【今週の大人センテンス】リオ五輪選手団の主将をOKした吉田沙保里のデカさ!

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          写真:YUTAKA/アフロスポーツ

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第14回 「押し付けられ感」をものともせず快諾

 

「名誉ある大役を任され、光栄に思うと同時に責任を感じる。国民の皆様に元気を与えられるようにベストを尽くしたい」by吉田沙保里

 

【センテンスの生い立ち】

リオデジャネイロ五輪まであと1ヶ月ほどに迫った2016年7月1日、日本選手団の主将と旗手がようやく発表された。主将はレスリング女子53キロ級で4連覇に挑む吉田沙保里選手(33)、旗手は陸上男子十種競技の右代啓祐(29)。日本オリンピック委員会(JOC)が吉田に打診したのは、いろんな選手や競技団体に断わられまくって後がなくなってからだった。おそらくそんないきさつを十分に承知した上で、吉田は主将就任を快諾する。

 

【3つの大人ポイント】

・失礼な上にけっこう厄介な依頼をドンと受け止めて快諾

・成績だけでなく「期待に応えること」を大切にしている

・はからずも「大人たちのズルさ」を浮き彫りにしている

 

ほぼひと月後の8月5日には、リオデジャネイロ五輪が開幕します。まだちょっと薄い感じの関心を高めるきっかけになりそうなのが、7月3日に予定されている日本選手団の結団式。ところが3日前の6月30日になっても、選手団の主将が決まっていませんでした。過去の大会で主将を務めた選手が苦戦するケースが続いたことから、いろんな選手や競技団体から断わられまくったようです。たしかに主将になると、公式行事が忙しくて競技に専念できないといった“引き受けたくない要素”はあるかもしれません。

 

焦る日本オリンピック委員会(JOC)が「最後の頼みの綱」としてアプローチしたのが、レスリング女子53キロ級で4連覇に挑む吉田沙保里選手です。けっして若くはない吉田選手にとって、主将を務めることの負担は軽くはないでしょう。JOCがこの段階まで主将を打診しなかったのは、吉田選手に気をつかったのかそれとも「主将は男性」という過去の慣例にこだわったのか、そのへんは定かではありません。

 

どういう理由だったにせよ、明らかにさんざん断わられたあとで、こんな土壇場になって打診してくるなんて、かなり失礼な話です。引き受けてもたいへんなだけで、吉田選手にとっていいことはとくにありません。かといって、ここで自分が断わったらJOCがどれだけ困ることか……。どう見ても「押し付けられ感」あふれる強引なタックルで、吉田選手にとってはとんだ災難です。

 

しかし、吉田選手の度量や人間性のデカさは半端ではありませんでした。無理やりのタックルをドンと受け止め、主将への就任を快諾。新聞の取材に対して「名誉ある大役を任され、光栄に思うと同時に責任を感じる。国民の皆様に元気を与えられるようにベストを尽くしたい」と前向きにコメントしました。当たり前ですが、失礼なJOCに対する恨みつらみや、厄介な役を押し付けられたと思っていそうな気配は、いっさい感じられません。

 

詳しいいきさつや背景の説明、過去の主将・旗手の成績などはこちら。

 

記事にある母・幸代さんの「自らにプレッシャーをかけながら戦うタイプなので、多くの人への恩返しのつもりでやるでしょう」というコメントも泣かせます。もしかしたら内心は「ああ、かわいそうに……」という思いもあるかもしれませんが、主将就任を前向きにとらえつつ、厳しい戦いに挑む娘をやさしく激励。深い愛情と信頼感がにじみ出ています。

 

吉田選手にはそんなつもりは毛頭ないでしょうけど、その大人力に満ちた素晴らしい対応は、結果的に周囲の大人たち(吉田選手の前に断わった男性選手たちや吉田選手に無理を押し付けたJOCの幹部たち)のズルさや小ささを浮き彫りにしました。いや、断わった選手たちに関しては、それこそ周囲の大人たちの反対で断わらざるを得なかったケースも多いだろうし、いろいろ事情もあるでしょうから、責めるわけにはいきませんね。

 

そうなんです、吉田沙保里選手という人は、そういうスケールの大きな人なんです。心身ともに霊長類最強女子なんです。私もかつて、その大きさに触れる機会がありました。三重県出身の彼女は、日頃から三重県のPRにも積極的に協力し、イベントなどでもよくお見かけします。そして、ブログ「」で2012年暮れにも書いているように、大の伊勢うどん好きとしても(少なくとも伊勢うどん界隈では)有名です。

 

伊勢うどんのことを書いたエントリーがアップされてしばらくたった2013年1月下旬、とある三重県関連のPRイベントで、吉田選手の囲み取材に参加させてもらうチャンスが到来。不肖私、今は「伊勢うどん大使」を務めていますが、当時は「伊勢うどん友の会」の代表というだけで、要は単なる伊勢うどんファンという曖昧な立場での参加でした。

 

その前に行なわれた三重県知事とのトークで「伊勢うどん、大好きです!」という話題が出たのをいいことに、果敢に質問。そのとき、こんなやり取りがありました。

 

私「伊勢うどん友の会の石原と申します。伊勢うどんのやわらかくてしなやかなコシは、吉田さんのレスリングの強さに何か影響を与えたでしょうか?」

吉田選手「はい、もう、そのとおりに動けるようになったので、はい」

私「あのやわらかいコシ(の麺)を食べて、レスリングが強くなったと言っても過言ではないでしょうか」

吉田選手「は、はい(苦笑)」

 

伊勢うどんにとっては、最高に名誉で嬉しいコメントです。気をつかってくれている気配を感じないでもありませんが、よくわからない人物から投げかけられた唐突な質問をドンとやさしく受け止めてくれました。このときの懐の深さと、今回見せてくれた度量の大きさとは、間違いなくつながるものがあると言えるでしょう。もしかして、伊勢うどんのやわらかくてしなやかなコシが、レスリングの強さだけでなく、今回のやわらかくてしなやかな対応に影響を与えているとしたら、こんな嬉しいことはありません。

 

そんないろんな意味を込めて、リオ五輪で4連覇を目指す吉田選手を力いっぱい応援しましょう。そして、主将を務めたらいい成績を残せないというジンクスも打ち破ってもらいたいもの。ちなみに彼女は、伊勢うどんだけでなく、同じ三重県の名物である「」も大好きです。伊勢うどんパワーとなが餅パワーで、連勝記録、連覇記録をどんどん長く伸ばしてくれるに違いありません。フレーフレー、サオリ!

 

 

【今週の大人の教訓】

人間の真の「強さ」は、やさしさや心の広さで示される

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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