【今週のTOKYO FOOD SHOCK】果たして適正な価格はいくらか…? もやしがこの世からなくなる日

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いつの時代も優等生はプレッシャーにさらされている。ときにイジメのような圧力を受けることすらある。とりわけひどいイジメに遭っているのが「物価の優等生」。だがこの話を他人事と思って聞いてほしくない。なぜならイジメを行っているのはスーパーなどの小売店であり、われわれ消費者なのだから。

 

この春、工業組合もやし生産者協会が「もやし生産者の窮状について」というプレスリリースを発表した。2年半ほど前にも「もやし原料種子の高騰について」という消費者に理解を求める文書を発表していたが、今回はよりストレートな表現でのリリースとなった。それほど生産者は抜き差しならぬところまで追い込まれているということなのだ。

 

驚くべきことに、現在のもやしの価格は40年前(1977年)よりも安くなっている。消費者物価指数をかけ合わせた"実感値"としての比較ではない。消費者物価指数は約1.5倍になったのにも関わらず、絶対価格が下落しているのだ。工業製品ならともかく、食の一次産品としては考えられない事態である。

 

日本で生産されるもやしの8割以上は、「緑豆」を発芽させた「緑豆もやし」だ。原料となる緑豆は中国から輸入される、ところがこの緑豆の原料価格が、中国国内の需要増や作付面積減少もあり、この10年で約2.5倍に跳ね上がった。しかし日本国内での小売価格は販売競争の激化もあり、10%下落。全国に230あった生産者は、この8年で100社以上が廃業したという。

 

なぜこんなことになっているのか。その理由はアレである。最近政界でよく耳にする「忖度」である。いや「忖度」と言えば、まだ聞こえはいい。はっきり言って消費者はバカにされている。にも関わらず、まんまと踊らされて、もやし生産者を窮状に追い込んでいるのだ。

 

「物価の優等生」と言われる食品はいくつかある。リーズナブルで価格が安定していて、「家計の味方」になりうる存在だ。単価が低いため、セールなどでインパクトのある目玉商品にも設定しやすい。しかも、仕入れ価格も安いから、販売側としてもリスクが少ない。「卵1パック100円」「もやし1袋10円」といった客寄せ商品で少々マイナスが出ても、より高額な商品でゆうゆうと取り返すことができる。

 

本来、集客に一役買った優等生のもやしは評価されるべき存在だ。ところが、イジメっ子や加担する連中は味をしめる。仕入れリスクも少なく、目玉商品になるもやしには、最低でも現状維持、ヘタをすると値下げすら要求する。だが前出のように、一次生産において価格の下落はよほどのイノベーションが起きない限り不可能と言っていい。そうした無理を生産者に強いているのが流通業者であり、「目玉」に飛びつく消費者なのだ。

 

「自分がスーパーに頼んだわけじゃない」と言う方もいるかもしれない。だが手に取っているなら加担していることに変わりはない。その商品をかごに入れる前に、考えてほしい。その商品はいくらが適正か。適正な価格ではなければ、いずれどこかにシワ寄せは来る。もやしが店頭から消えたり、極端に値上がりしたり……。そんなふうにツケを払わされるのは、タクトを振った流通ではない。踊らされた消費者なのだ。

 

現代社会において一次産業の現場と家庭の台所は、あまりに遠い。食品は、多くの人の手やインフラを介して、家庭の台所まで届けられている。だが天候にも左右される一次産品の作柄などは、人知の及ばない領域だ。肉、魚、野菜……生産者がどれほど手をかけても、リスクはつきものなのだ。

 

「価格を下げろ」「絶対安全なものを」というリクエストが恒常的に叶えられることなどありえない。流通の「忖度」を黙認することは自分の手を汚さずに、もやし生産者の首を真綿で締めているようなものだ。その行為は、いずれ消費者自身の首を締めることにもつながりかねないということに気づかずに。

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フードアクティビスト

松浦達也

フードアクティビスト/編集者&ライター 『dancyu』などの食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでの食トレンド...

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