今求められているのは“芸人”より“言葉の達人”? 欽ちゃんはいまの「お笑い」を認めていないのか

エンタメ

撮影・山田英博

かつては「視聴率100%男」と呼ばれ、テレビをエンターテインメントの王様へと押し上げた立役者である「欽ちゃん」こと萩本欽一、76歳──そして、『電波少年』シリーズほか数々の人気番組を手がけ、バラエティ界を席巻したあの「Tプロデューサー」こと土屋敏男、61歳が初監督としてメガフォンを取り、欽ちゃん“主演”で一本のドキュメンタリー映画を撮ったという。
「テレビの巨人」と呼ばれて相応しい重鎮がタッグを組んで完成した作品は……どうやら、相当に“いわくつき”であるようで、前回はその従来の既成概念を打ち破ったあまりにアグレッシブな“手法”についておうかがいした。今回は“W巨頭”の「モノを創ること」に対する想いとこだわりを、「テレビ」「笑い」「現場」のテーマに分け、ふんだんに語っていただいた!

 

 

【プロフィール】


主演:萩本欽一(はぎもと・きんいち)


1941年東京都台東区生まれ。高校卒業後、浅草東洋劇場の軽演劇の一座に加わり、1966年、坂上二郎と『コント55号』を結成。その後、数々のテレビ番組に出演し、『スター誕生』(NTV/1971)、『欽ちゃんのどこまでやるの!?』(EX/1976)、『欽ちゃんのドンとやってみよう!』(CX/1981)、『欽ちゃんの週刊欽曜日』(TBS/1982)、『ぴったし カン・カン』(TBS/1975)…など、視聴率30%級の超人気番組を次々と生み出す。自身の冠番組やレギュラー番組の1週間の視聴率合計が100%を超えることから「視聴率100%男」と呼ばれた。

 

 

企画・構成・監督:土屋敏男(つちや・としお)

 

1956年静岡県静岡市生まれ。1979年、日本テレビ放送網(株)に入社。ワイドショーの現場を経てバラエティ番組に携わるようになり、『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』(1991)、『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』(1996)…ほか、多くのヒット番組を世に送り出す。とくにバラエティ番組にドキュメンタリーの視点を取り込んだ『進め!電波少年』シリーズ(1992〜)はテレビ番組の予定調和を崩すスタイルが視聴者の心を捉え、社会現象となった。このシリーズで「Tプロデューサー」「T部長」の愛称で親しまれるようになり、現在は、日本テレビにて日テレラボシニアクリエイターとして、定年してもなお精力的に映像コンテンツを制作している。
 


11/3(欽・祝)公開! 映画『We Love Television?』

【萩本欽一×土屋敏男 緊急密談!Vol.02】

2011年、アナログ放送が終了する年。当時のチーフプロデューサーから土屋に、2時間枠企画のオファーがあり……それが『We Love Television?』誕生のきっかけだった。「テレビの区切りの年ならば、欽ちゃんだ!」と、即座にキャスティングが土屋の頭には浮かんだという。

 

『欽ドン!』『欽ちゃんのどこまでやるの?』など、視聴率30%の“お化け番組”の現場って、どんな空気だったんだろう──そんな“あらためての好奇心”に突き動かされ、「一緒に30%番組をつくるという過程も含めてこの映画を撮りたかった」と土屋は回想する。

 

そのいっぽうで「ドキュメンタリー映画を撮っていること」を知らされずに、視聴率30%の「テレビ」番組をつくろうと試みる“仕掛け”に乗った萩本が、「現場」で発した“熱”とは? また、「笑い」に対する“持論”とは……?

 

稽古での一コマⒸ2017日本テレビ放送網

■「稽古」で積み上げたものを「アドリブ」で掻き回す!

 

萩本:僕はね、修行した浅草ではすべてがアドリブだったのよ。今みたいに「お笑い(番組)に細かいホン(=台本)がある」のには違和感があるな。

 

──映画ではけっこう練習を重ねて“つくりこんでいる”風にも見えたのですが?

 

萩本:ああ、何度も同じことを練習するのは、まず(他の演者を)安心させてアドリブで驚かせる手法。何度も稽古して、本番では僕だけがアドリブでかき混ぜ、場を一気に変えちゃうことが狙いなの。

 

テレビっていうのは、タレントさんの緊張感も安心感もすべて映っちゃうから。で、安心感のほうが眼から出ちゃったら、もうそれでおしまいなのよ。

 

──今のご意見を聞いて、土屋さんはどのようにお感じになりました?

