【今週の大人センテンス】「恋愛の教祖」のユーミンが語る夫婦円満の秘訣

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出典「」公式サイトより

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第91回 過激な言葉が伝えている真理

 

「誤解を恐れずに言うと、服従は支配だって思ってるんですよ」by松任谷由実

 

【センテンスの生い立ち】

NHKの人気情報番組「あさイチ」。3月23日の「プレミアムトーク」のゲストは歌手の松任谷由実。生放送のトーク番組は「タモリさんのお昼の番組以来26年ぶり」というユーミンが、創作の秘密や日々の思いを率直に語った。視聴者にひときわ強いインパクトを与えたのが、夫である松任谷正隆との関係についての表現。「服従は支配」「尽くしまくったほうが懐柔できる」など、本人が前置きしているように誤解を招きそうな表現で持論を語った。

 

【3つの大人ポイント】

  • 「えっ!」と感じる大胆な表現で別の視点を提示した
  • 表面的なことにこだわる無意味さを暗に語っている
  • 新しいアルバムへの興味をきっちりかき立てている

 

たしかに、誤解を招きそうな表現です。しかし、そこはさすがユーミンの貫禄というか説得力というか。ネットの反応などを見ても、言葉を表面的にとらえて「男尊女卑だ!」「男性に服従することを肯定するなんてケシカラン!」とトンマに怒っている声ほとんどありません。言葉尻をとらえて噛みつくのが好きな人たちも、さすがに「これに噛みついたら、噛みついた側がバカに見える」ということは察知なさったようです。

 

ユーミンこと松任谷由実は、今年でデビュー45周年。多感な時期にユーミンが登場してきた50代はもちろん、幅広い年代に計り知れない影響を与え、人生を楽しい方向に盛り上げてくれました。とくに日本の恋愛シーンや日本人の恋愛観は、もしユーミンがいなかったら、まったく違うものになっていたでしょう。

 

この言葉が飛び出したのは、今月いっぱいで司会者の交代という大きな節目を迎えるNHKの情報番組「あさイチ」。毎週豪華なゲストを迎える金曜日の「プレミアムトーク」のコーナーに、生放送のトーク番組にはめったに出ないユーミンが登場しました。4月11日に発売される3枚組ベストアルバム「」の宣伝という意味合いがあったにせよ、視聴者にとってはありがたい話です。ライブ映像もたっぷり流れて、朝から贅沢で豪華なものを見せてもらいました。

 

トークは生い立ちから始まって、創作の秘密、日々の生活、自分で選曲した新しいアルバムについてなどを経て、デビューのころの話題へ。司会の有働由美子さん(あっ、こっちもユーミンですね)からの、男社会の中で女性としての苦労はなかったか、という質問に対して、ユーミンは「音楽の世界では、それは関係なかった」と答えます。そこから話は、夫である音楽プロデューサー・松任谷正隆さんとの夫婦関係へ。

 

「主人との関係とかで綱引きはありますけど。誤解を恐れずに言えば、服従は支配だって思っているんですよ。折れるところは折れちゃったほうが得。尽くしまくったほうが、懐柔できることがあります」

(それは正隆さんはわかってらっしゃるんでしょうか)

「わかっているかもしれませんね」

 

こんなやりとりがありました。もちろんユーミンは、男性優位の価値観を前提に「上手に男をころがすのが利口な女よ」といった現実的な処世術を語っているわけではありません。ましてユーミン夫妻が、支配と服従という共依存の関係にあると言っているわけでもありません。ふたりの人間が対等の立場で長く円満に暮らしていくには、自分を主張するばかりではなく、譲ったり譲られたりすることが必要だし、表面的な接し方と関係性とはまた別の話だと言っています。

 

ユーミンの言葉が当てはまるのは、夫婦関係だけではありません。「服従」や「支配」というインパクトの強い言葉を使うのは大げさとしても、どんな人間関係においても、表面的な接し方と関係性が別の話という点は同じです。時には相手の言うことを素直に聞いたり自分の主張をひっこめたりしたほうが、関係や状況がよくなってお互いの幸せにつながるケースは多いでしょう。物騒な意味での「服従」「支配」「尽くす」という状態に敏感になる必要があることは当然ですが、真意を汲み取らず言葉自体に噛みつくのは的外れです。

 

ユーミンは45年にわたって、たくさんのメッセージを歌に込めてきました。もっとも多くテーマにしてきたのは恋愛、つまりは男女の関係。そこには、さまざまなニュアンスが描かれています。ユーミンの歌のおかげで、男性も女性もお互いに関して「わかったこと」「感じられるようになったこと」がたくさんあったのは間違いありません。あえて大胆な表現を使ったであろう今回の発言も、私たちに刺激や新しい視点を与えてくれました。

 

男女の関係も、それ以外の人間関係も、言葉で明確に言い表せない微妙なニュアンスに満ちています。微妙なニュアンスをわかりやすい言葉(男女差別とか)に無理に当てはめるのが好きな人もいますが、それは自分の心をわざわざ窮屈にする行為だと言えるでしょう。攻撃すること自体が目的ではないなら、本当に怒るべきときだけ怒ったほうが、広い支持を得られて言いたいことがより伝わるかと存じます。いや、大きなお世話ですけど。

 

ニューアルバム「ユーミンからの、恋のうた。」は、5年前に発売されてミリオンセラーとなった「日本の恋と、ユーミンと。」に続く、ベストアルバム二部作の完結編。前作には収録されていない、ユーミン自身が選んだ45曲の「恋のうた」を聴きまくれます。懐かしい歌詞やメロディーをしみじみと味わって、歌の世界に服従してしまいましょう。迷ったり悩んだりしがちな自分自身を支配して、明日からまた強く楽しく生きていくために。

 

【今週の大人の教訓】

言葉の本当の意味は表面的な意味以外のところにこそある

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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