「出身大学」や「夫の仕事」が物差しに! エグすぎる…”海外赴任妻”を待ち受けるさらなる仕打ちとは?

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『ホライズン』(小島慶子/文藝春秋)

ラジオ・パーソナリティやエッセイストとして活躍中のタレントの小島慶子さんが、このたび2冊目の小説となる長編小説『』(文藝春秋)を上梓した。子供を抱いた女性が遠く水平線をみつめるイラストの表紙が印象的なその本は、南半球のある国に暮らす日本人妻たちのリアルを描いたものだ。

 

広いインド洋と大きな空、色とりどりの花や鮮やかなグリーン。潮風の心地よいビーチにはイルカが泳ぎ、地元の人々はリラックスした様子で思い思いのライフスタイルを楽しむ…そんな環境に住みながら、なぜか会社のヒエラルキーと同調圧力に絡めとられる日本人社会。物語が描き出すのは、そんな不自由な空間で折り合いをつけて生きていこうとする妻たちの姿だ。

 

主人公は夫の転職で南半球に移住することになり、出産と育児をひとりでこなさなければならない新米ママの真知子。もともと人付き合いが苦手な上に自信のなさと海外生活の孤独に追いつめられていた彼女は、ある日、免許センターで商社マン妻の宏美に出会い、現地での生活に小さな希望を抱くようになる。毎日娘を連れてビーチを散策するくらいしかやることのなかった真知子は、宏美に誘われるまま現地日本人会の集まりに参加し、投資銀行妻の郁子、現地の日本人シェフ妻の弓子らと親しくなる。だが、現地移住組ではなく海外赴任組を中心としたその集まりでは、「出身大学」や「夫の仕事」が見えない物差しとなり、そんな中で夫の店を貶された移住組の弓子は逆上し、暗黙の序列を無視したことで「やっかいな人」としてはじき出されてしまう。

 

とかくマウントの応酬をしがちな女社会だが、「海外赴任妻」という妻カースト上位にあっても、ひとたび彼の地へ行けば夫の地位で序列が決まる更なるカーストが待っているのはエグい話。いわゆる「社宅妻」の世界(会社の上下関係で妻の上下関係も決まる)を転写したかのように、会社名で上下関係が暗黙のルール化(総領事妻をトップに航空会社妻は全員がお客様になるので低位、など)されているのだ。そんな不自由な中で妻たちは夫に迷惑をかけてはいけないと自らを縛り、禁を破らないように注意深く関係を築く。相当、窮屈な世界だけに「そんなもの距離をおけばいいのに」とつい思ってしまうが、ある意味、企業を代表して現地コミュニティでうまくやっていくことは、妻たちにも課せられた宿題みたいなものなのかもしれない。

 

物語に登場する妻たちもそれぞれが疑問を抱えつつ、なんとかそうした社会の中で「落ち着きどころ」を探っていく。「タイプがあわない」からと簡単に関係を切るわけにいかない赴任妻、そしてそれに引っ張られるようにつきあわされる移住妻たちは、それぞれが羨望と上から目線を交錯させ繊細に距離をはかりあう。大きなドラマこそ起こらないものの微妙に緊張感のある関係のリアリティが読ませる。

 

そして何かの拍子につい漏れてしまう本音。そこに見え隠れするのは、彼女たちの抱える根源的な不安なのかも。実は彼女たちはみな「自分の足」で立っていない女性ばかりなのだ。赴任妻は仕事もできないし、移住妻にしても生活は半ばパートナーに握られている。そんな中での女の争いはどこか心許なく、「女」というものの生き方をあらためて考えさせられる。

 

物語の後半、移住組の真知子と弓子は、どうにもならない環境の中で開き直り「その地で生きていく」に、覚悟を決め強くなっていく。それもまた「女」の生き方なのかもしれない。

 

文=荒井理恵

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