【中年スーパーカー図鑑|ポルシェ911ターボ】「実際に走ると」最も速かったスーパーカー。“キューサンマルターボ”は存在感も際立っていた!

車・交通

大貫直次郎

イタリアのスポーツカーメーカーが相次いで新世代のスーパースポーツを市場に放つ最中、ドイツのポルシェAGは新たなアプローチで性能を高めたハイパフォーマンスカーを1974年に発表する。コードネーム930のポルシェ911をベースに、ターボチャージャーの過給器を組み込んだ新開発のエンジンを搭載するポルシェ911ターボ(930ターボ)だ。今回は、数あるスーパーカーの中で公表最高速度と実測最高速度が最も近く、実際に走らせると最速と謳われた“キューサンマルターボ”で一席。

 

 

【Vol.5 ポルシェ911ターボ】

1973年9月に開催されたフランクフルト・ショーにおいて、ポルシェAGは新しいスポーツモデルを雛壇に上げる。レースマシンなどで活用されていた“ターボチャージャー”を組み込む新開発のエンジンを搭載した「911ターボ」だ。


排出ガスのエネルギーで排気タービンを回し、これに直結したコンプレッサーで空気をシリンダー内に送り込んでパワーアップを図るターボチャージャーは、既存エンジンをベースに効率的に性能の向上を図るには最適の方法だった。また、排気エネルギーの再利用は結果的にエンジン効率を高めることにつながり、後に重要視される省燃費化に役立つ新機構としても評価される。911ターボに採用されたターボチャージャーはドイツのエベルスペヒャー社(Eberspacher)の製品で、既存の2687cc水平対向6気筒OHCユニットとの組み合わせによって280psの最高出力を発生。また、最高速度は280km/hとアナウンスされた。

 

 

■先進技術の“TURBO”を採用して高性能化を図った911

 

911ターボ、通称「930ターボ」は1975年に市販化された。グラマラスなリアフェンダー部、大型リアスポイラーが特徴的


当初は生産化に関して明確なコメントは発せられなかった911ターボだが、1974年10月開催のパリ・サロンの場ではプロダクションモデルの911ターボが姿を現す。そして1975年モデルとして市販をスタートさせた。コードネームから930ターボとも称された新世代のハイパフォーマンスカーは、搭載エンジンにアルミ合金製のクランクケースとニカシルメッキ(ドイツのマーレ社の特許技術によるニッケルと炭化ケイ素=シリコンの複合メッキ皮膜。オイルを保持しやすい構造を形成する)を施したシリンダーで構成する930/50の2994cc水平対向6気筒OHCターボユニットを採用。ターボチャージャーはドイツのキューネ・コップ&カウス社(Kuhnle,Kopp&Kausch。略称KKK)製の3LDZで、燃料供給装置にはボッシュKジェトロニックを装備する。圧縮比は6.5と低めに設定し、パワー&トルクは260ps/35.0kg・mを発生した。組み合わせるトランスミッションはアルミ製ハウジングを導入した4速MT(930/30)。懸架機構は強化型の前マクファーソンストラット/トーションバー、後セミトレーリングアーム/トーションバーで構成し、タイヤには前185/70R15、後215/60R15サイズを装着する。幅広タイヤを覆うリアホイールアーチは大きく広げられ、全長4291mmと全高1320mm、ホイールベース2271mmは自然吸気版の911Sと変わらないものの、全幅は1775mm、トレッドは前1438/後1511mmにまで拡大した。

 

ダイナミックなエクステリアに比して、内装はいたってシンプル。76年モデルからはブースト計が装備された


大きな固定式リアスポイラーやグラマラスなリアフェンダーセクションなど、迫力満点のルックスで登場した911ターボは、その最高速度が250km/h以上とアナウンスされる。実際に走らせると掛け値なしで250km/h超の巡航が可能で、公表最高速度は上回るものの実測ではその80%にも満たないことが多かったイタリア製スーパーカーを凌駕する走りを見せた。

 

 

■進化に次ぐ進化でパフォーマンスを着実にアップ


ロードカー最速と評された911ターボは、モデルイヤーごとの進化ぶりでも注目を集める。1976年モデルではタイヤを前205/50R15、後225/50R15サイズへと換装してトラクション性能をアップ。また、リアフェンダーの前面にストーンガードを装着する。内装では、計器盤にターボブースト計が配された。1977年モデルになると、タイヤ&ホイールに16インチ仕様を設定。サイズは前205/55R16+7J×16、後225/50R16+8J×16とする。さらに、欧州仕様のエンジンがKジェトロニックの改良や2次エアポンプの装着などを実施した930/52エンジンに切り替わった。

 

15年にわたって生産された「930ターボ」は細かい進化を遂げながら、その存在感を高めていった。写真は79年モデル


1978年モデルでは、エンジンのボア×ストロークを95.0×70.4mmから97.0×74.4mmに拡大した930/60の3299cc水平対向6気筒OHCターボの新ユニットを採用する。ターボチャージャーには新たに空冷インタークーラーを装備。圧縮比は7.0に引き上げられ、パワー&トルクは300ps/42.0kg・mを発生した。大きなインタークーラーをエンジンフード真下に配したことからリアスポイラーの形状および配置は変更され、ラバー部に折り返しがついた新造形となる。また、クラッチのディスクハブはラバーを組み込んだフレキシブルタイプに刷新。そのためにエンジンの搭載位置は30mm後方に移設した。制動性能も強化され、新しい4ポットキャリパーと穴あきベンチレーテッドディスクを装備する。1979年モデルではオイルクーラーの形状変更などを実施。1980年モデルになるとマフラーエンドがデュアルタイプとなり、同時にフライホイールやバルブカバー等の細部も変更された。


1981年と1982年モデルでは日本への911ターボの輸入が中止されるものの、1983年モデルで復活。その際、専用の触媒が装着される。本国仕様ではエンジンのセッティング変更などによって最大トルクが43.8 kg・mへとアップした(エンジン型式は930/66)。1984年モデルになると、チェーンテンショナーの変更やオルタネーターの容量アップといった改良を実施。また、新たにフロントバンパー埋め込み式フォグランプやフロントガラス埋め込み式アンテナなどが設定される。1985年モデルではサスペンションのセッティング変更を敢行し、合せてフロアパンやバルクヘッド周りの板厚アップ(0.75→1.0mm)を行った。1986年モデルではインパネの一部刷新やシート配置の見直し(20mmダウン)、リアのタイヤ&ホイールの変更(245/45R16+9J×16サイズ)などを実施。1987年モデルになると、リアリフレクターのデザイン変更(PORSCHEのロゴが黒字から透かしの反射タイプとなる)やヘッドライトの光軸調整機構の採用などを行い、同時にフラットノーズ仕様を少数限定で販売した。1988年モデルでは、911ターボにタルガとカブリオレを設定。そして1989年モデルでは、ボルグワーナー製G50の5速MTと油圧クラッチを新規に採用した。


15年もの長きに渡って生産されたコードナンバー930の911ターボ。その強烈なパフォーマンスと存在感は、まさにスーパーカー時代の風雲児だったのである。

 

 

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大貫直次郎

1966年型。自動車専門誌や一般誌などの編集記者を経て、クルマ関連を中心としたフリーランスのエディトリアル・ライターに。愛車はポルシェ911カレラ(930)やスバル・サンバー(TT2)のほか、レストア待ちの不動バ...

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