「薬を飲まないほうがよい」はホントか?

ヘルス・ビューティー

今村甲彦

「薬を飲まないほうがよい」はホントか?

以前、当時の日本薬剤師会会長(児玉孝氏)が書いたセンセーショナルな記事がいまも話題になっているようです。

 

 

なるほど、非常に興味深い記事ですね。この記事について、かいつまんで紹介してみましょう。

 

●クスリは「毒」である

現代の西洋医学におけるクスリというのは、人工的に作られた化学合成物質ですから、身体の中にはもともと存在しないものであり、「毒」と言ってもいい。できれば飲まないほうが良いものなのです。

 

副作用はどんなクスリにも必ずあるのです。漢方薬も、生薬の中に化学合成物質と同じ有効成分が含まれているからクスリとされるのであって、副作用はある。

 

●飲んでも病気は治らない
「病気を治せないクスリ」もあるということです。風邪薬や、高血圧、糖尿病といった生活習慣病のクスリなどが代表的ですが、これらは症状を抑えるものであって、病気を治すクスリではありません。

 

超高齢社会の到来に伴って、外科的な処置よりも体に負担が少ない内科的治療を選ぶ人が増え、クスリの消費量はさらに増加していくでしょう。ですが、高齢者はとくにクスリの飲みすぎに気をつけてほしいと思います。

 

※『日本薬剤師会会長(児玉孝氏)が決意の告白「患者よ、クスリを捨てなさい」』(現代ビジネス)より一部を抜粋して引用

 

では、この記事について検証してみます。

 

■「薬は『毒』である」というのは本当か?
「ジギタリス」という植物は、強心作用のある「ジギトキシン」という成分を含んでおり、「うっ血性心不全」などの心臓病に利用されています。一方、この植物は、厚生労働省が指定している「自然毒のリスクプロファイル」にも挙げられているように、「毒」でもあるのです。食用と間違えて、嘔吐や頭痛、不整脈などの中毒症状をきたす人も存在します。

 

「ペニシリン」という抗生物質も、もともと「アオカビ」の培養液から精製したもの。「カビ」というと「毒」のイメージが強いかもしれませんが、カビの中には醤油やみそ、チーズなど有効に利用できるものがあります。もちろん、良い点だけではなくペニシリンにも副作用が存在します。アレルギーによるショックや腎不全などをきたすことがあるのです。

 

児玉氏が主張する、「よく効くクスリの多くは副作用のリスクも高いということも知っておいたほうがいいでしょう」というのは事実です。医療機関で処方してもらわないと手に入らない薬があるのは、効果が強い薬は副作用のリスクも高いため、簡単にドラッグストアで手に入らないようになっているからです。「薬は『毒』である」というのは言い過ぎですが、「『毒』にも『薬』にもなる」とは言えるでしょう。

 

 

■「飲んでも病気は治らない」というのは本当か?
コレマタ極端な意見ですね。治らない訳ではありません。確かに症状を抑えることしかできない病気もあります。風邪を治す薬なんてものはありません。あるのは咳や鼻水などの症状を抑える薬です。風邪で医療機関を受診しても、早く治ることはないのです。熱も免疫力を高めるのに必要なので、症状が強くなければ無理に下げる必要はありません。

 

ただし、高齢の人や免疫力が低下した人などでは、風邪をこじらせて肺炎になることもあり、肺炎には抗生物質が必要になります。結核という病気も、昔は“不治の病”と呼ばれていましたが、現在では適切に治療を行えば死に至ることはありません。適切な「病気」に、適切な「薬」を用いれば治ります。薬は使い方に注意する必要があるといえるでしょう。

 

■「薬を捨てなさい」は危険
「患者よ、クスリを捨てなさい」とは激しいタイトルですね。記事の内容とタイトルが異なっているようなので、児玉氏本人ではなく、「ライター」による脚色が入っているのはないでしょうか?

 

勘違いされていることも多いのですが、医者は薬を出せば出すほど儲かるわけではありません。薬で利益があるのは薬局ですし、薬を多く処方すれば医療報酬が減点される仕組みになっているからです。

 

薬を止めることで病状が悪化することもあるので、自己判断で「薬を捨てる」のは非常に危険な行為です。1型糖尿病の男児に、「悪霊をはらう」と称して、インスリン治療を中止させられた男児が死亡した事件は記憶に新しいところです。自己判断で薬をやめるのは危険なので、医師か薬剤師に相談しなければなりません。

 

■「情報が正確かどうか」を確かめることが大切
インターネットやテレビの情報は膨大ですが、内容は玉石混淆(ぎょくせきこんこう)です。権威あるとされる学者が発表したものでも事実と異なることもあります。テレビで「健康に良い食べ物」とされると、翌日にはその食べ物が品切れになるという事実を見ていると、誤った情報に流されやすい人が多いように思えます。

 

この記事のタイトルは、(おそらく)ライターが読者の興味を引くために煽ったものだと思いますが、記事の内容はしごくまっとうです。「薬剤師会会長が『薬を捨てなさい』と言っているから薬は飲まない」という直感的な思考ではなく、自分で考えて、科学的に正しいかどうかを理解することが大切だと思うのです。

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今村甲彦

医師。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会専門医。久留米大学病院高度救命救急センターを経て、現在は地域の中核病院で内科診療および内視鏡検査に励む。「患者さんの声に常に耳を傾...

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