一枚の写真で、あなたも「児童ポルノ禁止法」容疑者に…違反容疑と中傷に立ち向かった記録

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(山下重喜/幻冬舎)

 

『それでもボクはやってない』(2007)という映画では加瀬亮演じる青年が、犯していない電車内痴漢の罪で起訴される。最初は「いつかは無罪が分かってもらえる」と思っているのだが、警察も裁判長も有罪を前提に話を進めていく。主人公の絶望と恐怖がダイレクトに伝わってくる作品だった。

 

『それでも~』は当時の司法制度の問題点を告発した。しかし、公開から10年を経て現実はますます悪くなっているのかもしれない。『二十日間の浦島太郎 私が容疑者にされた日』(山下重喜/幻冬舎)を読んでつくづくそう思った。本書は「児童買春、児童ポルノに係わる行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反」の罪状で20日間の拘留生活を強いられた著者自身によるドキュメント本である。そして、ここに描かれている事件は誰の身に降りかかってもおかしくないのだ。

 

著者が警察の訪問を受けたのは平成27年8月24日のこと。捜索差押許可状を読み上げられ家宅捜索が始まるが、著者には身に覚えがない。捜索が終わると著者は逮捕される。未成年から猥褻な画像を受け取ったうえ、夜中に連れ回した容疑がかかっていたのだ。母親の介護やPTAの仕事など、多忙だったにもかかわらず著者は20日間の拘留を余儀なくされる。

 

取調室での刑事たちの態度は高圧的で、著者が犯人だと決めつけてかかっていた。おそらく刑事たちにはすでに「ストーリー」ができあがっており、著者をストーリーにしたがって自供させようとしていたのだ。当然やっていない罪を認められるわけもなく、著者は否認し続ける。しかし、睡眠障害などの持病を抱えた著者にとって留置所生活は過酷だった。物的証拠がない本件を立証するには著者が自供するしかないため、刑事たちの取調べも執拗を極める。支援者から署に電話が入ると「山下さんは無実なの?」と皮肉を言われた。「全てを自白してこそ反省となるのだ」と的外れな説教もされた。取調べの最後にはネタがなくなり「やったでしょ?」と聞かれ続けて平行線を辿った。

 

警察が自供をとろうと躍起になっていた理由は2つある。まず、著者が犯したとされる児童ポルノに関する法律が施行されたばかりで、逮捕事例を急いでいたから。そして、PTAや「おやじの会」などで子供の安全を守るために尽力していた著者が逮捕されたためにマスコミが報道を過熱させたからである。心ない取調べにつき合わされ、著者は自殺を考えるほどに神経をすり減らしていく。

 

それでもフェイスブックなどを中心にして生まれた支援の声が著者を勇気づけた。息子や友人、「おやじの会」の仲間たちも最後まで著者を信じてくれた。容疑を認めればどんなに楽だろうと心が折れかけた著者が「戦い」に勝てたのも支えてくれた人々の存在があったからこそだろう。

 

本書終盤で語られる「事件の真相」はあまりにも呆気なく、「そんなことで逮捕されるのか」と愕然とさせられる。そして、著者の「戦い」は拘留が解かれてからも終わらなかった。マスコミの誤報はインターネット上で匿名掲示板やSNS、個人ブログなどに拡散していたのだ。誹謗中傷じみた書き込みは削除依頼を出せばいいし、誤報は出版社に抗議すればいい。厄介なのは確信的に誤報を転載する個人ブログだった。「公共のニュース」を転載するだけでは名誉毀損にあたらないので、警察に訴えてもブログ主を逮捕できない。このエピソードは一度世間に出回ってしまった情報の恐ろしさを物語っている。

 

著者と留置所で交流のあった人々は「言うたもん勝ち」という言葉が口癖だったという。現行の法律は本当に現代社会の平和を守るために古びていない内容なのだろうか。著者の感じた怒りと悔しさは、「言うたもん」だけが得をする司法への問題提起として、なんとしてでも活かしてほしい。

 

文=石塚就一

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