お経とテクノ音楽を融合した「テクノ法要」。革新的なのか、不謹慎なのか?

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出典「照恩寺 テクノ法要 2016/10/25 YouTube」より

テレビ番組の影響もあってか、ここ数年、お坊さんが企画する目新しいイベントがブームになっています。女性を中心に、「お寺大好き、仏像大好き」というマニアな方々も増えていますが、その一方で、伝統的なお寺と地域の人のつながりは希薄になってきました。

 

江戸時代に檀家制度が確立されて以降、日本人は、どこかのお寺に属し、生まれてから死後まで、ずっとお世話になるという形が一般的でした。しかしそれは、ほとんどの庶民が、生まれ育った土地でそのまま一生を終えていた時代のお話で、今のように引っ越しが当たり前になると、どうしても、郷里のお寺さんとのつきあいは難しくなってきます。両親が健在なうちはまだよいですが、実家をたたんでしまえば、お墓参りもたいへんだから、自分が住んでいる都会のお寺にお墓を移そうかという話になり、そのため、地方の寺にお参りに行く人がどんどん減って行くのです。このままでは、寺だけでなく、仏教自体の存続があやうい。そのような危機感を抱くお坊さんが多く、より若い世代の人に目を向けてもらうために、斬新なイベントを行うお寺が増えてきたわけです。

 

その中でも昨今話題なのは「テクノ法要」、簡単に言うと、お経とテクノ音楽を融合したもので、福井市東郷二ケ町というところにある照恩寺の住職、朝倉行宣さんが始められました。この方は、若いころにDJやLIVE照明の仕事をなさっていたため、こういう形の新しい法要を思いつかれたのだそうです。

 

残念ながら、わたしはまだ実際に参列したことはないのですが、ネット上の動画で拝見する限り、何だかとても素敵です。このごろの寺のイベントは、「これはいくら何でも奇抜すぎでは」と思ったり、逆に、「これだったら、従来のお寺のイメージとそう変わらないね」と思うことも多いものですが、その点、このテクノ法要は、実にいいところをついてます。オシャレだけれどとがり過ぎず、仏教の要素はちゃんと感じられるものの抹香臭過ぎず、ほとほどにイマドキ風で聞きやすい。音楽だけでなく、プロジェクションマッピングでビジュアル度もアップして、極楽浄土の光の世界を表現。これなら万人に受けそう、そして、ただ普通にお経を詠むより、みんなに興味を持ってもらえそうです。

 

この法要は、子供から年配者まで、さまざまな年齢層の人々の心をつかんだようで、ネット上には、実際に参列した人たちの感想がいろいろ書かれています。中でも印象深いのは、お年寄りが、「お浄土は綺麗やね」とか、「もうすぐこんなところに行けると思うと楽しみだ」と笑顔で語ったという話です。このお寺は、「南無阿弥陀仏」という念仏を唱えることによって極楽浄土に迎えていただくことを主眼とする浄土真宗という宗派ですから、参列者が浄土をイメージしたのなら、法要のもっとも大切な目的を達成できたということでしょうね。

 

こういった新しい試みに対して、長い間伝わって来た日本文化を貶めるものであるという否定的な意見を述べる人も多いでしょう。しかし、どのような伝統文化もまったく変わらないまま現代に伝わったわけではなく、その時々の世相や流行を取り入れて変化してきたからこそ、生きた文化として今に伝わって来たのだと思います。仏教も、そもそも日本に導入された時点から土着宗教である神道を取り込んでいますし、その後は現世利益を叶えたり、死後、極楽浄土に行くことを願ったりする宗教として庶民に受け入れられたのです。つまり、人々のニーズを捉え、よりわかりやすい形に変化することで、現在まで現役の文化として存続できたのではないでしょうか。

 

変化が止まれば、それはもう生きた文化ではなく、歴史の一部になってしまいます。この時代、ややもすると形骸化してしまいかねないお寺や仏教を、これまで通りの生きた文化として次世代に伝えたい。テクノ法要の動画を拝見し、わたしは、そんな住職さんの心意気を感じました。

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寺と神社の旅研究家

吉田さらさ

岐阜県生まれ、早稲田大学第一文学部美術史学科卒。長年の出版社勤務後、寺と神社の旅研究家として独立。独自の視点で神社仏閣詣でをより楽しむ方法を考察し、雑誌記事、単行本などを数々執筆。各種講座、講演会、ツ...

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