バーガー市場の“飲料勢力図”を塗り替えるか?「サントリー黒烏龍茶#濃いめ」×「ハンバーガー」という挑戦

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出典:「」公式サイトより

公私を問わず、食べる量や回数の多い身としては、いつもトクホや機能性表示食品には、たいへんお世話になっております。名前を挙げるならヤクルトにヘルシア緑茶、黒烏龍茶、からだすこやか茶に胡麻麦茶、そして特茶シリーズ……。最近ではセブンプレミアムの「そのまま飲める炭酸水プラス」(セブン&アイグループとアサヒ飲料の共同開発)や昨年に機能性表示食品の仲間入りをした「カゴメ野菜ジュース」など、数え上げたらきりがありません。

 

さて先日、日本マクドナルドが特定保健用食品――トクホ飲料の「サントリー黒烏龍茶#濃いめ」の販売を開始しました。サントリーも、CMや黒烏龍茶公式サイトで「黒 LOVES BURGER」「ファストフードに恋してる」というキャッチコピーとともに「ハンバーガーマン」なるキャラクターを登場させ、相性のよさをアピールしています。

 

もっとも最近では「トクホ」は医薬品ではなく、明確な「効果・効能」を謳うことのできない「食品」だという認識も世間に広まってきました。「特定保健用」というマクラはついているものの、あくまで「食品」であり、明確な効果・効能を謳うことはできません。

 

実はこうした線が明確に引かれることになったのは、それほど昔のことではありません。分岐点は、クエン酸の薬効の表示をめぐって争われた通称「つかれ酢(ず)」裁判。1982年に最高裁で結審した判決の骨子は次のようなものでした。

 

①人体に対して有益無害な成分が含まれている「食品」は、疾病の診断、治療または予防に使用されることが目的とされる「医薬品」ではない。②そうした「食品」を、高血圧や糖尿病などの疾病によく効くなどと説明・宣伝をして販売してはならない。要するに「医薬品の要件を満たしていない『食品』が効果・効能を明示することはまかりならん」という話です。

 

「健康」の概念は、この数十年で大きく変わりました。戦後から1960年代頃までの「健康」は「栄養不足や衛生環境による疾病の有無」がひとつのものさしでしたが、高度成長期以降は「成人病(現在の生活習慣病)の程度」が「健康」のものさしに。それに伴い「紅茶キノコ」のような薬効の証明されていない「食品」が「高血圧などに効く」と喧伝され、ブームになりました。1970年代は、まだまだ牧歌的だったのです。

 

そして時代は変わります。上記の「つかれ酢」裁判が結審した2年後の1984年、当時の厚生省は「無承認無許可医薬品の指導取締りの徹底」を打ち出します。チラシなどの販売資料に薬事法違反がないか調査を徹底させ、その一方で規制の緩和にも手をつけます。

 

イソップ寓話の「北風と太陽」よろしくアメとムチ作戦を発動させ、医薬品にのみ認められていた栄養表示の門戸を食品にも開きました。1984~1986年、当時の文部省主導で東京大学のチームによって「食品機能の系統的解析と展開」という機能性食品の特定研究が行われます。

 

そこで「食品の機能」には3つの働きがあるという提言がなされました。一次機能(栄養機能)を「生命維持のための栄養面の働き」、二次機能(感覚機能)を「味や香り、美味しさなど他人と共有できる味覚・感覚面の働き」、三次機能(体調調節機能)は「生体の生理機能を調整する働き」。

 

この「三次機能」を持つ食品が「生活習慣病の一次予防のはたらきを持つ機能性食品」と定義されます。当時あまり浸透していなかった「予防医学」的観点から食べ物を捉え直すという潮流が生まれました。そして1991年、特定保健用食品の制度が定められ、"お墨付き食品"が世の中に送り出されることになるのです。

 

印象的な「トクホ」アイテムのブレイクは2003年の健康増進法施行にタイミングを合わせて発売された「ヘルシア緑茶」(花王)でしょう。関東甲信越のコンビニ限定で売上を伸ばし、翌年には全国発売。2006年には「サントリー黒烏龍茶」が発売され、その後もさまざまなトクホアイテムが発売されました。

 

さて話を先のハンバーガー×黒烏龍茶の話に戻すと、実は今回、マクドナルド以外の他のバーガーチェーンも扱いを始めています。各チェーンは「ヘルシーな(イメージでハンバーガーがすっきり食べられる)黒烏龍茶」というアイテムを手に入れ、集客へとつなげる効果も期待できます。

 

サントリーにはさらなる深謀遠慮が窺えます。「サントリー黒烏龍茶#濃いめ」が展開されているのはマクドナルド(約2900店)、モスバーガー(約1350店)、ケンタッキー・フライド・チキン(約1140店)、ロッテリア(約360店)など。バーガーチェーンの店舗数1位から4位までを網羅し、実に国内の8割以上のハンバーガー店で扱われることになりました。大手バーガーチェーンがこぞって「サントリー黒烏龍茶#濃いめ」の販売を始めた形になっています。

 

これまで「ハンバーガー」に合う食べ物といえば、イメージとしてはアメリカ由来の「コーラ」の独壇場でした。しかし健康意識という追い風を味方にバーガー市場に風穴を空けられれれば、業界の飲料勢力図は一気に変わります。油っこいイメージのあるハンバーガーに対して、「食後の血中中性脂肪の上昇を抑え」「ゴクゴク飲みやすい」という黒烏龍茶が展開するスペックはピタリと合う。そうしてイメージを定着させるには、多面的に展開するのがもっとも効果的。さらにバーガーチェーンでしか手に入らない「#濃いめ」という希少性――。

 

50年前の日本では飲む人などほとんどいなかった「烏龍茶」を一般的な飲料にまで押し上げたサントリー。コーラ×ハンバーガーという"黒船"文化に対する、黒烏龍茶の挑戦は日本のバーガー市場における独自の食習慣を切り拓くのでしょうか。

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フードアクティビスト

松浦達也

フードアクティビスト/編集者&ライター 『dancyu』などの食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでの食トレンド...

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