誰に共感? 田舎の3人兄弟を見事に演じ切る 映画『ビジランテ』トリプル主演インタビュー

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citrus 橋本達典

撮影:岸望

幼いころに失踪した長男。市議会議員の次男。デリヘル業雇われ店長の三男。別々の道、世界を生きてきた三兄弟が、父親の死をきっかけに再会。深く刻まれた、逃れられない三兄弟の運命は再び交錯し、欲望、野心、プライドがぶつかり合い、事態は凄惨な方向へ向かっていく──。

 

2009年、自主制作映画『SR サイタマノラッパー』がミニシアター界を席巻、今年に入り、自身が脚本・監督を手掛けた『22年目の告白‐私が殺人犯です‐』で邦画界に鮮烈な印象を残した入江悠監督のオリジナル作品『ビジランテ』が、いよいよ公開(12月9日土曜よりテアトル新宿ほか全国公開)。

 

地元・埼玉を舞台に、入江監督が「原点回帰」と位置付ける渾身の作品でトリプル主演を務める大森南朋(一郎)、鈴木浩介(二郎)、桐谷健太(三郎)が思う作品の見どころ、そしてお三方の“兄弟観”、“地元観”とは? 激闘の撮影を終え、まさに本当の兄弟のような深い絆で結ばれた三人が、丁々発止のやりとりで語る。
 


 

映画『ビジランテ』

大森南朋×鈴木浩介×桐谷健太 トリプル主演インタビュー

 

■台本を読んでも、わからないことだらけだった

 

──トリプル主演となった本作ですが、現場での雰囲気はいかがでしたか?

 

大森:雰囲気はよかったです。和気あいあいとしていました。二人とも頼もしいですし、僕からすると、桐谷健太さんの単独主演作でいいんじゃないかと思ったくらいです。

 

鈴木:そうですね。桐谷健太主演、南朋さんがトメ(脚本の最後にクレジットタイトルされる俳優)。で、僕が真ん中のどこかに入る、みたいな(笑)。

 

桐谷:いやいやいや(恐縮)、そんなやめてください! 三人が揃うことはあまりなかったですけど、お兄ちゃん二人には本当に引っ張っていただいたので。

 

大森:桐谷さん、鈴木さんは昔から知り合いなんですけど、今回共演できてよかったです。

 

桐谷:本当は絆があるのに、その絆がちぎれてしまった三人がどうなるのか……三人でしかわかり得ない関係を描いた物語ですから、そういう意味でも、もともとの知り合いだった、好きだったお兄ちゃん二人とお芝居できたことはよかったと思います。

 

鈴木:昔からの知り合いということもあり、違和感なく、スッと兄弟の関係性に入れましたね。また知り合いではあったけど、現場でご一緒するのは初めてだったので、新鮮でしたし刺激もありました。

 

──お三方とも入江監督の脚本を読んで出演を決められたそうですが、最初はどんな印象を持たれたのでしょう?

 

大森:全体的な構想はとても面白いと思いましたが、台本には描かれていない部分がたくさんあったので、「どんなふうになるのかな?」というのが第一印象でした。

 

©2017「ビジランテ」製作委員会

鈴木:とにかく重い。僕が今まで演じたことのない、ハードで救いのない世界観でしたから「大変な撮影になるんだろうな」と。

 

桐谷:僕は「監督はなんでこんな話を書こうと思うたんやろう?」と、監督のことがものすごく知りたくなって。そういう独特な……言葉では言い表せない話であり、役だと思いました。

 

大森:台本は入江監督がやりたいことや、監督の世界を読み取る“きっかけ”になったくらい。実際に現場に行ってみないとわからないことがたくさんあるだろうし、監督の頭の中にあるものがあるだろうなと思いながら、みんな(現場に)臨んだと思います。

 

桐谷:でも出来上がったものを観ると、そういう色んな疑問を超えてきたというか。めちゃくちゃ攻めた、カッコいい映画になっていたんで「入江監督、すごいな」と。

 

──実際に、それぞれの役を演じて感じたことは?