 

何度も稽古して、本番では僕だけがアドリブでかき混ぜ、場を一気に変えることが狙い 撮影・山田英博

土屋:まったくもってそのとおりだし、この映画を観て、そういう大将(※=萩本さんの業界内でのニックネーム)の狙いがわからなければ、むしろ不思議だとも感じますね。それが“熱”。とにかく演者の“熱”こそが命! 「命=不可欠」だからこそ“当然の手法”ではないでしょうか。

 

萩本:一番いいのは、「動きに合ったアドリブの台詞」。台本どおりの教えられた台詞は動きもバラバラ。「笑い」という意味では観ているお客さんが窮屈。どんなに上手に演じても全然ダメ!

 

もちろん、稽古はみっちりするんだけど、稽古どおりにみんながやろうとしても、そのとおりつくることはない。「稽古」は、あくまで僕の稽古。皆さん「自分の稽古」だと思い込んでいるけど……。

 

稽古を通じて、「ああ、彼は彼女はこういう風に演じるんだな」ってことを確認したとすると、「じゃあ、本番はこう変えようかな」と……。“変え方”を考えるために(稽古を)見ているだけ。それで、相手がダメな場合は、「ああ、このヒトはダメだから自分はこうやらなきゃ」って心に留めておいたり……ダメでもダメ出しはしない。そのまんまやり続ける。

 

何度稽古しても、それがまったく積み上がっていかないから、共演者のヒトたちは「なんのためこの稽古をやってんだろ…」って思ってるんじゃないかな(笑)?

 


■今の「お笑い芸人」は「芸人」ではなく「言葉の達人」?

 

──今と昔では「現場」の空気もかなり違っている?

 

萩本:昔はお客さんが「テレビを観に来ていた」んじゃない。「会いに来ていた」。スタジオに、番組に来て、僕らに会いに来ていた。今のお客さんは「テレビを観に来ている」。

 

──その違いは、演者側にどのような影響を及ぼすのでしょう?

 

萩本:昔にスタジオに来ていたお客さんは、我々が出てくると「会いに来ている」から、自然と座席から背中が離れて前のめりになっていた。それはお茶の間にいる視聴者の皆さんも一緒。拍手の音も無茶苦茶大きくて早くて……。だから「テレビに出る仕事って本当にお得な、ありがたい仕事なんだな…」と自覚することができた。こっちも精一杯感謝の意を込めて、「ああ、一所懸命やらないと…」「汗かかないと…」と頑張ることができた。

 

今のお客さんは、俯瞰で観ている気がする。つまり「番組を観に来た」ってこと。

 

まだまだ主役がアイドルだったら、みんな番組を観に来るんじゃなくて、会いに来るわけでしょ?

 

──それは、萩本さんにとって、寂しいこと?

 

萩本:いやいや、そういうことじゃないのよ。たとえば、今のお笑いのヒトたちは「芸人」じゃない。言ってみれば「言葉の達人」。言葉に関しては、本当に優れている。僕なんかもう敵わないほど……。そして、今のテレビは「言葉の達人」のほうが向いているような気がする。芸は覚えるのにもつくるのにも時間がかかるし……。そういう苦労は、もはやテレビじゃあ必要ないのかもしれない。

 

昔は、自分が築き上げてきた芸を最大限までテレビの前で引っ張り出してきて……。でも今は、個々の感性であったり顔であったり才能であったり……なにか一つ持ってりゃ、充分に通用する。むしろ今のほうが「個性が生きる時代」なんじゃないかな?

 

なので、僕は途中から「芸人」という呼び方をやめちゃった。「昔は芸人という修行」があったけど、今は「テレビ芸」という芸が必要なわけだから、昔とはまったく違う修行をしなきゃならない。近年、テレビ芸はどんどん進化してきている。もちろん、どっちが良くてどっちが悪いってことじゃなくて……そこはちゃんと認めているから。

 

「萩本欽一」というヒトは、僕にとって「追いつきたいけど追いつけない師匠」なんです。撮影・山田英博

土屋:「萩本欽一」というヒトは、僕にとって「追いつきたいけど追いつけない師匠」なんです。

 

持っているテクニック全部も完璧だけど、そのテクニックや経験値をあっさり捨ててしまえるのもすごい。ご本人が最初は「やりたくない」と嫌っていた『スター誕生』だとかの“司会の仕事”から始まって、テレビについて真剣に考え、テレビに対する居心地の悪さから、数々の“新しい実験”を積み重ね、高視聴率番組をたたき出していくわけです。たえずテレビが変化をしているなかで、大将もその変化を体感しながら「ミスター・テレビジョン」とも呼ばれるようになったんです。

 

 

■「笑ってしまう」こそが最高級の「笑い」?

