【今週のTOKYO FOOD SHOCK】「スパゲッティ入りピザ」で考える炭水化物×炭水化物の許容範囲

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今週も編集部からなかなかの難題を頂いた。送られてきたURLはこちらだ。



もはや大喜利のようだ。と思ったら、ちゃんと続きがあった。

「糖質制限も変わらず人気ですが、このニュースについて何か書いてください」

やっぱり大喜利……!? といっても、こういうボールを投げていただけるのは信頼感の表れなのかもしれない。期待には全力で応えようとするのが礼儀というものである。

記事を読むと、どうやらニュージーランドの首相が「昨晩、家族のためにディナーをつくったよ。缶詰のスパゲティ乗せピザをいいと思ったら、いいねを押してね」というような投稿をFacebookに写真とともに上げていた。

かたやこちらは、あまり糖質を摂らないようには心がけている身だ。食べ物関連の仕事をしていると、たまに「午後にかつ丼4杯」とか「日中に牛丼6杯」を食べるような仕事が舞い込むことがある。フードファイターではないので、同行者がいるときには手伝ってもらうのだが、撮影がからむと人任せにできないこともある。

それでも肉、魚、野菜なら体重や体型にはそう反映されないが、糖質を極端に摂取するとてきめんに太る実感がある。過剰に摂取した糖質をどうするかというと、これはもう平らにならすしかない。丼6杯なら翌日以降2日間、炭水化物を抜く。すると3日で6杯となり、1日2杯平均に落ち着く。3日で無理なら5日、5日で無理なら一週間というふうに、ある一定期間内での平準化をはかる。体感としては、期間が短ければ短いほど体重は落としやすい。

だけど、どうしても糖質を食べたくなることだってある。ラーメン、蕎麦、うどんといった麺類は手軽な食事だし、鮨にお誘いいただくこともある。誘われれば当然行きたいし、地元のなじみの鮨屋にだって本当はもっともっと顔を出したい。なのでふだんはどうでもいい糖質を遠ざけるようにはしている。

さて、そこでこのピザだ。仮に僕の生活様式を知っている家族がこの品を出してきたら自分はどう感じるだろうか。たぶん悲しい。ことあるごとに、一生で食べられる残り食事回数(想定)を数えてしまうような人間にとって、いくら家族が作った一品とはいえ、炭水化物食はある意味貴重である。その貴重な機会をでき合いの缶詰のスパゲティ乗せピザで消費してしまうなんて愚行はどうしたって避けたい。

では「自分の状況がわかっている家族」という断りやすい相手だったとして、どんな炭水化物×炭水化物なら許容できるのだろう。

・焼きそばパン
例えば、ノスタルジックな焼きそばパンはどうか。カツサンドなどに象徴されるように、ソースとパンの相性のよさは折り紙付き。だが焼きそばパンは、その構造自体に決定的な弱点を抱えている。本来、焼きそばに豚肉とキャベツというテッパンの具が求められる、ところがその具は焼きそばパンになると食べにくいからか、消失してしまう。しかも麺は炒めてから時間もたち、香ばしさも失われている。見た目からして炭水化物100%に近い趣で、個人的にはどうにも敬遠したくなってしまう。

・そばめし
では、少し目先を変えて、大阪のそばめし(ごはん×焼きそば×ソース)では? これもまぎれもない炭水化物×炭水化物だ。ソースもできあいという意味では、缶詰のスパゲッティと大差はない。だがそばめしとなれば、気分によっては食べてしまうかもしれない。関東であまりお目にかかれない物珍しさもあるし、ソースの焦げる香ばしさも魅力的だ。また実際にフライパンや鉄板で炒める場面を想起しやすいことを考えると、手がかかっているような印象も得られるかもしれない。

・コロッケパン
もうひとつ。コロッケパンはどうだろう。焼きそばパンと同じコッペパンが土台であっても、パンの間から顔を覗かせるコロッケの存在感が違う。さらに身にまとうのは、テラテラと光るとんかつソースだ。大口を開けて、縦方向からパンとコロッケの立体構造物に歯を立てると、一斉に口内に爆発するパンと衣とじゃがいもの粒子。炭水化物として同類にくくられるのに、炒め玉ねぎ入りのじゃがいも、それに揚げたパン粉の複合体はどうしてこんなにポテンシャルが高いのか。よくよく考えたら、パンとパン粉がカブっているが、それはたいした問題じゃない。

当初に挙げた「糖質を抑える」ことが目的なら、いずれも失格には違いない。コロッケパンと焼きそばパンの糖質量は50gくらいあるし、そばめしに至っては約70gになる。もっとも自らの「たが」が外れるかどうかは、糖質量を制限する「正義」とはあまり関係がない。なんだかんだ言って人は「欲望」の生き物でもあり、ここに挙げたような食べ物と対峙するときには、たがが外れる自分を許容できるか、心を折る自分を受け入れるかどうかにかかっている。

そう、焼きそばパン、そばめし、コロッケパン、そしてスパゲッティピザという、糖質4兄弟と向き合っているようでありながら、実は向き合っているのは常に自分自身なのだ。選択するのは自分であり、つい伸ばしてしまう手を自制できるかどうか。翻って言えば、缶詰を使っていようが、どれほどの手作り感を演出しようが、目の前の一皿の価値を決定するのは食べ手だけなのだ。

冒頭のニュージーランドのイングリッシュ首相の投稿の全文は" Cooked dinner for the family last night - like if you agree with tinned spaghetti on pizza!"だった。その"family"からどんなリアクションがあったかは確認できなかったが、フォロワーからはこんな投稿もあった。

「あなたの政策も、缶詰パスタ乗せピザも支持するが、ピザにパイナップルを乗せるのは支持できない」

食べ手だろうとフォロワーだろうと、現代の受信者をコントロールするのは難しい。
 

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フードアクティビスト

松浦達也

フードアクティビスト/編集者&ライター 『dancyu』などの食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでの食トレンド...

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