【今週の大人センテンス】ムキになって“子連れ市議”を非難するのは何のため?

人間関係

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第79回 一石を投じた人に投じられる石

 

「批判があっても、現実的にこういう話が出来るってなったので、前に進むしかないと思っています」by熊本市議・緒方夕佳

 

【センテンスの生い立ち】

熊本市議会で2017年11月22日、緒方夕佳市議(42)が生後7カ月の長男を抱いて議場に入った。議長らと押し問答になり、開会が約40分遅れることに。子育てがしやすい社会にしたいという意図を込めたその行動に対して、賛否両論入り混じって激しい議論が巻き起こっている。多くのメディアが緒方市議にインタビューし、上もその中の発言のひとつ。11月29日、熊本市議会の議会運営委員会は、緒方市議に「厳重注意」の処分を下した。

 

【3つの大人ポイント】

  • 突発的な行動ではなく前々から打てる手は打っている
  • 批判は覚悟の上で子育て世代の声を伝えようとした
  • 自分の行動を「後悔はしていない」と言い切っている

 

赤ちゃんを抱っこして、議場の自分の席に座る女性議員。それを取り囲む議員のおじさんたち。報道された写真はかなりインパクトがありました。大胆な行動に出た緒方市議に対して、あちこちで批判の声や賛同の声が巻き起こっています。いつものことですけど、状況や経緯をぜんぜん知ろうとしないまま、的外れな攻撃をしている人も少なくありません。

 

騒動が起きたのは11月22日。その後、多くのメディアが緒方市議に「なぜそういう行動に出たのか」というインタビューを行なっています。、、、、……。これらを読むと、「ルールを破るのはいかがなものか」という批判に無理があることや、彼女が自分のワガママでそういう行動に出たわけではないと知ることができるでしょう。いろいろな見方はあるし、彼女の主張に全面的に賛同するわけではありませんが、私は「いいぞ、もっとやれ!」と思っています。

 

私たちは、出る杭を叩いたり、輪を乱す人に眉をひそめたり、信じていた常識を否定されると逆上したりする癖があります。自覚があって十分に気を付けていても、ちょっと油断するとそういう反応をしてしまいがち。自覚がなくて気を付けてもいなければ、絵に描いたような恥ずかしい攻撃をしてしまうでしょう。一石を投じた人に対して寄ってたかって石をぶつける光景は、しょっちゅう繰り返されています。

 

Twitterなどに書かれている彼女への批判を見ると、まず最初に「気に食わない」という感情があって、あとから批判の口実を探しているように見えるものがほとんど。専門家や評論家がいろんな理屈で彼女の行動を批判する文章を書いたりもしていますが、失礼ながら構図は同じです。そりゃ、行動にも主張にも突っ込みどころがいっぱいだし、あの行動で世の中が大きく変わるわけではありません。ただ、こんなふうに大きな議論を巻き起こし、多くの人が普段は忘れている問題について考えるきっかけになりました。

 

赤ちゃんを抱いて議会に出ようとしたのは、彼女曰く「子育てと仕事の両立に苦しむ女性の悲痛な声を可視化したかった」から。議会を傍聴する人や職員も含めての話で、「私に便宜をはかれ」と言いたいわけではありません。常に連れてきたいと言っているわけではなく、そういう選択肢が広がったら働く母親がどれだけ助かるか、という主張です。

 

そして、いきなりの行動でもありません。それまでも議会事務局などにさまざまな改善案を提案してきましたが、まったく聞く耳を持ってもらえず、子育てに対する理解のなさを痛感するばかりでした。事務局からは一貫して「個人でどうにかしてください」という答えが返ってきたとか。の取材に対して、緒方市議はこう答えています。

 

「子育てはみんなでするものなのに、親だけの責任と思われてしまう。子どもを育てているのに、まるで育てていないかのような働き方を要求される。こういうことが親の負担になって虐待などの社会問題に繋がったり、少子化を進めているというのに、個人の問題として扱われてしまう現状に、おかしい、と心に湧いてくるものがありました。たくさん寄せられる子育て世代の悲痛な声を、いい加減聞いてほしいと思いました」

 

このままでは何も変わらないと思った彼女は、意を決して行動を起こしました。バッシングを受けたり、周囲にいる偉そうなだけで頭が固い「おじさん議員」たちの圧力や意地悪と戦ったりするのは、さぞ辛いことでしょう。しかし、同じ記事の中で、こうも言っています。

 

「議長から『両立の仕組みを考えていきます。環境作りを行っていきます』と公言してもらっただけでも前進でした。批判があっても、現実的にこういう話が出来るってなったので、前に進むしかないと思っています」

 

この騒ぎがなかったら、熊本市議会が子育て中の母親について考えたり、状況が少しでも前進したりすることはなかったでしょう。のインタビューでは「自分の行動について『後悔しているかどうか』と問われれば、後悔はしていないです」とも。いろんな逆風に負けずに、引き続き突き進んでほしいものです。

 

黒人差別が色濃く残っていた1950年代のアメリカで、白人専用の席に座って逮捕された黒人女性。1977年に路線バスでの車椅子障害者に対する乗車拒否に抗議するため、強引にバスに乗り込んだりバスの前に座り込んだりした障害者たち。1974年に世界で初めて子連れで議会に出席し、授乳もしたデンマークの女性市議会議員。こうした人たちが「常識外れの行動」をしたから、世の中は変わることができました。

 

彼女の行動に対して、揚げ足を取ったり、理屈をくっつけて「間違っている」と責めたりするのは簡単です。ムキになって非難することで、既存の「常識」や「良識」の側にいることを自覚するのは、さぞ気持ちいいだろうし、さぞ安心できるでしょう。非難しないと、自分がやって来たことが否定された気になる人もいるかもしれません。「こんなことが言えるオレのほうが頭がいい合戦」で快感を覚えたい方は、どうぞがんばってください。

 

「何が正解か」という話をしても、結論は出ません。それよりも気にしたいのは、上のような「常識外れの行動」に対して、したり顔で「ルール違反はよくない」「常識を守れ」と言う側になるか、そういう態度に違和感を覚える側になるか。あるいは「自分も苦労したんだからお前も苦労しろ」とか「昔はこのぐらい当たり前だった」と言うか、そうじゃないか。最初に書いたように、人は油断すると前者になる習性がありますが、自分としてはできる限り後者を目指したいと思っています。いや、人様に押し付ける気はありませんけど。

 

緒方市議のお名前は今回の騒動で初めて知って、どういう方なのかは存じ上げません。でもとりあえず、力を込めて「いいぞ、もっとやれ!」とエールを贈らせてください。出る杭が打たれない世の中になってほしいという願いを込めて、そして、常識に縛られて安住するという甘い誘惑を振り切るために。

 

【今週の大人の教訓】

非難する側も応援する側も、理由や理屈はしょせん後付け

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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