 

──素晴らしい「欽ちゃん論」! さすが長年の“盟友”ならではの含蓄溢れるお言葉です! では今後、そういう新しい「言葉の達人」である面々と、萩本さんはどう絡んでいく心づもりなのかを教えてください。

 

萩本:アタシ? アタシは浅草の劇場で修行していますから、それが一番面白いという根っこは変わりません。そこにちょうど優れた「テレビ芸」のヒトたちが乗っかってきて、上手いことマッチングして番組をつくることができたらいいかな……。

 

僕は「笑い」で言うと、「笑ってもらう」「笑わせる」じゃなくて、「笑ってしまう」をず〜っと突き詰めているの。しかも、「笑ってしまう」はアドリブじゃないと、なかなかむずかしい。あのヒトのあの芸をどうするかってよりも、掻き回したほうがずっと上手くいくはず……。

 

──「笑ってしまう」という「笑い」は、おそらく難易度としては一番高い……?

 

萩本:そうそう。僕は一番むずかしいとこに挑戦しているの。だから、いつまでもたどり着かない。だからこそ、追い求めがいがある。

 

少なくともテレビでは、まだ「笑ってしまう」という番組は完成できていない。つまり、まだまだ僕にはやることがたくさんある。

 

土屋:「笑ってしまう」ような、究極に「面白いモノを創りたい」と願い続けるなら、「偶然に人と会う」ことがもっとも重要です。「モノ創り」とはその積み重ねに尽きる。

 

現に、この映画が完成するまで、いろんな人と偶然会っていますし、岡村(靖幸)くんだって、この映画の情報を偶然知って「じゃあ、協力します」と言ってくれたわけだし。

 

『We Love Television?』は、そんな「偶然の連続」に助けられて完成し、「公開」というゴールにたどり着いた映画だと、携わってくださった皆さんには心から感謝しております。

 

こそ、和やかな掛け合いでスタートしたこの対談──しかし! 「モノを創ること」にテーマが近づくにつれ、二人のボルテージは上がっていくばかり……。次回、最終となるvol.3では、今年に日テレで定年を迎えた土屋の生き様、さらには萩本の死生観……ほか、“あと一歩”踏み込んだ部分にまで迫ってみたい。

 


■映画情報
『We Love Television?』
11月3日(欽・祝)全国ロードショー
 
【出演】
萩本欽一
田中美佐子 河本準一
 
【企画・構成・監督】
土屋敏男

公式HP:

 

Ⓒ2017日本テレビ放送網

■『We Love Television?』公開記念連日トークショー【T監督の“あの人”に会いたい!】開催決定!!

 

11月5日(日)から11月10日(金)の6日間、ヒューマントラストシネマ渋谷では映画の公開を記念して、毎日日替わりでキャストやスタッフが登壇するスペシャルトークイベントを実施することが決定いたしました!

劇中に登場するタカガキさんや和田彩花さん(アンジュルム)、若手お笑い芸人代表として今大ブレイク中のみやぞんさん(ANZEN 漫才)、さらには映像制作の分野で活躍する著名人をお招きして、本作のみならず広くモノづくりに対する思い等々、ここでしか聞けない貴重なお話を語っていただきます。

 

<開催概要>


■ヒューマントラストシネマ渋谷(東京都渋谷区渋谷 1-23-16 ココチビル 7・8F)


日時: 11月5日(日)~10 日(金)  連日 20:45 の回本編上映後
チケット購入方法ほか詳細はこちらからご確認ください。

 
【ゲスト】


10月5日(日)菅賢治(『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』総監督)

10月6日(月)齋藤精一(ライゾマティクス 代表取締役社長)

10月7日(火)和田彩花(アンジュルム)、タカガキ ※本編出演者

10月8日(水)みやぞん(ANZEN漫才)

10月9日(木)古立善之(日本テレビ『世界の果てまでイッテQ』総合演出)

10月10日(金)原一男(映画監督)

 

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ネットニュースパトローラー

山田ゴメス

1962年大阪府生まれ B型。 ネットニュースパトローラー(※citrus限定肩書き。たまにスポーツ新聞や週刊誌も。略して「NNP」)。 関西大学経済学部卒業後、大手画材屋勤務を経てフリーランスに。エロからファッショ...

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