なぜ最近のF1は「追い抜き」が少ないのか?

車・交通

 

2018年F1開幕戦オーストラリアGPの予選で最速タイムを記録したのはメルセデスAMGペトロナス・モータースポーツのルイス・ハミルトンで、1分21秒164だった。2017年のレースで最速タイムを記録したのもハミルトンで、1分22秒188だった。1年で約1秒速くなっている。


ただでさえ速いポルシェ911をレース仕様に仕立てた911 GT3カップの予選最速タイムは1分57秒4784だった。991型911の最新版カップカーにスイッチした影響もあり、3年前に記録された従来のラップレコードを約0.5秒短縮している。全長5.303kmのコースを平均車速163km/hで周回したことになる。


一方、F1の平均車速は235km/hで、ポルシェ911 GT3カップカーとの速度差は(平均で)72km/hだ。F1と911 GT3がヨーイドンで同時に走り始めたと仮定すると、4周目の早い段階でF1は911 GT3を周回遅れにする計算になる。平均車速で72km/hも違うのだから、F1はいとも簡単に911 GT3を追い越し、あっという間に置き去りにするだろう。

 

 


■「追い抜き」をさせるためのDRSゾーン

 

2018年F1開幕戦オーストラリアGPでは「追い抜き」を演出するため、DRSゾーンを3ヵ所とした


ところがF1同士だと、そう簡単にはいかない。3月25日に行われた58周のレースで、同一周回のマシン同士で繰り広げられた真っ当な追い抜きは5回しかなかったという。セーフティカーの先導も含めてレースは1時間半だったから、平均すると、追い抜きは18分に1回しかなかったことになる。それ以外は、20台の出走マシン(5台がリタイヤしたけれども)がただ高速周回しているシーンを見せられているだけだった。


「同じところをぐるぐる回っているのを見て何が面白いの?」とは、レースに興味のない人がレースに熱を上げる人に対して発する冷めた意見の代表例である。追い抜きが1時間半に5回では、いくらF1が好きでも退屈に違いない。抜きつ抜かれつのデッドヒートこそ、レースの醍醐味のひとつなのだから。


レース中の追い抜きが少ないことにファンは不満を抱いている。そのことをF1世界選手権の興行主も自覚しているようで、オーストラリアGPではF1史上初めて、DRSゾーンが1ヵ所増やされて3ヵ所になった。


DRSとはDrag Reduction Systemの略で、「ドラッグ削減システム」と訳す。ドラッグとは空気抵抗のことで、すなわち空気抵抗を減らすシステムのことだ。リヤウイングのフラップ(前後に2枚並んだ板のうち後方の板)を動かしてメインプレーン(前方の板)との隙間を広げると、リヤウイングが機能を失って空気抵抗が減り、最高速が伸びる仕組みである。

 

 

■“お膳立て”しても「追い抜き」が増えない理由

 

現代のF1に「追い抜き」が少ないのは、空力の問題が多分に関わっている


定められた区間で前を走る車両とのタイム差が1秒以内にある場合(つまり、接近した状態にあるとき)、後ろを走る車両にDRSの使用が認められる。後ろを走る車両はDRSを使って最高速を伸ばすことができるので、前を走る車両とのギャップを一気に縮めるチャンスを手に入れることになる。


後ろを走る車両の追い抜きを手助けしてやろうというわけだ。そのチャンスが1周に2回から3回に増えたのが、2018年開幕戦のオーストラリアGPだった。ところがその甲斐もむなしく、追い抜きが劇的に増えることはなかった。確かにDRSは、前を走る車両とのギャップを縮める役には立っている。でも、追い抜くまでには至らない。なぜか?


現代のF1マシンは空力的にデリケートにできているからだ。F1に限らず多くのレーシングカーは、空気の圧力差を利用して車体を路面に押しつけている。コーナーを速く走るためだ。空気の圧力差を利用して車体を路面に押しつける力をダウンフォースと呼ぶ。フロアと路面に挟まれた空間を流れる空気や、前後のウイングを通過する空気でダウンフォースを発生させる。F1は他のカテゴリーに比べて、ダウンフォースへの依存度が高い。


先頭を走っているときはきれいな空気のなかを走っているので、本来の空力性能を発揮し、速く走ることができる。ところが、乱れた空気のなかを走ると、F1は途端に本来の空力性能を発揮できなくなってしまうのだ。水を掛けられたアンパンマンみたいに。


モーターボートが走り抜けると、その後方には激しい波が立つ。その乱れた波をかき分けて追いかける状況に似ている。後ろは圧倒的に不利なのだ。先頭を走っていたハミルトンが2番手になった途端おとなしくなったのは、乱れた空気のなかを走っている影響が大きい。乱れた空気に邪魔されて、追い抜こうにも手出しができないのだ。


オーストラリアGPはもともと抜きにくいことで評判のコースなので、たまたま追い抜きが少なかった可能性もある。だが同時に、他のコースに行っても数珠つなぎの単調なレースを見せられる可能性も否定できない。最新のF1は空気の乱れに敏感だからだ。


追い抜きを生むための対策は、ルールを統括する組織にとっての喫緊の課題である。
 

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モータリングライター&エディター

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『トヨタ ル・マン...

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