「電子タバコはかっこ悪いから嫌だ」というのは、煙草をとりまく世界への愛情の裏返し

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昔々、煙草はカッコいいものだった。例えば長崎俊一監督「九月の冗談クラブバンド」の冒頭、河原に立つ男女が、1本の煙草を回し喫みして何かを弔っているシーン。ゴダールの「勝手にしやがれ」で常にジャン=ポール・ベルモンドの口元に斜めにぶら下がっている煙草、リドリー・スコット監督の「テルマ&ルイーズ」で、煙草を吸う真似をしていたテルマが本当に火を点ける瞬間、デヴィッド・リンチ監督「ワイルド・アット・ハート」の冒頭、画面いっぱいにぼんやりと光る煙草などなど、私たちは、それこそ子供の頃から、カッコいいものとして煙草に触れてきた。

 

 

■煙草はかつて「カッコいいもの」だった

 

もちろん、父親が夕食時に吸う煙草の煙は苦手だったし。道にポイ捨てする大人をバカじゃないかと思っていたけれど、それとは別に、大人になったら当たり前のように煙草を吸うのだと思っていたのだ。

 

それこそ、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジがステージで吸っているマルボロは、日本で売っているものではなく、イギリスで売っているスリムでロングタイプのものだと聞けば、イギリスに旅行に行く友人に買ってきてくれと懇願し、ジョン・ヒューストン監督の「マルタの鷹」を見て、ハンフリー・ボガードが自分で紙を巻いて作るタバコに憧れたりしていたのだ。そして、まだ当時、町のタバコ屋さんには手巻き用の紙と紙巻器が普通に売っていて、紅茶を巻いたり、その辺の雑草を乾かして巻いたり、セブンスターとハイライトのブレンドを作ったりして遊んでいたのだった。私は禁煙して以降、お茶にハマるのだけど、その時思いだしたのが、この手巻きのブレンド煙草だった。

 

フィルターのところに差し込むと、その煙草がメンソール味になるハッカ製の針みたいなのも売っていた。フィルターの無い煙草を、なるべく根元まで吸うために、煙管を使ってる奴なんかもいた。もちろん、ライターには各々が一家言あって、ジッポ派もいれば、マルマン派もいれば、デュポンやダンヒルなどのおっさん臭い方向に行く奴もいた。私は、BICの100円ライターに金属製のケースを付けて使っていたと思う。何となく、大きなライターがカッコ悪いと思っていたのだった。女の子の煙草に火を点けると、「面白いライターだね」と言われて、そこから話が弾んだりした。周囲の女性も、ほとんどみんな煙草を吸っていた時代だった。

 

女の子は煙草ケースに凝っている人が多かった。凝った煙草ケースを持っているのは、大体、女の子だったと思う。そういう私は、元々グッズ好きだから、当然ケースに入れていた。学生の頃は、コダックのポケットカメラ用ポーチを使い、それ以降は、セブンスターの懸賞で当たった、セブンスターの箱にピッタリのサイズの革のケースを使っていた。今、そのケースは、NMEという海外の音楽雑誌の付録に付いていたロックミュージシャントランプ用のケースになっている。今見ても、良くできたケースなのだ。

 

しかし、パイプや葉巻に比べると、紙巻き煙草はグッズが少ない。タバコケースにしても、本当に煙草用に作られたケースを使っている人は、ほとんどいなかったと思う。今、喫煙グッズのメーカーがピンチだというけれど、元々、それほど売れるものでは無かったのではないだろうか。まあ、ライターのメーカーは本当に厳しいと思うが、実際、煙草を止めてみると、驚くほどにライターって使い道がない。あんなにも、凝って、まるでそれが自分の分身であるかのように愛用していたのに。

 

 

■当時の、煙草をとりまく世界の面白さ

 

吉田秋生に「アカプルコ・ゴールド」という、大麻が解禁されたけれど煙草は非合法になった世界を描いた短篇マンガがあって、わはははーと笑って読んでいたのだけれど、何だか、それが笑えないくらいに煙草という嗜好は隅に追いやられようとしている。テレビや映画にも、あまりカッコいい喫煙シーンは出てこない。私たちが体験した、喫煙という行為を超えた、もっと趣味的な何かは、もはや完全に消滅したのだろう。

 

同年配のおっさん達は、「電子タバコはかっこ悪いから嫌だ」という。ブルームテックを改造して、かつての煙草的なカッコ良さを再現しようとしている友人もいる。それは、煙草という趣味の世界を守ろうとしている最後の連中なのだ。健康とかニコチン中毒とか副流煙の被害とか、そういうものとは関係なく、「煙草」というアイテムを取り巻く世界そのものを愛している連中がいる。しかし、その連中には、失われていく喫煙具を買い支えるほどの甲斐性はない。それが悲しい。せいぜい「アイコス吸うくらいなら止める」とか言うのが精いっぱいなのだ。やはり悲しい。でも、今、全面的に喫煙が流行ったとしても、当時の煙草をとりまく世界の面白さは、多分戻ってこない。それもまた悲しいけれど、本当のことだ。

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納富廉邦

フリーライター。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方などを得意とし、「おとなのOFF」「日経トレンディ」「MONOマガジン」「夕刊フジ」「ココカラ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな...

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