ナマズ登場でますます過熱する鰻、今年の土用丑の日に何が起きていたか?

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2016年7月の土用丑の日は、大きな盛り上がりを見せた。日本人は本当に鰻好きである。鰻が高くなって鰻屋で食べられなければ、牛丼チェーン店やスーパーの鰻を食べる。鰻を食べられなければ鰻味のナマズを食べる。今回は、2016年の土用丑の日を振り返り「鰻を取り巻くマーケティング」について述べたい。

 

 

■「ナマズフィーバー」で得をしたのは誰か?

 

2016年の鰻商戦の一番の話題は鰻に変わる代替品としてのナマズだろう。ナマズブームを仕掛けているのは近畿大学だ。近畿大学は2010年にナマズの養殖に成功。今年は、土用丑の日(7月29日)に、東京と大阪にある近畿大学水産研究所(以下、近大水産所)にて「近大発ナマズ重」と「近大発ナマズ蒲焼」を数量限定メニューとして提供した。

 

また近大は大手スーパー、イオンでも、店舗限定、数量限定、発売日限定で「近大発なまずの蒲焼」の販売を行った。半身で1500円と鰻と比較しても決して安いとは言えない価格ながら、ニュースなどで注目され、大きな話題となった。

 

近大水産所にしても、イオンにしても、ほんの一部の消費者しか口にすることは出来なかったナマズ。まだ研究段階にあり、鰻の代替品として一般的になるまでには、まだまだ時間がかかる。したがって今回のナマズフィーバーは、近大の行っている研究の成果発表という意味合いが強い。近大は、鰻の絶滅を防ぐとともに、日本の食文化でもある蒲焼文化を残そうと、日々、研究を重ねているのだ。しかし、今回のフィーバーの裏には、単に研究成果の発表というものだけでなく、別の戦略が見え隠れする。それは近畿大学の大学としてのブランディングだ。

 

大学全入時代になる中、どの大学も新入生を獲得するためのブランディングには力を入れている。ロゴを刷新して大学イメージを向上させたり、ビジネスの最前線にいる経営者やメディア出演の多い人達に講師になってもらったりする大学もある。近大はナマズだけでなくマグロの完全養殖にも成功している。今回、ナマズが話題になり、近大に注目が集まったことで、近大のブランドイメージも大きく向上したのだ。

 

ちなみに、ナマズがこれだけ話題になった背景として、近年の消費トレンドである「ネタ消費」という要素がある。「ネタ消費」をわかりやすく言えば、FacebookやツイッターなどのSNSにアップした際に、リアクションが多くとれる「モノ」や「コト」を好む人達が多くなったのだ。見た目が普通の美味しい料理よりも、美味しさは普通でもビジュアルインパクトのある料理の方が好まれる。ナマズ重や蒲焼は、ほとんどの人が食べたことがないという点で「ネタ消費」の格好の材料という側面もあったのだ。

 

 

■鰻メニューに力を入れるスーパーや牛丼チェーン

 

「鰻が高くなった。鰻がなかなか食べられなくなった。」という声をよく耳にするが、実際には、鰻を食べることができる場所は増えている。スーパーや牛丼チェーン店をご覧いただきたい。

 

日本中の多くのスーパーでは、土用丑の日が来ると、POPなどで売場を作る。土用丑の日は、江戸時代に平賀源内が考え出したプロモーションであり、盛り上がるのは今に始まったことではない。しかし、ここ最近では、土用丑の日とは関係なく、鰻売場が常設されている店舗も多くなっている。また少し前まで、スーパーでは中国産の鰻が販売の中心であったが、今は鹿児島産など九州を中心とした国内産の鰻も多く並べられるようになっている。美味しい鰻を簡単に口にできる機会は広がっているのだ。

 

牛丼チェーン店を見ると、すき家は「うな丼(並盛780円)」「うな牛(並盛880円)」「うな玉丼(並盛840円)」、吉野家は「鰻重(一枚盛750円)」、なか卯は「うな重(790円)」「特うなまぶし(1290円)」など鰻メニューを積極的に販売している。牛丼チェーンだけでなく回転寿司チェーンのくら寿司も「すしやのうな丼(680円)」などを販売。寿司屋でありながらうな丼をアピールするテレビCMをオンエアしている。

 

スーパーや牛丼チェーンで鰻の販売が拡大するのには理由がある。それは、スーパーや牛丼チェーンにとって、客単価を上げることは重要だということだ。彼らにとっては、一般販売している商品より鰻を販売した方が売上も利益も大きくなる。牛丼チェーンには苦い経験がある。それは牛丼業界が低価格競争に入った結果、各社の業績が悪化し続けた過去だ。2013年頃には各社の「牛丼(並)」の価格が200円台まで下落した。2014年、各社とも低価格競争をギブアップし、高単価メニューの販売にシフトしていった。それとともに、各社の業績は改善されていったのだ。

 

スーパーをご覧いただきたい。スーパーは薄利多売ビジネスの典型例である。だからこそ、高単価商品が売れる可能性があるならば、販売強化を積極的に行いたいと考えているのだ。

 

鰻価格の高騰により、鰻屋で鰻を食べることが難しくなってきているため、スーパーや牛丼チェーン店で安くて美味しい鰻が食べられるということは消費者にとって大きなメリットになっているのだ。

 

 

■超人気鰻屋の人気はさらに加速

 

年々、価格が高騰する鰻屋の鰻。しかし鰻屋の客離れが進んでいるかと言えば、一概にそうとは言えない。昔から営業している鰻屋には常連客が変わらず通っている。また人気の鰻屋には老若男女がひっきりなしに訪れる。鰻好きの聖地と言われる池袋の「かぶと」は年々予約がとりづらくなり、現在は半年先まで予約が一杯だ。小田原近くの風祭にある「友栄」は、近くに美味しいものが多くある漁港、箱根の美食などがあるにも関わらず、人気ぶりが加速している。1時間以上の待ちは当たり前であり、午後に訪れてもすでに品切れという状況もあるほどだ。しっかりと美味しい鰻を提供している鰻屋には人は絶えない。

 

 

■ ますます加熱する鰻ビジネス

 

鰻味の養殖ナマズ、スーパーや牛丼チェーンの鰻、鰻屋の鰻。コンビニも鰻重の販売を行っている。消費者にとって選択肢が広がることはとても良いことだ。また選択肢が広がるだけでなく、鰻の盛り上がりの機会も広がっている。長い間、鰻を積極的に食べるのは、夏の土用の丑の日に限定されていた。しかし、実際に土用丑の日は夏だけではない。高単価商品としての鰻を積極的に扱いたい牛丼チェーン、スーパー、コンビニなどは、夏だけでなく他の季節の土用丑の日も積極的に活用しようとする機運が高まっている。次回の土用の丑の日は10月、11月だ。ますます加熱する各業界の鰻への取り組みは、今後ますます目が離せない展開になっていきそうだ。

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マーケティングコンサルタント

新井 庸志

マーケティングコンサルタント。「ワールドビジネスサテライト」「スーパーJチャンネル」などのニュース、情報番組や「日本経済新聞」「日経ビジネス」「財界」「宣伝会議」など、新聞、雑誌での執筆多数。経営から...

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