貸し出してくれたりしたら、本当もう最高なんだけれど。

この記事が気に入ったらいいね!しよう

citrusの人気記事をお届けします

SNSで記事をシェア

フードアクティビスト

松浦達也

フードアクティビスト/編集者&ライター 『dancyu』などの食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでの食トレンド...

松浦達也のプロフィール&記事一覧
ページトップ