【今週の大人センテンス】鬼を成敗した桃太郎に小倉優子が抱いた疑問

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写真:アフロ

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第89回 「当たり前」を疑うという勇気

 

「私は、鬼退治じゃなくて、話し合ってほしいんですよ、鬼と」by小倉優子

 

【センテンスの生い立ち】

2018年3月6日に放送された「踊る!さんま御殿!!」(日本テレビ系)で、桃太郎の話題が出た。その際にタレントの小倉優子が、「私は、鬼退治じゃなくて、話し合ってほしいんですよ、鬼と」「どう(子どもに説明)すればいいのかわからない」などと発言。いきなり鬼と戦って暴力で成敗してしまう桃太郎の姿勢に疑問と違和感を示した。小倉の発言に対してネット上では、「めっちゃわかる」「素晴らしいなって思った」と称賛する声もあれば、「鬼なめすぎ」「ぬるすぎる」と批判する声もあるなど、意見と評価が分かれている。

 

【3つの大人ポイント】

  • 昔からの「常識」を疑って自分なりの意見を表明した
  • 相手が「悪」なら何をしてもいいわけではないと主張
  • 違う立場に立って考えてみる大切さを教えてくれた

 

小倉優子が「こりん星」からやってきてから、早16年。語尾に「~りんこ」を付けて話す「りんごももか姫」は、その後結婚したり出産したり夫に不倫されて離婚したりなどさまざまな人生経験を重ねます。34歳になった現在は、ママタレとして大活躍。「こりん星」云々は本人も周囲も視聴者も忘れたフリをしていますが、どこか浮世離れした雰囲気や、意外な発言で場をかく乱する爆発力には、ますます磨きがかかっています。

 

3月6日の「踊る!さんま御殿!!」(日本テレビ系)でも、持ち前の“小倉優子力”が炸裂しました。昔話の桃太郎の話題になり、司会の明石家さんまが動物を食べ物で釣って家来にしているところに違和感を覚えると話すと、彼女も「わかります」と同意。さらに続けて、桃太郎というお話の根幹を揺るがす爆弾発言が飛び出しました。

 

「なんか、日本の昔話ってそういうことが多くって。桃太郎もね、鬼ヶ島に行くじゃないですか。私は、鬼退治じゃなくて、話し合ってほしんですよ、鬼と。だからもう、『悪いことはしちゃいけない』『君はどうしたいんだ?』と言うの。カチカチ山とかも酷いじゃないですか? どう(子どもに説明)すればいいのか分からない」

 

桃太郎は時代や地域によって、微妙にストーリーが違います。メジャーなのは、村人を困らせている悪い鬼たちが鬼ヶ島にいて、桃太郎が犬や猿やキジといっしょに乗り込んで退治し、鬼たちがため込んでいた財宝を持って帰るというもの。鬼が具体的にどんな悪事を働いていたのか、持って帰った財宝は元の持ち主に返したのか、そのあたりは多くの絵本ではいまひとつはっきりしません。

 

言われてみればたしかに、鬼にしてみたら桃太郎たちは、いきなり攻め込んできた「侵略者」であり「略奪者」という一面もあります。仮に悪事を働いていたとしても、いきなり暴力に訴えるというのはちょっと野蛮な話です。番組でも出演者のFUJIWARAの藤本敏史が「その前に悪いことしてるやんか」と突っ込みましたが、小倉は「いくら相手が悪いことをしたって、自分が同じように悪いことをしていいかっていったら、やっぱりね」と反論しました。

 

勇ましいことがカッコイイと思っているシンプルなタイプの方々を中心に、彼女の発言を批判する声も巻き起こっています。「鬼」という「悪」を成敗して何が悪い、という前提なのでしょう。物事の善悪を自分で考えることを放棄し、世の中の風潮や偉い人のご意向に自分を合わせる発想しかない場合は、それが妥当な結論なのかもしれません。いっぽうで彼女の発言を称賛する声も、批判に負けない勢いで巻き起こっています。

 

昔話に対して、私たちはいちいち疑問を抱いたりせず、当たり前のもの、そういうものとして受け止めがち。しかし彼女は、昔からの「常識」を疑って、自分なりの疑問や意見を表明しました。そして、相手が「悪」なら何をしてもいいわけではないと主張しています。どちらも、言えそうで言えないし、取れそうで取れない勇気あるスタンスと言えるでしょう。今回の発言のおかげで、視点を変えて「そういえば、鬼にとっては迷惑な話だよな」と思うことができました。結果的に、違う立場に立って考えてみる大切さも教えてくれています。

 

桃太郎のお話は、もともとは室町時代に発生して、江戸時代以降に広まったというのが定説。明治時代の後期に教科書に採用されて、当時の軍国主義を背景に、こっちから見た「悪」を勇敢に成敗する象徴として賛美され、メジャーなヒーローになりました。太平洋戦争中には桃太郎の設定を使って、国産初の長編アニメ『桃太郎の海鷲』などが製作されています。だからといって、桃太郎を軍国主義とことさら結び付けてケシカランと責めるのは、さすがにイチャモンかも。桃太郎に悪意や何らかの意図があったわけではありません。

 

福沢諭吉も我が子に伝えた家訓の中で、桃太郎に疑問を呈しています。桃太郎が鬼ヶ島に行ったのは宝を奪うためでケシカラン。桃太郎は盗人と言うべき悪者である。鬼が悪いヤツで世の中に迷惑をかけていたとしたら、それを懲らしめるのはいいけど、宝を持ち帰っておじいさんとおばあさんにあげたのは、ただ欲のためで卑劣千万である。などなど、かなり厳しい言葉で非難しています。鬼に自動的に悪者のレッテルを貼って差別したりしないところが、さすが「天は人の上に人を~」と言った福沢諭吉だけのことはありますね。

 

小倉優子の意見をどう思うにせよ、あくまで架空の昔話を題材としたひとつの考え方です。ムキになって批判したり、逆に目を吊り上げて熱い支持を表明したりするようなことではありません。「そういう考え方もあるよね」と面白がるのが、大人として有益なスタンスであり、いろんなものに縛られて自分を窮屈にしない防御策と言えるでしょう。その昔、彼女が言い張っていた「私はこりん星から来た」という主張(設定)を半笑いで聞いていたときのような、大らかでゆるい気持ちで受け止めるぐらいがちょうどよさそうです。

 

 

【今週の大人の教訓】

「怖い鬼」を作り出しているのは自分の中の疑心暗鬼だったりする

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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