なぜ平昌五輪もF1日本GPも“微妙な時間”から始まるのか?

車・交通

 

平昌五輪で行われたスキージャンプの男子ノーマルヒル2回目は、23時15分(韓国と日本は時差がない)から競技が始まった。「なんでこんなに遅いの?」と思ったが、似たような思いをどこかでしたことがある……。


F1だ。ヨーロッパ大陸で開催されるF1レースは日曜日の14時スタートと相場が決まっていた。ところが、「フライアウェイ」と呼ぶ(ヨーロッパから見た)遠征戦では事情が異なる。ヨーロッパの人たちがテレビで視聴しやすい時間帯を考慮してスタート時刻が設定されるのだ。


例えば、開幕戦として定着しているオーストラリアGPは3月にメルボルンで開催されるが、2007年のスタート時刻は14時だった。ヨーロッパ大陸で行うレースのスタート時刻と同じである。ヨーロッパ大陸との時差は10時間で、メルボルンでレースがスタートするとき、ヨーロッパ大陸では朝の4時である。ライブでテレビ観戦するにはなかなか酷な状況である。


そこで、2008年にはスタート時刻を15時半にし、2009年には17時にした。09年の場合は日曜日から夏時間に切り替わっているので、ヨーロッパ大陸では朝8時である。レースを楽しむにはもう少し遅い方がいいだろうが、朝4時よりはマシだ。


オーストラリアは南半球にあるので、F1の開催は夏の終わり。まだ日は長く、日没は19時半頃である。とはいえ、レースが終わる頃には薄暗くなる。14時スタートならレース後に「街に繰り出してごはん食べに行こう」という気分になりそうなものだが(サーキットから街まで近くで便利なのだ)、17時スタートではそういうムードになりにくい。ヨーロッパでテレビ放映を楽しむ人にはいいかもしれないが、現地観戦組のことを考えたスタート時刻とは言えなかった。

 

 

 

■シンガポールGPでナイトレースを行う本当の理由

 

 

F1初のナイトレースを実施したシンガポールGP。昼間の酷暑を避けるというのが表向きの理由だが…

2008年9月末に初開催されたシンガポールGPは、F1初のナイトレースとして開催された。赤道直下に位置するシンガポールは日中の気温が30度を超えることが珍しくなく、夕方にスコールに見舞われることが珍しくない。ドライバーにとっても観客にとっても過酷な環境であることに違いなく、日中の開催を避けて夜間にレースを行うのは理に適った判断ではある。


だが、ナイトレースとした真の理由はやはり、ヨーロッパでテレビ中継を楽しむ人たちへの配慮だ。シンガポールGPのレーススタート時刻は20時である。ヨーロッパ大陸では14時、イギリスでは13時で、テレビ観戦するには大変都合がいい時間帯に放送される。

 

幻想的な雰囲気のナイトレース。観客へのアピール力は高いが、ドライバーへの負担は大きい


人工照明のもとで行われるシンガポールGPのナイトレースは、それ自体が魅力のひとつとなっているので、観客に対するアピール力もありそうだ。だが、ドライバーには負担である。例えば、金曜日のフリー走行2回目は23時に終わる。


そこからブリーフィングをこなしてホテルに戻ったら夜中だ。朝たたき起こされては体がもたないので、無理矢理ヨーロッパ時間に合わせて生活するのが通例である。平昌オリンピックで夜遅くに競技するアスリートたちも、シンガポールでのF1ドライバーと同じようにコンディションを整えるのに苦労していることだろう。

 

 

 

■日本GPでもヨーロッパのTV視聴者を意識

 

フライアウェイのGPであっても、常にヨーロッパのTV視聴者を意識した運営が求められる


フライアウェイの一戦である日本GPも例外ではなく、スタート時刻はヨーロッパのテレビ視聴者のために調整された。10月12日に開催された2008年のスタート時刻は13時半(ヨーロッパ大陸は朝6時半)だったが、2009年に14時になり、2010年には15時に変更された。この時期の日没は17時半頃である。


2014年の日本GPは悪天候だったこともあり、始まった頃から薄暗かった。加えて、激しい雨がドライバーから視界を奪った。視界の悪さだけが原因ではなかっただろうが、レースで重大なアクシデントが発生し、ドライバーの命を奪うことになってしまった。このアクシデントを受け、2015年の日本GPは14時スタートに変更された。また、オーストラリアGPのスタート時刻も1時間早められ、16時になった。ヨーロッパ偏重による弊害を反省した対応だ。


2018年は再び、全レースのスタート時刻が遅くなる。「なんだ懲りてないのか!」と早合点してはいけない。


14時ちょうどだったり15時ちょうどだったり、0分にレースをスタートしてしまうと、XX時ちょうどに放送を開始する場合に都合が悪い。放送を開始した途端、レースが始まってしまうからだ。そこで、すべてのレースを「XX時10分」スタートに変更し、スタート前に「前フリ」が行える時間を与えようというのである。


さらに、テレビ視聴者の動向を調査した結果、(とくに夏は)午後の遅い時間の方が視聴してもらいやすいことがわかった。そこで、ヨーロッパで開催されるレースはスタート時刻が1時間遅らされることになった。ヨーロッパ大陸でのスタート時刻はこれまで14時ちょうどだったが、2018年は15時10分スタートになる。イギリスGPは14時10分スタートだ。


いずれにしても、F1がテレビの視聴者(とくにヨーロッパの)を意識していることに変わりはない。
 

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モータリングライター&エディター

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『トヨタ ル・マン...

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