 

桐谷:正直、最初はどう演じていいか全然わからなかったんですよ。リサーチをするとか、そういうことでは計れない役だと思って。ただ、三郎にはどこか透明感を感じていたので、頭で考えて(役を)作っていくよりも、そのまま飛び込んだ方がいいかなと。で、三郎の衣装を着て(ロケ地である埼玉県の)深谷に行って、あそこの冷たい風を受けて。「ああ、こういう気持ちなんかな」、「こういうふうに動いて、こういう歩き方をするんやろうな」と、わかってきて。

 

大森:実際にカメラの前に立ってお芝居をしてみると、現場で生まれることがたくさんありました。

 

鈴木:「臭え、臭え」というセリフが出てきた時に、台本を読んだだけではわからなかったんですけど、自警団のシーンで夜道を歩いて初めてわかったんですよ。

 

©2017「ビジランテ」製作委員会

大森:深谷は養豚場があるから、セリフに書いてあるんです。で、映画では横浜から来た人間たちがそう言う。

 

鈴木:深谷にも独特な匂いを感じましたね。

 

桐谷:それは、深谷の空気感を知ってる監督が書いたホン(脚本)だから、ですよね。入江監督とは同い年とはいえ、育った環境も境遇も全然、違うんですけど、三郎を通して監督の知る空気や、あの場所に漂う閉ざされた窮屈な感じを垣間見れたというか。ちょっと不思議な感覚はありましたから。

 

鈴木:ただ、僕は映画自体がほとんど出たことがないから最初は重圧を感じました。

 

大森:映画バージンだからね(笑)。

 

鈴木:全部が初めての経験で。色んな意味でハードなシーンがたくさんあるんですけど、ああいう(妻役の篠田麻里子との)ラブシーンも今までほとんどやったことがないですし。しかも車の中で……という(笑)。

 

©2017「ビジランテ」製作委員会

──三兄弟とも男女の濃厚なシーン、またバイオレンスなシーンも多いです。

 

鈴木:でも南朋さんが演じた一郎もそうですけど、三郎も目をつぶりたくなるような痛いシーンがあるし、それに比べたら僕なんか全然、平気かなとは思えたくらい。

 

桐谷:二郎は二郎で家を継いで、色んなものを背負ってる役ですから。気持ちの上では大変だったんじゃないですか?

 

鈴木:台本を読んだ段階で、こんなに緊張したのは初めて。三者三様の大変さがあったとは思うけど。

 

大森:一郎、二郎、三郎の誰にもなりたくないですよね?

 

鈴木:どれもイヤですね。きっと(他の役を)演じていても楽しくない(笑)。いや、楽しいんですよ。でも、ものすごく大変だと思う。クライマックスに僕はいなかったけど、一郎と三郎が実家で争うじゃないですか。僕、実は暴力的なシーンが苦手なので、あそこなんか本当に大変だったろうな~と。

 

大森:ほどんど屋外だったので寒かったです。

 

桐谷:唯一、三人で顔を合わせる川のシーンも寒かった。っていうか、スケジュールも含めて、全部シーンが過酷でした(笑)。

 

©2017「ビジランテ」製作委員会

■弟役を演じて初めて知った、「決められない幸せ」

 

──間違いでなければ、大森さんと桐谷さんは次男、鈴木さんは長男。実際に兄弟がいるからこそわかる“兄弟観”というものはありましたか?

 

桐谷:今回、僕は末っ子ということもあって、ふと自分の兄貴のことを思い出したりはしましたけど、全然違う兄弟でしたからね。映画に出て来る父親(菅田俊)は暴君でしたが、ウチのおとんは、めっちゃ明るかったりしますし。

 

大森:どんなふうに明るいの?

 

桐谷:シャンソンを歌いながら近づいてくるような。「ろくでなし~♪」とか歌いながら。小学生の僕が「誰がろくでなしやねん!」言うて(笑)。

 

大森・鈴木:アハハハハ!

 

桐谷:そういう境遇も何もかもが違う家族、兄弟だったんで、そこと重ねることはなかったですけど、末の弟らしい“佇まい”というのは、実際に自分が次男やったことで出せたこともあるのかなと思います。

 

鈴木:僕は長男だから「次男っていいな。」と(笑)。

 

大森:自由そうに見える?

 

鈴木:いや、自由というか、責任……みたいなものですかね。家のことに関して、弟たちは兄貴に従わなきゃいけない部分があるんだろうけど、その代り“決められない幸せ”というのもあるんじゃないかな。実は僕も甘えたかったと二郎を通して思いました。

 

桐谷:色んなことを、お兄ちゃんとして決めてきたんですか?

 

鈴木:うん、決めてきた。でも、この映画では自分の出ていないシーンでの一郎のやり切れない様子や兄貴二人の間に入って仲を取り持とうとする三郎の苦悩を見て、兄にも弟にも共感できた。共感……というのともまた違うけど、わかるところはあったかな。

 

大森:長男が大変だったというのは、大人になってみてわかること。家庭の事情とか僕が知らないことも知っていたり。とはいえ一郎はある種、あの家の最強の長男である親父の抑圧から逃げてしまうけど、僕の場合も兄貴(映画監督の大森立嗣)にめちゃめちゃイジめられてたので(笑)。ウチの兄貴、極真空手やってたので、小さいころはいつも理不尽な理由でボコボコにされてて。

 

──逃げ出した一郎の気持ちもわからないではない?

