新たに“路面電車”を走らせても意味がない。富山市のLRTが成功した理由

車・交通

 

1年前のこのコラムで、書いた。あの時は2012年の宇都宮市長選挙で佐藤栄一氏がLRT 導入を公約に掲げ大差で当選したにもかかわらず、約450億円に上る整備費が高いとの理由で反対運動が目立ち始めていたことを紹介した。

 

あの直後にふたたび市長選挙が行われた。ここでは反対派候補が、根拠は明らかにしないまま整備費1000億円という数字を掲げたことが市民に衝撃を与え、佐藤市長は一転して僅差での勝利となった。プロジェクトが中断されるのではないかという憶測も出た。しかし今年9月2日に行われた「LRTの早期着工を目指す市民大会」は、会場に入りきれない人が出るほどの大盛況となり、多くの市民がLRT に興味を持っていることが明らかになった。当初の予定よりやや遅れたが、工事はまもなく始まるという。

 

 

■路面電車とLRTは似て非なるもの

 

ここまであえて路面電車という言葉を使わず、LRTという呼び名で通してきたのには理由がある。両者は目的が大きく異なるからだ。チンチン電車という愛称とともにノスタルジーで語られることが多い路面電車は、第2次世界大戦前から戦後にかけて、多くの日本人にとって自家用車の所有が夢だった時代に、都市内の移動をまかなうために導入された。

 

一方のLRTはその後、自動車の爆発的な普及により大気汚染が深刻化するとともに、広い土地が安く手に入る郊外への居住が進んだことでドーナツ化現象が起こり、中心市街地の商店街がシャッター通りになってしまった反省から生まれた。現代の乗り物であることがまず路面電車とは違う。具体的にはLRTを都市の交通の軸と考え、沿線に文化施設や商業施設、集合住宅などを整備することで、中心市街地が活気を取り戻す、つまりコンパクトシティのためのツールである。

 

この点でお手本となるのが富山市だ。現在も市長を務める森雅志氏が、廃止が議論されていたJR富山港線をLRT 化する際に、公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりという政策を打ち出し、地域の拠点をお団子、公共交通を串に見立てて支持を訴えた。そのために多くの停留場に自家用車で来て、電車に乗り換え通勤できるパーク&ライド駐車場を用意したり、遠くの集落に向かうフィーダーバスを用意したりした。多くの市民のお役に立ちたいという気配りがあった。

 

続いて富山市は、一度は廃止された中心市街地の市内電車環状線を復活させた。こちらではグランドプラザと呼ばれるイベント広場や隈研吾設計の市立図書館・ガラス美術館などを沿線に建設し、にぎわいを蘇らせようとした。こうした政策が功を奏し、かつては中心部が減り郊外が増え続けるというドーナツ化の典型だった市内の人口が、最近になって中心市街地の一部で増加を記録している。公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりは成功したというわけだ。

 

このコラムで紹介したになりつつある。この地域を走るJR以外の2つの鉄道、えちぜん鉄道と福井鉄道が昨年相互乗り入れを開始するとともに、福井鉄道はJR福井駅西口までの延伸も実現。数年前から低床タイプの新型車両が両鉄道に導入されたことは紹介した。これに合わせて福井駅西口は再開発が行われ、駅前広場は一新。商業施設や公共施設、住居などが入る21階建てのビルが建設されたことで人の流れが変わり始めた。沿線のパーク&ライド駐車場の一部は商業施設や文化施設の敷地を共用している。

 

地方の公共交通の多くが経営に苦しんでいる中、福井鉄道とえちぜん鉄道は利用者が上昇に転じていることは以前記した。これは鉄道そのものだけでなく、まちづくりの改革も並行して行ったことが効いていると思っている。

 

ただ路面電車を走らせればLRTになるわけではない。まちづくりとセットで導入してこそ意味がある。以前の宇都宮市はこの点が不足していた。沿線開発などにはあまり言及がなかった。しかし前回の市長選の結果を受けて、市民のためのLRTという姿勢が目立つようになった。好ましい動きだ。

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モビリティジャーナリスト

森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担...

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