これぞ松田龍平の正しい使い方! 映画『散歩する侵略者』にヤラれる

エンタメ

(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会

■人気劇団の舞台を黒沢清監督が映画化

 

行方不明だった夫が帰宅。外見は変わらないのに、会話がまったく噛みあわない様子に妻は違和感をおぼえる。同じころ、近くの町では一家惨殺事件が起き、鍵を握る女子高生は失踪。取材に訪れた週刊誌の記者は不思議な少年と出会い、行方不明の女子高生を探すのだが――。

 

今、エンタメ業界でもっとも注目される劇団のひとつ、イキウメの人気舞台が黒沢清監督の手により映画化された。突然の「異変」に翻弄される夫婦を演じるのは長澤まさみと松田龍平。じつは松田演じる真治の身体は宇宙人に乗っ取られており、彼らの目的は地球を侵略することだという。なかなか刺激的&ザ・SF的なストーリーである。

 

平日の午後、シネコンで本作を観た私の最初の感想は「うん、これこそ松田龍平の正しい使い方じゃん!」だった。

 

 

■松田龍平だからこそ成立する世界観

 

松田龍平という俳優を一言で表すと“低体温”ではないかと思う。感情がMAXになった時の彼の芝居を見ても、怒鳴ったり号泣したりという局面はほぼ思い出せない。一見、素にも見える状態のまま立ちつくし、独特の抑揚で台詞を語る演技スタイルは非常に個性的だ。

 

ドラマでの代表作と言えば‘12年の『あまちゃん』と、今年の冬にオンエアされた『カルテット』がすぐに思い浮かぶ。前者では身分を隠して能年玲奈(のん)演じるアキが住む北三陸に潜入し、東京ではアイドルグループのマネージャーとして活動。アキと同じ部屋で寝ても危うさを感じさせない空気感や、北三陸で正体がばれ、年上の同棲相手に泣かれた時の何とも言えない表情は彼でないと成立させられない。

 

また『カルテット』では“低体温”モードを前面に押し出しつつ、松たか子演じるヒロインに恋愛感情を抱く名門一家の落ちこぼれ青年を好演。松、満島ひかり、高橋一生らの共演者が比較的ビビッドな感情を表に出す中、松田のどこかトボけたような、達観したかのような雰囲気は物語の中でも異彩を放っていた。

 

その松田龍平最大の魅力=“低体温”が映画『散歩する侵略者』では最大限に生かされている。話はちょっとそれるが、最近まで松田演じるビジネスマンが後輩と思われる相手に対し「時間ないぞ!」と言い放ち「やっぱかけそばだな」と立ち食いそばを食し「行くぞ!」と背を見せるCMが流れていた。あれを見て「そのキャラ設定は違うだろーっ!」と画面に鼻息荒くツッコんでいたのは私だけではないはずだ。

 

そう、彼がもっとも輝くのは、相手に対し、一定の距離を保ちながら敬語を使っているシチュエーションなのだ。間違っても先輩モードで誰かに説教したり、オラオラのテイで悪ぶっている様相の場面ではない。

 

と、“松田龍平・低体温&敬語最強説”を唱える身として『散歩する侵略者』で彼が演じた真治はどんぴしゃだった。長澤まさみ演じる妻の鳴海に「その喋り方、やめて」と言われるまでの敬語使いに萌え、宇宙人に身体を乗っ取られたという非日常の設定を淡々と演じる姿に心を掴まれる。

 

(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会

考えてみて欲しい。行方不明だった夫が突然帰ってきて、いきなり「じつは俺、宇宙人なんだ……地球を侵略しに来た」と言われたら、普通は精神状態を疑うか、ギャグだと思って笑い飛ばすだろう。が、「ああ、そうなんだ……」と何となく受け容れてしまうのは、松田のキャラクターに負うところが非常に大きい。

 

 

『散歩する侵略者』で宇宙人が地球人から奪うのは“概念”だ。所有という概念を奪われた若者は引きこもり生活をやめ、仕事という概念を奪われた社長は子どもに帰って社内で遊び回る。そこで松田龍平演じる宇宙人が最後に誰からどの“概念”を奪い、どう行動するのか……あの不思議で独特な存在感と地球の行く末をぜひ目撃して欲しい。

 

 

『散歩する侵略者』

原作:前川知大「散歩する侵略者」

脚本:田中幸子 黒沢 清

音楽:林 祐介

監督:黒沢 清

出演:長澤まさみ 松田龍平 高杉真宙 恒松祐里 前田敦子 満島真之介 児嶋一哉 光石研 東出昌大 小泉今日子 笹野高史 長谷川博己

製作:『散歩する侵略者』製作委員会

配給:松竹/日活

公式HP: 公式Twitter: 公式FB:

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小姑系エンタメライター

上村由紀子

エンタメ系ライター(主にドラマ・演劇)&ラジオDJ、MC。横浜市出身。スタジオでマイクを操りつつ「ジャニーズから歌舞伎まで」をキャッチフレーズに、雑誌・Web媒体等で執筆中(桐朋学園大学演劇科卒)。巻き髪歴2...

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