「祈祷室」って知ってる? 外国人の受け入れと共存で求められる複雑な対応

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国際的ハブ空港などでは必ずと言ってよいほど見かける礼拝室や祈祷室。日本政府によるビザ発給要件の緩和により、インドネシアやマレーシアといったイスラム教国からの観光客が急増したことを受け、ようです。

 

海外に出ると、国によっては宗教心の薄さが信頼の薄さに繋がりかねないこともありますが、信心深さがさほど評価されないどころか、宗教関連とは一定距離を置いた方がむしろ社会的信用が高まるようにも感じられる日本。そのような環境のためか、周囲にいるムスリム(イスラム教徒)の絶対数の少なさからか、一部ではこのニュースが「そんなものがあるのか」と驚きをもって受け取られたと伝え聞いています。

 

実際、国内における祈祷室設置の機運はじわじわと高まっており、主要空港や駅ターミナルだけではなく、一部のホテルやレストラン、百貨店にカラオケといった商業施設でも徐々に設置され始めています。具体的には、国内で年間約6か所のペースで新設が進んでおり、2020年の東京五輪までには200か所を超える見通しとのこと。この他にも小売り大手のイオンなどは、全国28店舗においてハラール商品(イスラム法上で食べることが許されている食材や料理)を常時販売したり、沖縄の那覇空港ではおもてなしの一環として“世界初の完全和室の礼拝所”を設けるなど、官民ともに全世界で16億人規模とも称されるイスラム教徒への対応やサービスを充実させていく模様です。

 

ただし観光客だけではなく国内のムスリム人口増加にも伴い、課題が表面化している様子。イスラム教徒たちが学校や職場で祈祷や断食、ベールの着用等を禁止されたり、侮蔑の言葉を掛けられたりする例もあることから、「彼らを取り巻く問題改善のきっかけになれば」と、多文化子ども教育フォーラムではムスリムの子どもたちが学校生活で苦慮する現状が講演されました。しかし、ハラール対応の給食を出す保育園や金曜日の礼拝を例外的に認める学校などを例に挙げるとともに、「ルールだから駄目というのではなく柔軟な対応を検討してほしい」と理解を求めたところ、一部ネットでは激しい論争が巻き起こってしまったのです。特にハラール給食導入については、「郷に入っては郷に従うべき」、「公費でムスリム対応の学校給食をすると、平等を期すために他の宗教の要求も色々と呑まざるを得なくなる」、「アレルギーの子供だってお弁当持参のケースがあるのに」、「逆にイスラム社会で豚肉や精進料理を給食に出せと言えば対応するのか」といった反論が展開されるなど、なかなか理解が得られにくいさまが浮き彫りとなっていました。

 

話をヨーロッパに移すと、私の住むオーストリアや隣国ドイツは、イスラム教徒のトルコ人を中心とした移民やその他難民を積極的に受け容れてきた国。当初は労働力不足を補うために招致したトルコ人も、その後本国から家族を呼び寄せたり、2世・3世誕生などで爆発的に増え続け、オーストリアでは1971年には2万人程度であったトルコ系人口が2016年の時点で約700万となり、現在では総人口のおおよそ10%を占めるに至りました。

 

その結果、近年では「イスラム教徒の子供たちへの差別に当たる」として、伝統的なキリスト教行事であったニコラウス(オーストリアやドイツにおけるサンタクロース的存在)の幼稚園や学校訪問が禁止になってしまうなど、両国の国教であるカトリックやプロテスタントの慣習が廃れかねないと悲嘆する声が聞かれるのも事実。この他にも、学校の各教室に掲揚されている十字架の是非が問われたり、イスラム教の祝日導入が議論されるなど、様々な面で複雑な対応が必要となっていく様子が見て取れます。多文化尊重や移民のアイデンティティへの配慮は重要なことですが、受け容れ国の文化に対する一種逆差別的ともいえる状況に複雑な思いを寄せる国民も一定数存在するようで、なかなか物事はすんなりと進まないように見受けられます。

 

日本でも歯止めの掛からない人口減少や特定分野の深刻な労働力不足への対策の一環として、外国人労働者の受け容れを強化させていると聞きます。外国人観光客に対して、近年やっと祈祷室設置や商業ベースのハラール対応食の提供などが開始されたばかりという状況ですが、これから様々な国籍や宗教の外国人受け容れがさらに加速し、日本で結婚・出産して永住する人が増えれば、ことはそれほど単純な話で済まなくなる可能性は否定できません。他文化や他宗教の人々を受け容れるのは、メリットの享受と同時に痛みも伴うもの。お互いを利することのできるウィン=ウィンな関係を目指し、円滑な共存を築くためにどのような道が採れるのか、私たちも後になって慌てないよう、現段階から色々と想定しておくと良いのかも知れませんね。

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ライジンガー 真樹

All About「オーストリア」ガイド、ダイアモンド社 地球の歩き方「ウィーン特派員」。 ウィーン移住をきっかけに、オーストリアの歴史・文化・グルメなどの魅力を日本の人々にも伝えたいと願い、CA乗務の傍ら旅行...

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