累計生産台数1億台! ホンダ「スーパーカブ」が売れ続けているのには理由があった

ライフスタイル

 

毎日当たり前のように目にしているために、凄さに気づかないモノがある。モビリティの世界では本田技研工業(ホンダ)の原付バイク「スーパーカブ」が代表格だろう。

 

デビューはなんと60年近く前の1958年。それ以来、基本設計を変えずに作り続けられ、今年10月には累計生産台数1億台という金字塔を達成した。4輪車の単一車種最多生産台数が、カブト虫の愛称で知られるフォルクスワーゲン「ビートル」の2152万台だから5倍近い。いかに偉大な記録かということが分かる。

 

そんなスーパーカブが記録達成と同時にモデルチェンジを実施。平成28年排出ガス規制への適合でエンジンが日本専用になったことに合わせデザインをリファインし、生産拠点も中国から日本に戻った。これを機に試乗会が行われたので参加してきた。

 

学生時代にアルバイトで乗って以来かもしれないスーパーカブ。あのときは仕事の道具という認識しかなかったけれど、今回は取材対象。いろいろ観察していくうちに、1億台の理由がおぼろげながら伝わってきた。

 

まずは壊れにくい設計。エレクトロニクスを駆使した複雑な機構は用いず、可能な限り簡単な構造を用いている。たとえばトランスミッションはクラッチ操作なしでイージーライドを実現しているが、そこに使われているのは遠心クラッチと言って、スロットルを開けると遠心力の原理でクラッチがつながり、閉じるとクラッチが切れて変速できるという仕組みなのだ。

 

ボディのあちこちに60年間の知恵、ノウハウが詰まっている

燃料タンクはシートの下にあるので、給油時はシートを跳ね上げて行う。シートはどうやって固定しているのかチェックしたら、裏に付いているゴムの吸盤を、タンク側の出っ張りに引っかけていた。昔からこの方法だという。車体のあちこちに創意工夫が散りばめてある。

 

スーパーカブは最新型でもセルモーターだけでなくキックスターターを装備している。たとえ出先でバッテリーが弱っても、エンジンを掛けて帰ってくることができる。これもまた壊れにくさ重視の証だ。

 

もうひとつ感心したのは乗りやすさだ。エンジンを低い位置に水平に置き、上にタンク、シートというレイアウトなので重心が低く、ガソリンの量が変わっても走りに影響しにくい。加えてシートと前輪を結ぶフレームはスクーター並みに低いので乗り降りがしやすい。

 

しかしそれは、つまらない乗り物であることを意味しているわけではない。50ccと110cc、2種類の排気量を試して確信した。エンジンは50は静かかつ滑らかだが、110はモーターサイクルらしい鼓動を伝えてくる。前述した遠心クラッチとシフトペダルを使った変速は、スムーズに走らせるにはマニュアル・トランスミッション(MT)並みのコツが必要となる。つまり乗りこなす面白さを備えている。大径タイヤで支えられた車体をリーンして曲がる走りもまたモーターサイクルそのものだ。

 

単に壊れにくくて使いやすいだけだったら、1億台は達成できなかったのではないか。実用車でありながら操る楽しさをしっかり備えているから多くの人に愛されているのではないかと思った。

 

そしてデザイン。レッグシールドからリアフェンダーにかけてのS字カーブに丸型ヘッドランプを組み合わせたカタチは、ひと目見てスーパーカブと分かる個性をものにしている。しかもこのカタチ、今回のモデルチェンジで復活したものだ。海外向けには角形ヘッドランプにスマートなスタイリングの従来型が国外で作られる。日本のモビリティとしては珍しい、伝統を受け継いでいこうという動きも見せているのだ。

 

来年でデビュー60年なのに現役の実用品として立派に通用し、趣味的な面で見ても満足できるデザインと走りを備えている。このバイクの生みの親でもある本田宗一郎氏は、やはり偉大な人物なんだと改めて思った。

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モビリティジャーナリスト

森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担...

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