 

大森:そうですね……多少は。今は兄貴と仲がいいですけど、兄貴が助監督のころなどは、監督に怒られたりでピリピリしてるもんだから、飲み屋で兄貴と会うと二人で殴り合いのケンカになったり。お互い「お前に言われたくねえよ!」なんて(笑)。そういう意味では映画の、あの三兄弟の感じもわからなくもないなと。

 

桐谷:映画の三兄弟はああいう結果に終わりますけど、お二人はいつくらいに仲直りしたんですか?

 

大森:兄貴が映画を撮れるようになってからは落ち着いた。それまでの鬱屈としたものを映画にブツけてるんじゃないかと。毒っぽい映画ばかり撮っていますし(笑)。

 

桐谷:それ入江監督も言うてました。自分の中にある毒を昇華すると言いますか。

 

©2017「ビジランテ」製作委員会

■地方都市、東京、住んでいる人にしかわからない独特の「閉塞感」

 

大森:『SR サイタマノラッパー』シリーズなどを観ても思いますが、そこには地方都市ならではの閉塞感というものが絶対にあると思う。

 

──自分の地元なんかもまさにそうですが、地方都市の閉塞感や排他的な空気感が映像からヒリヒリと伝わります。でも、そういう“地方観”や“地元観”をどう捉えましたか?

 

桐谷:僕は大阪市内の出身ですけど、深谷に行ってシャッターが降りてるお店とか見ると、自分の地元ではないのに寂しいものがありました。

 

鈴木:わかるところはたくさんありましたね。さっきも言った“匂い”とか。それは空気感とか含めた、色んな匂い。

 

大森:僕は東京の出身だけど、都会でも都会なりの地元の空気はあります。そこで生まれ育ち、今もずっと住んでいる人は大勢いて。それなりに、他にはどこにも行けないという閉塞感もある。

 

桐谷:二郎や三郎のように、色んな事情で街から離れられない人もいて。映画にも出てくる焼肉屋さんとか、地元の人がそこしかいかないような場所があって。そこにはいつも同じ顔触れがいて。

 

──かつて’80~’90年代のアメリカ映画でよく描かれた“終わった”工業都市や貧困や人種などの問題。そういうものが、日本でも当たり前の景色になってきたのかなと。

 

桐谷:そうですね。どこにでも、あり得る話になってきた。

 

鈴木:色んな意味で“痛い”映画ですよね。完成した映画を観て、イタタッ…ってなった。

 

 

■「デートで行ってほしい」映画?

 

──こう言うと何ですけど、決して万人ウケする映画ではないぶん、観た人の心に響くもの、胸に刺さるものも大きいと思います。

 

大森:暗いですし絶望的ですけど、僕自身もこういう映画は好きですし、何より入江監督が原点回帰したオリジナルの台本。やりたいこと、伝えたいことが明確なので、できるだけ多くの人に観ていただきたいと思います。公開後、観た方がこの映画をどう評価するのか。どう感じるのかが楽しみ。早く感想を聞いてみたいです。

 

桐谷:デートで行ってもらいたいですよね。

 

大森:さすがにデートはないんじゃない?(笑)。

 

桐谷:いえ、俺はこの映画をデートに選ぶ女の子は嫌いじゃないです。

 

鈴木:でも、話すことが多そうですよね? 映画って観た人それぞれだと思うんだけど、その“それぞれ”の部分がたくさんありそうだし。

 

大森:確かに、今も話したような兄弟の話から地元の話――何かしら考えるきっかけにもなると思うので、観終わったら飲み屋に直行してほしい。きっと飲まなきゃやってらんない映画だと思いますので(笑)、みなさんぜひ。

 


■映画情報
12/9(土)公開 映画『ビジランテ』

【出演】
大森南朋 鈴木浩介 桐谷健太ほか

【脚本・監督】
入江悠

HP:
 

©2017「ビジランテ」製作委員会

 

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橋本達典

橋本達典

1968年東京都生まれ。宮崎県出身。フリー編集&ライター。テレビ情報誌『TVガイド』の記者、『TVBros.』での編集・執筆を経てフリーに。現在『Men'sJOKER』、『一個人』、『Numero TOKYO』、『Street JACK』等の雑誌や『メンズジョーカー・ プレミアム』、『BEST T!MES』、『ナタリー』、『AbemaTIMES』などWeb媒体まで、エンタメ&ファッション誌のインタビューを中心に幅広く執筆。ヴィレッジヴァンガードのフリーペーパー『VVMagazine』の企画編集にも携わる。

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