広瀬すずに野際陽子、そして「日ペンの美子ちゃん」…「黒髪おかっぱ」最強伝説を検証する

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黒髪おかっぱ(ややショート)最強説、というのがあるような気がするのだ。古くは、できる女性秘書のイメージ、例えば美内すずえ「ガラスの仮面」に出てくる速水社長の秘書の水城さんあたりが代表的か。主人公の相棒的な位置も黒髪おかっぱはよく似合う。和田慎二「スケバン刑事」の「ふたたび地獄城」編に出てくる火喰鳥こと火鳥美也子が、その代表格。空知英秋「銀魂」の外道丸、奈須きのこ「空の境界」の両儀式のように、物語の主人公的に活躍するキャラもいる。

 


■広瀬すずを筆頭に…黒髪おかっぱ美女だらけ?

 

もちろん、モデルや女優などでも、古くは、山口小夜子を筆頭に、野際陽子、梶芽衣子、仲間由紀恵に栗山千明、広瀬すずに芦田愛菜まで。新旧問わず、ズラリと美女が並ぶ。そして、この方々も、マンガのキャラ同様に、ちょっとクセがあるというか、ドカンと華やかに真ん中に座っているというイメージではない。中心から少しハズれたところで、こっそり笑っているような感じ。ミステリアスのようでいて、どこか抜けてもいるような。それこそ、「TRICK」で仲間由紀恵が演じた山田奈緒子のようなイメージ。

 

今、この黒髪おかっぱ、まあ平たく言えば広瀬すずの髪形が、中高生の間でとても流行っているらしい。これが、校則の範囲内でギリギリオッケーの髪形の中で最も可愛く見えるということらしいのだけど。そういう話を聞くと、何と息の長い髪形なのだろうと思う。実際、マンガのキャラにしても、黒髪おかっぱであれば、今の登場人物として普通に通用するし、昔のマンガの中でも、そこにいるその時代のキャラとして、十分に存在感を示している。映画「ちはやふる」を見て、広瀬すずが古くさいキャラに見えることもないし、キーハンターの野際陽子は、今でもやっぱりカッコいい。

 


■「日ペンの美子ちゃん」が復活

 

これだけ長い間、しかも特に途切れることなく、古くもならず、イメージ自体に大きな変革があるわけでもなく、この髪形が人気を保っているのには、何か日本人の中の趣味や嗜好の根源の部分に何らかの原因があるのではないかと考えてしまうのだが、その一つの証拠になりそうなのが、最近復活した「日ペンの美子ちゃん」だ。

 

私たちが物心ついた頃には、少女マンガ雑誌の裏表紙には必ず載っているものとして、当たり前のように読んでいた「日ペンの美子ちゃん」。特に面白いと思っていたわけでもないが、つまらないと思ったこともなく、アハハと読んでいる内に「教材はバインダー式」とか、どうでもいい知識をすり込まれていた。そういう皆が知っている共通認識みたいなマンガだったから、ギャグやパロディのネタとしても普通に使われていて、しかし、周囲に日ペンを習っているという話を聞くこともなく、でもマンガは読み続けていた。

 


■お蝶夫人の縦巻きカールにはない普遍性

 

だから、いつの間にかマンガ自体がなくなっていたことに気がつかなかった。気がつかないまま、日ペンのこと自体も忘れてしまっていた。そこにあるのがあまりにも当たり前で、あることを意識していなかったのだ。そして、「手描き文字」から気持ちが離れていた時代でもあったと思う。美子ちゃんが雑誌から消えたのが1999年、インターネットの普及が本格化し、手紙よりメールの時代になった頃だ。

 

2016年に再始動プロジェクトがスタート、2017年1月に公式Twitterにより、毎週新作が公開されるようになった時でも、当たり前のように美子ちゃんの髪形は変わらなかった。それを見て、懐かしいと思う人はいても、キャラが古いと思う人はいなかったはずだ。そのくらい、1972年に登場した美子ちゃんのキャラクターとしてのデザインは普遍性があったという訳だ。

 

だから、普通に受け入れられて、デジタルの反動としての手書きブームとの相乗効果もあって、会員数も増えたりする。見事な看板娘である。もし、彼女がキャンディキャンディのような金髪ふわふわ頭だったり、お蝶夫人のような縦ロールだったり、ひっつめ三つ編だったり、ショートカットだったりしたら、ここまでの普遍性があっただろうか。麗子像であり、はいからさんが通るの紅緒であり、日本髪を下ろした新しい女性像の一つの典型であり、60年代の良い女のアイコンであり、大人しさを表せて、クールさを表せて、活発さだって表せてしまう汎用性の高さ。そう考えると、黒髪おかっぱは、特に性格やキャラクターを表す記号的な意味がないのだろう。だから、美子ちゃんがやれば「日ペンの美子ちゃん」だし、秘書の水城さんがやれば、「大都芸能の有能な秘書」になる。性格を規定せず、キャラづけからも離れて、しかし「可愛い」髪形。それは「私は私である」という自意識の表れ。つまり最強なのである。

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納富廉邦

フリーライター。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方などを得意とし、「おとなのOFF」「日経トレンディ」「MONOマガジン」「夕刊フジ」「ココカラ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな...

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