「追い抜き」を増やし「高周波サウンド」を復活…レギュレーション変更はF1の魅力増大につながるのか?

車・交通

 

2021年に導入される新しいF1エンジンのプランが発表された。仕様の詳細は2018年末に最終決定される。現在、F1にエンジンを供給するのはメルセデス・ベンツ、フェラーリ、ルノー、ホンダの4社だが、協議にはF1参戦に関心を持つ自動車メーカーや独立系エンジンサプライヤーも参加している。VWグループやアストンマーティン、コスワースらが名を連ねているというが……。


現在のF1エンジンのフォーマットは、2014年に導入されたものだ。2013年までは2.4L・V8自然吸気だったが、2014年に1.6L・V6ターボに切り替わった。2021年に導入されるプランも、1.6L・V6ターボであることに変わりはない。では、何が違うのかというと、MGU-Hが廃止される方向で検討されているのだ。VWグループなのかアストンマーティンなのかコスワースなのかわからないが、開発コストを低減することで、新しいメーカー/ブランドが参入しやすいようにするためだ。


MGU-Hとはなんぞや、と疑問に思う方のために説明しておくと、熱エネルギー回生システムを構成するモーター/ジェネレーターユニットのことである。モーターとジェネレーター(発電機)を兼ねた部品と考えればいい。ターボ(ターボチャージャー)は、エンジンの排気が持つエネルギーを利用して空気を加圧する装置だが、あるときは排気のエネルギーを利用して発電し、あるときはターボラグの解消に用いるのがMGU-Hだ。


そのMGU-Hを廃止してシステムをシンプルにするのが、協議されているアイデアのひとつである。MGU-Hがなくなっても、MGU-Kと呼ぶモーター/ジェネレーターユニットは残る。これは市販ハイブリッド車に搭載されているモーターと似たような役割を受け持ち、減速時に車両の持つ運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、加速時はエンジンをアシストする。


現在のレギュレーションではMGU-Kの最高出力は120kWに制限されているが、これをもっとパワフルにする案が提示されている。さらに、現在はMGU-Kによる発電やアシストがプログラムによってほぼ自動化されているが、もっとドライバーの裁量に任せて使えるようにするプランが示されている。ここぞというタイミングでボタンを押すと、強力なブーストがかかって瞬間的にスピードが増し、追い抜きの機会をつくり出そうというわけだ。

 

 

■耳をつんざく「F1サウンド」復活


ファンに向けたアピールのひとつだが、ファンのための変更案はもうひとつある。サウンドだ。2013年までは耳をつんざく高周波サウンドがF1の持ち味だった。最高回転数が18000rpmに設定されていたこと。エンジンの燃焼室とテールパイプ出口の間に音を遮る障害物がない自然吸気エンジンだったことが、魅惑的な高周波サウンドの主な理由だ。


2014年からは高効率のターボエンジンになり、音の迫力が消えてしまった。理由のひとつは排気の流路にターボが介在して音を遮ってしまうこと。エンジンの効率が高くなって音のもとになるエネルギー自体が小さくなってしまったこと。常用最高回転数が12000rpm前後に低くなってしまったことなどが挙げられる。


実は現在のレギュレーションでも、最高許容回転数は15000rpmに設定されている。そこまで回さないのは、燃料流量が10500rpmで頭打ちになる規制が定められているからだ。10500rpmより上の回転域では、回転数を高めても燃料の噴射量を増やすことはできない。この状況では高回転まで引っ張る意味が薄いので、12000rpm前後に留まっているのである。


2021年の新エンジンプランでは、回転レンジを3000rpm引き上げる方向で検討されている。どのような手段あるいは枠組みで回転上昇を実現するのか、詳細は発表されていないが、狙いは「サウンドの魅力を取り戻すこと」なのは間違いない。

 

 

■いつもフェラーリが反対する…

 

 

レギュレーションが劇的に変わる場合、最終決定にたどりつくまでに紆余曲折があるものだ。過去もそうだったし今回も例外ではなく、フェラーリが反対の意思を表明している。これはもう、お約束である。2014年に現行の1.6L・V6ターボのフォーマットが導入された際は、当初、1.6L・直列4気筒ターボで協議が進んでいた。


それを「そんな安っぽいエンジン積んでられるか。V6じゃなきゃF1から撤退するからね」(超意訳です)と、フェラーリは脅しをかけたのである。そのフェラーリの脅し(?)を飲む格好でV6になった経緯がある。今回も、「MGU-HがあるからこそF1のパワートレーンはユニークな存在でいられるのに、それをなくすとは何ごとか」と異議を唱えているのだ。


既得権益を守るための意見に感じられなくもないが、暴論とも言い切れない。2021年新エンジンレギュレーションのコンセプトは、開発コストを低減して新規参入メーカーを呼び込むことと、魅力の増大である。MGU-Hの廃止と常用回転数の引き上げは、目的を達するためのソリューションになるだろうか。
 

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モータリングライター&エディター

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『トヨタ ル・マン...

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