ラブホテルの最上階を月30万円で借し切って住むデリヘル嬢、マカオに派遣され2週間で200万円を稼ぎ、中国人の“パパ”をつかまえる高級コールガール…“自分につけられた値段”で稼ぐオンナたちの実情

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ダ・ヴィンチニュース

(鈴木涼美/講談社)

本書を読んでいると、日本中の女性が“自分自身”を資本にバリバリ音が鳴るほど稼いで、湯水のようにお金を使っているように思えてくる。

 

鈴木涼美著『オンナの値段』(講談社)に登場する女性たちは、ハイブランドのバッグや靴、ブランド品でなくとも今シーズン流行りの、でも来年は絶対に着ることのない衣服、または終わることのない美容整形、ホストの記念日に立てるシャンパンタワー……といったものに何十万、何百万という大金をつぎ込んでいく。

 

高支出をするには、高収入が必要である。タイトルにある通り、彼女らはオンナとしての自分につけられた値段でもって稼いでいる。職業でいうならキャバ嬢、デリヘル嬢、ソープ嬢、AV女優…と、ある種“わかりやすい”ものばかりだが、その実態は私たちが思っているよりずっと多様で、また複雑化しているという。

 

高級コンパニオンとしてマカオに派遣され2週間で200万円を稼ぎ、そこで中国人の“パパ”をつかまえて呼び出されるたびにパスポートを手に海をわたる高級コールガール。自分の取り分を多くするために箔をつける目的でAVに出演するソープ嬢。ラブホテルの最上階を月30万円で借し切って住まい、仕事が入れば24時間いつでもそこから出勤するデリヘル嬢。彼女の月収は250万円をくだらないという。若さと美貌をあますことなく活用する彼女らのプロ意識たるや! と思いきや、スペック的にはさほど褒められたものがないうえ、ゆる~く働いているだけなのに、高額を支払う常連客を切らさないソープ嬢もいる。本人はそれを「たまたま」と言っているそうだ。

 

著者も高校生のときに、女子高生が身につけた下着や唾液、尿を価値あるものとみなす男性たちにそれらを販売する「生脱ぎブルセラ店」でパンツを売り、学生時代にはクラブやラウンジでアルバイトをし、AV女優としてデビューもし、オンナに値段がつけられる世界のど真ん中を生きてきた。

 

日本中の女性がそんな稼ぎ方、使い方をしているように見えたとしても、それはただの錯覚だ。高額を稼ぎ、高額を使うというのはそれだけエネルギッシュな行為であり、全篇にわたってそのことがつづられている本書にはそのエネルギーの源泉となる“磁場”のようなものが発生している。読む者はその渦に巻き込まれ、まるでそれこそが普遍的であるように錯覚させられる。

 

冷静に考えるとそんなことは決してない。オンナに値段がつけられるのは今にはじまったことではなく、長い歴史において女性はそのことでさまざまな不利益や差別を強いられてもきたし、それは今でも終わっていない。ゆえに筆者はオンナの値段に振り回される働き方、生き方とはできるだけ無縁でいたい。だからこそ登場する女性たちに対して「今は若いからいいけど、このままでは将来が不安」と言いたくなる。でも、そんな老婆心がおよそたどり着かないところで生きている女性たちの、身ひとつで稼ぎ、稼いだぶんだけ使うパワフルで刹那的な生き方になぜか惹きつけられもする。

 

それは無縁でいたいと願いながらも、結局は無縁でいられないからだろうか。オンナであることをウリにしたくない、逆にオンナであることを理由に仕事を制限もされたくない。女性であることは活かしたくとも、オンナとしては仕事をしたくない。

 

と日ごろから思っているにかかわらず、かつて地方都市の熟女デリヘル店で働く女性を取材したとき、アラフォーである筆者より年上の女性たちの収入を聞いて衝撃を受けた。家庭の事情や離婚後のシングル生活を支えるためにその仕事を選択した、それまで性風俗店で働いた経験はまったくない女性たちだった。同書に登場する若きデリヘル嬢やソープ嬢が稼ぐ額と比べるとたしかに小さい。けれど、職歴のない中年女性がお金を稼ごうとしたときに行きあたる壁を考えると、十分すぎるほど高収入だった。ぶっちゃけていうなら、そうと知ったときに感じたのは、悔しさではなく安堵だった。もし、今の仕事で食えなくなっても、ここでなら。働く場所がなくなっても、まだオンナにつく値段で生きていくことはできそうだ。そこで「さらに上の年齢になったら」と考えても仕方がない。そのときどきにつけられた値段の範囲内で、生きていけばそれでいい……。

 

オンナの値段という価値観に抗いたいと思っていたにもかかわらず、いざとなればそこに身を委ねようとしてしまう。その価値観が張った根の深さに身震いした。個人では変えようのない価値観に対しては抗うより、受け入れる。もっというなら利用するほうが賢い。そう思う人がいるのは無理からぬことなのだと思えてくる。

 

著者は本書の冒頭で、「稼いで消費する主体としてのオンナはこの世に生まれたばかり」であり、「そんなわけで、私たち、とても不器用で迷走気味である」と述べる。だから自分たちの値段に翻弄されてしまい、狂ったように稼ぎ、使う。時代が進み、今のところ不十分な、女性が働きつづけるための環境がさらに整い、お金の稼ぎ方と使い方に慣れて器用になれたとき、オンナにつけられる値段、オンナがつける値段は変わるのだろうか。

 

文=三浦ゆえ

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