【今週の大人センテンス】通算4257安打を達成したイチローが示したすごすぎる決意

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写真:AP/アフロ

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第12回 イチローを支えてきた悔しさと反骨心

 

「常に人に笑われてきた悔しい歴史が僕の中にはあるので、これからもそれをクリアしていきたいという思いはもちろんあります。」 byイチロー

 

【センテンスの生い立ち】

2016年6月15日(日本時間16日)、マーリンズのイチロー外野手が、パドレス戦で日米通算4257安打(日本1278本、アメリカ2979安打)を記録。ピート・ローズが持っていた4256安打の歴代最多安打記録を塗り替えた。試合後の記者会見で、記者から「(アメリカでの安打数だけでローズの記録を抜く)あと1000いくつというのをアメリカで、というのは?」と尋ねられて、これまでの道のりを振り返りつつ、こうキッパリと答えた。

 

【3つの大人ポイント】

・過去を語りつつ、未来に向けての壮大な野望を表明している

・ぶっきら棒なようで考え抜かれた、しかもお茶目な受け答え

・マイナスな感情を大回転させてプラスの意味を持たせている

 

イチローがいかにすごい選手かについては、いまさら説明するまでもありません。これまでに打ち立てた数々の大記録も、ちょっとやそっとでは書ききれません。「日本の誇り」なんて言い方をすることが恥ずかしく思えてくるぐらい、国の枠も競技の枠もはるかに超えた、人類が誇る偉大な存在と言っていいでしょう。

 

そんなイチローが、またひとつ節目を乗り越えました。6月15日(日本時間16日)の試合で2本のヒットを放ち、日米通算4257安打を記録。ピート・ローズが持っていた4256安打を上回って「世界一」の座に就きました。ただしアメリカには、日本の記録とアメリカの記録を合算させることへの疑問の声が少なくありません。ほかならぬピート・ローズも「日本では私を『ヒット・クイーン(女王=2番目)』にしようとしている」と発言するなど、不快感を示しています。

 

そんな背景があった上での記録達成であり、試合後の記者会見でした。いつもの調子で一見ぶっきら棒にも感じられる話し方ですが、よく聞くとそうではありません。丁寧に言葉を選びながら、記者の質問に誠実に答えています。こんなに隅々まで感心しどころ満載の会見は、そうはありません。全文はここで紹介されています。

 

 

イチローならではの言い方でファンやチームメイトへの感謝を述べ、ピート・ローズの話題が出たところで、記者が「常々、50歳まで現役でいたいということもおっしゃっていますが、あと1000いくつというのをアメリカで、というのは?」と尋ねました。つまり、アメリカだけで4257安打という記録を目指す気はあるかという質問です。

 

そうなったらローズも文句のつけようがありませんが、会見の時点であと1278本。毎年200本ずつ打ったとしても6年以上かかります。「常識」で考えると42歳のイチローにとっては「非現実的」な目標ですが、そんなつまらない物差しに従うイチローではありません。真剣な表情で「常に人に笑われてきた悔しい歴史が僕の中にはあるので、これからもそれをクリアしていきたいという思いはもちろんあります」と、強い決意を示しました。

 

聞いている側を驚かせたのが、その言葉に至る前の過去を振り返ったくだり。「僕は子供の頃から人に笑われてきたことを常に達成してきているという自負はある」と切り出し、小学生のときにプロ野球選手を目指していたころも、大リーグに行くときに「首位打者になってみたい」と言ったときも「笑われた」と語ります。その時のイチローの目には、涙がにじんでいたように見えました。

 

アメリカであと1200本以上の安打を打つという目標を「クリアしていきたい」と答えても、今は笑う人は誰もいません。笑われた悔しさをバネにして結果を出し続けてきたこともすごいし、どんなに大きな目標でも「イチローなら、やってくれるんじゃないか」とワクワクさせてくれるところも、とてつもなくすごいことです。これからもきっと、たくさんの伝説を作り続けてくれるでしょう。

 

強い決意を示した部分も大人力にあふれていましたが、ケチをつけてくるピート・ローズに対する遠回しな皮肉も見事でした。「日本だけでピート・ローズの記録を抜くことが、おそらくいちばん難しい記録だと思う」という発言には、日本のプロ野球のレベルは大リーグに負けてないというメッセージが込められているに違いありません。

 

「日米合わせた記録とはいえ、生きているあいだに(自分の記録が破られるのを)見られて、(ローズが)ちょっとうらやましいですね」という発言も、うらやましいと言いながらローズの態度を批判していると解釈していいでしょう。「偉大な数字を残した人が偉大とは限らない」というのも……いや、そこはもしかしたら一般論のつもりだったかも。

 

大リーグでの3000本安打も、もう時間の問題です。そのときにイチローがどんな発言をしてくれるのか、アメリカの世論はどう反応するのか、そしてピート・ローズは何を言うのか。いろいろ楽しみです。マーリンズの打撃コーチを務めているバリー・ボンズが提案しているように、イチローとピート・ローズの対談もぜひ実現してほしいですね。

 

【今週の大人の教訓】

「不可能」という壁を作っているのは、どうやら自分自身である

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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